||真夏の屋上


きっかけが何かと言えば、それは私が宿題を忘れた事。
・・・というか、授業に出たくなかったからサボった。それがきっかけ。

別に何か特別なものがあったわけじゃない。
でも私たちの関係は、それだというのに誰よりも特別なものだと思う。

平凡な、・・・いや、むしろ捻くれた出会い方をした私たちの、ある夏の話。





屋上でサボるなんて、何やってるんだろう。でも午後の授業はダルかったし、なにより宿題をやってない。叱られるのが目に見えてるのに、授業になんて出たくないじゃありませんか。ねぇ?
「出たくない」から「出ない」だなんて、なんて本能に忠実なんだ私。あぁ、本日も空は晴天です。

「ん・・・」

思い切り伸びをして、空を見上げる。夏の太陽は眩しくて、それに思わず目を細める。風がとても気持ち良い。
教室では今頃、私の不在を見て取った先生が呆れている頃だろうか。頻繁にさぼるような生徒ではないつもりだけれど、今の時間は担任でもある土井先生の授業だ。特に夏は何かしら理由を見つけて授業から逃げ出す私の性格を、かの先生もきっと十分に理解しているはず。私がいない理由に大方の検討をつけ、私の評価に×印をつけているに違いない。
そこまで考えたところで、トン、という音に思考を引き戻された。振り返れば、またトン、という音と共に視界に入る丸い物体。それは何度か小さく跳ねた後に私の足元に転がり、やがて足にぶつかって止まった。拾い上げてみれば、何の変鉄もないテニスボールが手に収まる。

(・・・なんで?)

まず思ったのはそんな当り前な疑問で、小さく首を傾げた。恐らくボールが飛んできたのであろうと思う方向を見れば、自分の背丈の2倍はあろうかという巨大なタンクが目に入る。そしてそこから垂れ下がる一本の白い腕。
あ、いや、別に腕だけがぶら下がっていたわけではない。
よくよく見れば、タンクの上には誰か(たぶん男の人だと思う)が寝転がっていた。誰もいないと思っていたのだが、先客がいたらしい。

「・・・・・・」

手元にはテニスボール。視線の先には相変わらずだらしなく垂れた一本の腕。・・・持ち主は恐らく彼であろうか。
しばらく考えた末、私はひとまずこのテニスボールを相手に返してやろうという極々普通な結論に至った。私ってなんて良い人。大した善行でもないけども。・・・まぁ、本当のところを言うと、このタンクに一回上ってみたかったんだだけなんだけど。
ここは屋上だから必然的に高さはあるわけだけれど、給水タンクはその更に上だ。さぞかし良い景色が見れることだろう。
目の前のはしごに、手をのばす。ぐ、とその手に力を込める。

「・・・・・・う、わ」

はしごを上りきろうと言う時、目の前に見えたそれに、思わず感嘆の声を漏らした。透き通るような白い肌、それを飾るさらさらの銀の髪。薄く開かれた口元には黒子があり、目元は隠されている為わからないが、何故だか私はこの人を知っているような気がした。すぅ、穏やかな寝息が聞こえてくる。日差しは彼の肌に容赦なく降り注ぎ黒々とした影を作って、その対比は私の目をひきつけた。
きれい。誰が呟いたのか、そんな呟きが風に乗る。

「・・・あ、そうだ、ボール」

ふと我に帰り、手に持ったテニスボールと彼とを交互に見てから、彼の隣にそっとそれを置いた。この時間にここにいるということで私と同じサボリなのは確定だが、一体誰なのだろう。同学年だろうか。このテニスボールはどうして持っていたのだろう。もしかしてテニス部なのだろうか。

「・・・・・・」

男は何も答えない。聞いてもいないのだから、当然である。けれどその返ってこない答えになんだか寂しさを感じて、私は小さくため息を零した。
携帯を開いてみると、いつのまにか時間は驚くほどに過ぎており、授業もそろそろ終わろうかという頃合いであった。今からゆっくり歩いていけば、ちょうど担任と入れ替わりぐらいで教室に戻れるだろう。
じりじり、太陽の光は変わらず照り続けている。そろそろさすがに暑くなってきた。良い機会だし、教室に戻ろう。

「・・・あっつ・・・・・・」

屋上と違い風のない校内は、蒸し風呂のような暑さである。外とはまた違ったタイプの暑さに顔をしかめ、またため息を零した。手で一扇ぎすれば、こめかみの辺りから汗が伝っていく。

まだ夏は、始まったばかり。


――――――――――――
このサイトでの最初の作品になります。
話自体はずっと前から考えていたものなので、形にする事ができて嬉しいです。
完成目指して頑張って書いていきたいと思います。

[1/28]
[prev/next]

[一覧に戻る]
[しおりを挟む]

[comment]

[back]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -