||進まなければならない





ことが起こったのは、当日の朝のことだった。

(・・・仁王からだ)

朝早い時間帯でのメール。私はまだ目覚めたばかりだったから、寝ぼけ眼を擦りながら携帯を取った。慣れた手つきでメールを開く。そこに書かれていた文章に、目を通した。

(・・・・・・うそ)

――――――――――――
To:芽衣
From:仁王雅治

昼休み、屋上で待っとる。
――――――――――――

あまりに簡潔で、そして突然の内容。私は自分の目を疑った。

(なんで、このタイミングで?)

彼に会いたいのは山々だし、久々に会って直接話せることに嬉しくないわけはない。しかし、どうして今日なのだろうか。そこまで考えたところで、昨日電話した時に「会いたい」と弱音を漏らしてしまったことを思い出した。

(・・・気を遣ってくれたのか)

そう思うとなんだか嬉しくなって、私はこみ上げてくるなんとも言いがたい思いにゆるりと笑みを浮かべた。





「・・・香奈。ちょっと行ってくるね」
「行くって・・・、まさか」

昼休み、驚いたような顔をした香奈に笑って、私は2段飛ばしで階段を駆け上がって行った。早く会いたい、早く声を聞きたい。一歩進むたびに彼に近付いていることが嬉しくて、夢中になって階段をのぼった。

「・・・仁王っ!」
「芽衣・・・!」

扉を開けた瞬間、少し強い風が私の髪を揺らした。扉が開けたままなのも忘れて、私は給水塔のはしごをのぼっていく。そしてのぼりきった瞬間、仁王に引き寄せられて抱き締められた。

「久しぶり」
「おん、久々じゃな」

最後に一緒にいた時と温もりが全然変わっていなくて、少し安心した。仁王と付き合うことになってずいぶんと経ったけれど、私はかなり仁王に溺れていると思う。仁王の名前で埋まった受信ボックスを思い出し、抱き締める力がより強くなった。

「来んかと思った」
「まさか。私が来ないわけないじゃん」
「そうじゃな。会いたい言うとったし」
「うん。会いたかった」

ずっと近くにいて、毎日メールも電話もしていたのに、まるで遠距離恋愛でもしていたような関係だった。私は仁王の身体をきつく抱き締めながら、久しぶりのその感覚にそっと目を閉じた。

――この久しぶりの再会が、全てを壊すとも知らずに。

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