||たったひとつの願い





『会いたい』

電話に出て、開口一番に聞こえた言葉はそれだった。

朝早い時間、朝練の為に登校路を歩きながら、俺は昨夜の事を思い出して浅く溜息をついた。俺だってそんな事はもう毎日毎分思っていることで、そんな中で直接言葉にされてしまうとどうにもやるせないものがある。彼女の言葉を聞いて少し思考が停止してしまったのは言うまでもなかった。会いたい、会いたい。昨日廊下ですれ違って2週間ぶりぐらいに彼女の姿を見たが、すれ違いざまに悲しげな顔をしたのを俺は見逃さなかった。

(寂しがっとるんか、俺)

ペテン師だのなんだのと言われていた俺にしてみれば、あまりにも中学生らしい、そして俺らしくない感情。大人っぽいとか高校生みたいだとか、いくら周囲に言われたとしても結局はまだ子供なのだ。
ぼーっと上を見れば、屋上から見えるものとは少しだけ遠く感じる青空が広がっていた。もうすでに消えかけの飛行機雲も浮かび上がっていて、そういえば芽衣と付き合うきっかけになったのは飛行機雲だったなとか今更のように思い出した。すでに懐かしい記憶だ。あの頃に戻れれば良いのに。

(・・・会いたい)

繰り返しの言葉を呟いて、俺は無意識に携帯を取り出した。指は確認しなくても彼女のアドレスを選ぶ。俺は静かに画面を見つめて、彼女へのメールを打ち込み始めた。

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