||すれ違う
◇
あまり人気のない廊下だった。ふらふらと覚束ない足取りで、大して幅の無い廊下をひとり歩いて行く。今は授業の合間の休憩時間で、私は教室にいるのが嫌で学校中を歩き回っていた。仁王は今頃サボってるのかな。委員長さんが迎えに来る数学の授業だけは真面目に参加してるみたいだけど。まぁ、約束だったしね。委員長さんも、探す手間がかからなければ別に仁王がサボろうがサボるまいがどうでも良いらしい。まぁ普通そうですよね。私も今までだったらそうだったと思う。
『あの仁王雅治に彼女ができた』
この噂は今でも耐えていない。むしろ、もっと真実味をもって囁かれている。それを仁王君も当然わかっていたようで、最近はメールの頻度が少し減った。とは言ってもやっぱり恋人に会えない寂しさはどうにもならないから、家に帰るとずっと電話してますけどね。なんなんですかこの異様なラブラブっぷりは。だって仁王が電話したいって言うんだもの。私もしたいけど。
「・・・・・・ん?」
窓の方を見ながら歩いていた私は、ふと前を向いて気がついた。廊下の向こう側から、見覚えのある人物が歩いてくるのだ。あれは、恐らく・・・
(仁王だ)
仁王もこちらに気がついたのか、顔を上げて私の目を見た。少ないとは言え、人通りはちゃんとある。話しかけたり合図をしたりということはなかったけれど、それでもしっかりと私の目を見ていた。私もそれを見返す。
ほんの少し、彼の口角が嬉しそうに上がった気がした。
(・・・久しぶりに見た気がする)
メールでの交際を始めてから約2週間。遠距離恋愛でもなく、こんなに近くにいるのにどうして私は彼と直接会話をすることすら許されないんだろうか。
すれ違う瞬間、少し泣きそうな顔をしてしまったのがばれていなければ良いと、私は俯きながら思った。
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