||駆り立てられる





「ねー、モエミ聞いた?」
「聞いた聞いたー。仁王君のことでしょ?」
「そうそう、また彼女できたんだって」
「しかも超絶美人って噂だよー」
「はぁ?なに言ってんの、それガセネタだよ」
「えー、彼女できたんじゃないの?」
「そんなん仁王君に嫉妬してる奴らの流した噂に決まってんじゃん。仁王君は彼女なんてつくらないの」

ざわざわ、ざわざわ。
ただでさえうるさい教室の喧騒の中、偶然聞こえてきた会話は仁王についての話だった。ありもしない噂や事実を並べ、それを嘘なのか本当なのかと飽きる事無く騒ぎ立てる。
聞き慣れていたはずのくだらない戯言は、今の私には酷く重たく感じられた。

(仁王、ほんとに付き合ってんのかな)

つい最近付き合い始めたばかりの私たちの関係はかなり不安定で、だからそれにつけ込んで仁王が新しい恋人を作らないとも限らない。勿論そんな事はないと信じているが、そういう話を聞くと少なからず不安になってしまうのは誰だって同じだろう。

「ってか、そんな噂よりさー、仁王君が携帯ばっかいじるようになった事の方が気になるんだけど」
「あー、確かにそうかも。休憩中とかねー」
「モ○ゲーにでも嵌ったんじゃないの?」
「仁王君が? んなわけないじゃん、きっと女だよ女」
「えー、メル友ってこと?」
「そうそう。なんか携帯いじってる時嬉しそうだし」

嬉しそうなんだ。なんかそれはちょっと意外っていうか、・・・嬉しいな。
当たり前といえば当たり前だが、私は仁王が私にメールを送っている姿を見たことがない。そしておそらく、噂話の中の女とは私のことだろう。私とのメールを嬉しそうにしてくれているのなら、それ以上のことはない。

「っていうか、相手誰だよ」
「さぁ、知らない。女なのかもわかんないしー」
「もし女だったら絶対許せない!私たちの仁王君なのにさー」
「だよねー、何様のつもりって話ー」
(・・・恐ろしい会話だな)

万が一私達が恋人として堂々としていたら、一体何をされていた事か。とりあえず1週間ぐらいで別れていた事は確実だろう。
だからこそ今の関係を保っているわけだが、しかしそれでも不安はある。単純に私が彼女だという事がバレるだけでなく、仁王が浮気をするかもしれないという事だ。

(もしそうなったら)

私はその時、どうするんだろう。

「あ、そういや幸村君がさー・・・」
「えーなになにー?」

またも移り行く話題に耳を澄ませながら、ふ、と息を吐いた。
疑心と不安が、ただ私の心を駆り立てていた。

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