||幸せは訪れる





「・・・はぁ」
「どうかしましたか、仁王君」
「いや、なんでもないぜよ」

ふと漏れた溜息に、柳生が訝しげな顔をする。この紳士に誤魔化しがきかないのはわかっているが、なんでもないと言わなければこの不安と後悔に押し潰されてしまいそうだった。ただの衝動に駆られて、なぜ告白などしてしまったのだろうか。自信がないわけではないが、それでもなんでこんな。前に「告白はされる方が好き」と誰かに話していたのを思い出し、らしくないなと自嘲気味に笑った。というか、こうやってウジウジ悩んでいる事自体、俺らしくない。

「・・・すまんが、ちょっと休憩してくるぜよ」
「わかりました」

柳生はあっさりとうなずいた。状況はわからずとも、俺の心境をしっかりと把握してくれるのが嬉しい。さすがパートナーじゃな、と背を向けた柳生を見て思った。

「・・・ん?」

部室に入った直後、無機質な着信音が響いた。自分の携帯だ。部活の時間だというのに、誰だろう。

「椎名・・・?」

相手は椎名。一件のメールが届いていた。少し躊躇しつつも、メールを開く。

「・・・!!」
「む、仁王、どうし・・・・・・」
「すまん真田、ちょっと抜けるぜよ」
「仁王!?」

丁度部室に入ってきた真田の脇をすり抜け、コートを抜ける。走って走って、気がついた時には屋上への1段飛ばしに駆け上がっていた。

『部活が終わったら屋上に来て』

届いたメールに書かれた内容を、ただ一心に信じて。まだ部活終了までは30分もあるから、もしかしたら椎名はいないかもしれない。でも、何故か俺には彼女が屋上で待っていてくれているような気がしたのだ。

そっと開けたつもりが、扉はガチャリと思いの他大きな音を立てて開いた。するとフェンス傍にいた椎名が、驚いたように振りかえる。俺は無言で歩み寄っていった。自分でどんな顔をしているのかもわからない。

「・・・部活終わったら、って書いたのに」
「関係ないぜよ」

俺の言葉に、椎名が可笑しそうに笑った。それを見て、ほんの少し心が和いだ気がした。

「仁王」
「・・・なんじゃ?」
「・・・好き」
「え・・・・・・」
「これで詐欺だとか言ったら、絶交だからね?」

椎名の言葉に、小さく微笑む。その心配はない。だって俺は、おまんが・・・・・・。

「好いとぉよ、椎名」
「・・・私も」

後ろから抱きすくめてやると、椎名は擽ったそうに笑った。

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