||唐突に
◇
その翌日のこと、突然仁王から呼び出された。今すぐ屋上に来いとのことだ。丁度今から行くつもりではあったが、呼び出しとは良いご身分だ、全く。
「・・・まぁ良いか」
溜め息をついて、私は階段をのぼっていった。
「におー、来たよ」
気だるげに声をかける。しかし、返事は返ってこない。あれ、呼び出したくせにいないのかな?なんて思いながら、屋上に入る。きょろきょろとあたりを見渡す私の頭に、不意に何かがあたった。
「・・・った」
当たったのはテニスボール。振り仰ぐと、給水塔から白い手が伸びているのが見えた。いや、伸びているというか、垂れているといった方が正しいかもしれない。なんだろう、かなりのデジャヴを感じる。たぶん眠っているのだろう。と、言うことは、ボールが当たったのは単なる偶然か。
「・・・仁王?」
「・・・ん、椎名・・・・・・?」
私の声に反応して、仁王が起き上がる。仁王は大あくびを一つしてから、私の方を眠たげに見下ろした。
「おはよーさん」
「はよ。呼び出したくせに寝てるとか、随分とず太い神経してるね」
呆れたような声に、仁王は軽く笑って「世辞ならええよ」と言った。別に、誉めてなどいないのだけど。
「それで?何の用?」
「あぁ・・・・・・、そうじゃったの」
仁王は大きく欠伸をしてから、私をじっと見つめてこんな事を切り出した。
「お前さん、昨日一緒に飛行機雲見たじゃろ?」
「うん」
「そん時に言ってた、『一緒に見た男女は永遠に結ばれる』っていうのがどうも気になったんじゃよ」
「気になったって・・・私も詳しくは知らないけど」
仁王はそれにゆっくりと首を振った。どうやら、仁王が言いたいのはそういう事ではないらしい。
「・・・お前さん、ほんとにわからんのか?」
「うん。さっぱり」
「・・・はぁ。意外と鈍感じゃの」
「・・・何が言いたいの?」
「・・・俺が言いたいのは、『一緒に見た男女』って事は、俺らも含まれるんじゃないか、・・・って事じゃ」
「・・・え」
あまりに予想外な言葉に、大きく目を見開く。言われて見ればそうかもしれない。私の聞いた話では、飛行機雲を見た『男女』という風にしか言っていないし・・・。ええと、それってつまり、仁王の言うように当然私達も・・・。
「やっと気付いたんか」
呆れたように仁王が笑った。やばい、今顔真っ赤な自信がある。
「どーせお前さん、好きな人もおらんのじゃろ?」
「・・・ま、まぁ・・・・・・」
「なら、俺と付き合ってみんか?」
「・・・へ?」
「俺はお前さんのこと気に入っとるし、別にええじゃろ」
それだけ言うと、仁王は身体を起こして給水タンクから一気に飛び降りてきた。ダン、と音を立てて着地した後、こちらを見つめて妖艶に微笑んだ。
「用事はそんだけ。・・・じゃ、の」
仁王は笑って、それを最後に屋上を出ていった。バタン、という扉の音に我に返る。
「・・・嘘でしょ」
小さく呟いた声は、酷く動揺していた。
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