||盲目になる前兆





「・・・ない」

その後すぐに教室に戻った私は、直後に、携帯がなくなっていることに気がついた。可笑しい、屋上に行く前にちゃんとポケットに入れたのに。それから後は屋上にしか行ってないし・・・、まさか。

「あの、野郎・・・・・・」

ひくひくっ、と口端が引きつるのがわかった。あぁもう、ちょっと悪いことしたなとか思ってたらこれだ。油断も隙もありはしない。
私の表情に香奈がびくっとしていたが、気にせず立ち上がった。今はまだギリギリ10分休み、どうせ授業もサボる予定だったし丁度良い。面倒だがもう一度屋上に行こう。・・・あぁ、今日だけで3回目だ。

「ごめん、ちょっと行ってくる」
「いってらっしゃーい」

もう私がサボる事に勘付いていたのか、香奈はわりと普通の反応だった。笑顔で手を振る彼女に自分も返して、教室を飛び出す。途中で次の教科担任にすれ違ったけど、なぜか何も言われなかった。もしかしたら私、かなり凄い顔してたのかも。

階段を上る、上る、上る。1段飛ばしに上って行くが、私のあまり高くない身長ではそれでもキツイ。小学校の階段はあんなに低かったのに、中学校ってどうしてこんなに1段1段高いんだろう。

「はぁ、はぁ・・・、仁王っ!!」

さっきと違って息も絶え絶えだ。案の定彼はまだタンクの上にいて、私が入ってきた瞬間、待っていたとでも言わんばかりの笑顔でこちらを見ていた。ひらひらとのん気に手を振ってくる。

「来ると思っとったよ」
「携帯返せ!!」
「さぁ、なんの事かのぉ?」

ククッ、という彼の笑顔が無駄にイケメンでムカつく。殴りたい。動きに一々怒りを滲ませながら梯子を上り、仁王の隣にどかっと腰掛けた。ギッ、とキツく睨みつける。ひゅぅ、と仁王の口笛が鳴った。

「ウチの姫さんは怖いのぉ」
「色々突っ込みたいけどとりあえず黙れ」
「そう言って実は嬉しいんじゃろ?わかっとるよ」

妙に悟りきったような顔で仁王がうなずく。ぽん、と私の肩に手までおいてきたものだから、瞬時に払いのけた。しかしそれでもめげない仁王はやはりイケメンだ。あぁくそ、ほんとに殴りたくなってきた。

「まずは携帯返せ。話はそれからだ」
「どっかで聞いたことあるのぉ、そのセリフ」
「気のせいだし。つかマジで返せ」
「嫌じゃ。まだ調査が済んどらん」
「・・・調査ってなんの」
「椎名が浮気しとらんか調・・・痛っ」

なんで殴るんじゃ!と仁王が涙目になっていたけどとりあえず何も言わずに睨んでやった。うるさい、私の我慢の限界だったんだよ。お前のおちゃらけたジョークにすらならないジョークに付き合ってられるか。

「・・・ほら、返すぜよ」
「おかえり私の携帯ちゃん!!何もされなかったかい!?」
「別に何もしとらん」
「・・・本当に?」
「ほんとじゃ」

私の疑うような目線に、仁王は真剣な表情でうなずく。まぁそれなら信じてやっても良いかと、ポケットに携帯をしまった。今度は簡単に盗られないようにスカートのポケットに入れた。

「それにしても、暑いのぉ・・・」

ぱたぱたと手で扇ぎながら、仁王が太陽を見上げる。眩しそうに細められた双方の瞳は、光を受けてキラキラと輝いていた。その綺麗な銀色の髪も、同様に輝いている。私はそれをじっと見つめ、ふと視線をそらした。

「・・・ん?どうかしたかの?」

不思議そうに首を傾げる仁王を他所に、私の心臓はバクバクとうるさいぐらいに高鳴っていた。・・・反則だ、あんなにかっこいいだなんて。

「なんでもない」

ぶっきらぼうにそう言い捨てる私の声は、ほんの少しだけ色を持っている。あぁもう、私、本当にどうかしてる。今日はとても暑いから、それで少し勘違いしているに違いない。・・・だって、ありえないじゃないか。私がこの男を見てドキドキしているだなんて。

「・・・ほんと、暑いね」

ぽつりと呟いた言葉は、どこか嬉しそうな響きを持っていた。
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題名は、「恋は盲目」という言葉からとってます。

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