||唯一の架け橋





「よっ」

授業をサボりに屋上に行くと、案の定タンクの上に仁王が座っていた。私はそれに苦笑いを見せ、軽く声をかける。すると、若干眠そうな仁王が片手を上げて返してくれた。どうやら先ほどまで眠っていたらしい。

「おはよう」
「まだ寝足りんぜよ」
「あんた何しに学校きてんの」
「そっちこそ」

言い返されてはもう何も言えないのがサボり魔の痛いところである。
さてどこで休憩しようかと屋上を見回し、フェンスの傍が良いかとそちらにいこうとしたところで、仁王に声をかけられた。手招きしているところを見る限り、どうやらタンクの上に来いということらしい。
先日の経験から、あまり彼には関わりたくないのだが。・・・なんとなく弱みを握られそうで。
しかし実はこのタンクにのぼってみたいと思っていた私は、なんだかんだと言いながらいそいそとはしごをのぼっていった。うひゃー、高いな。2人いるとちょっとせまいけど。

「あっつー・・・」
「さっきまで雲があったんじゃがのぉ」

そう言いながら、仁王がぱたぱたと手で顔を扇いだ。暑さのせいで大分参っているらしい。彼の鎖骨の辺りを汗が伝っていくのを目にし、なぜか見てはいけないものを見てしまったような気になって顔を背けた。この男、かなり色っぽい。
そちらをあまり見ないように視線をさり気無く背けながら、ぼうっと空を見つめた。青い空。白い雲。平和だなぁ。
ギラギラと太陽が私達を照らす。時々風が吹き抜けていくものの、どうも生暖かくて気持ちが悪い。仁王は暑さに弱いらしくて、後ろでばてているのが気配でわかった。私はと言うと、同じく苦手な暑さにクラクラし始めた頃合いである。
しばらく、無言の時間が流れた。

「・・・のぉ」

唐突に、仁王が口を開いた。私はそれに振り返り、少し青白くなってしまっている仁王の顔を見つめた。この暑さにも限界が出始めているらしい事が見て取れる。仁王がいつまでも言葉を紡ごうとしないのを見て、私はそろそろ下におりようかと声をかけた。しかし仁王はそれに、ゆっくりと首を振った。

「なに」

眩しさに顔を顰めたまま、尋ねてみる。そんな私を見つめ、仁王はおもむろに片手を私の髪へと伸ばしてきた。さら、と私の長い黒髪が優しくすかれる。驚いたように小さく名前を呼べば、仁王がクスリと笑った。

「綺麗な髪じゃの」

優しげな笑顔でそう囁くように言われて、一気に顔が赤くなった気がした。果たしてそれを確かめる事は私にはできないが、その瞬間に心拍数が跳ね上がったのは間違いない。反射的に跳ね除けてしまった彼の手が、宙を泳いで下に落ちる。恐る恐る、と言う風に仁王の方を見てみれば、ニヤニヤとした笑みとぶつかった。この野郎、絶対楽しんでやがる。

「・・・あのねぇ、仁王クン?」
「なんじゃ?」

あぁ、もう、そんな爽やかな顔して笑わないでくれるかな。逆に何も言えなくなるじゃないか。
はぁ、と諦めるように溜息をつけば、仁王がまた笑った。2回目の対面にして、完全に弱い立場につかされてしまっている。
彼はまるで、私の心を覗き込むかのようにじっと見つめてきている。それがむず痒くてふいと顔を逸らし、立ち上がった。仁王が私の方を眩しそうに見上げ、どこに行くのかと目線で尋ねてくる。

「暑いし帰る」

微妙に不機嫌そうに呟くと、仁王は少し残念そうな顔をした。しかしすぐに何かを閃いたような顔つきになり、ぐいと私の腕を引いた。

「ちょっ、お、落ちる!なにさ!!」
「お前さん、携帯持っとるじゃろ?」
「え?あぁ・・・、うん」
「メアド。交換しとかん?」
「・・・はいぃ?」

思ってもみなかった言葉に、目を数回瞬かせる。仁王の方は早くも携帯を取り出していて、早くしろと言わんばかりにこちらを見ている。正直交換するのには躊躇いが残るのだが、まぁ、良いか。どうせこれからよく顔を合わせることになるのだし。

「・・・良いけど」

眉を寄せ、仏頂面で自分の携帯を仁王へと差し出した。実は、こういう操作は苦手である。メアドなどをもらう時は専ら手打ち派もしくはやってもらう派だ。
差し出された携帯に一瞬きょとんとした仁王だったが、やがて意味を理解したのか、クスクスと笑った後に携帯を受け取ってくれた。それからしばらくして、私の方へと携帯が戻ってくる。

「ありがと」
「後でメールしんしゃい」
「え、なん「しんしゃい?」・・・はい」
「ん、待っとるぜよ」

なんなんだこいつ。

「・・・それじゃ、私行くけど。倒れないようにね」
「おー」

手をヒラヒラと振ってから梯子を下り、重たい足取りで屋上を後にした。
その気だるさは暑さのせいか、それとも仁王と離れるせいか。どちらなんだろうと数秒悩んだ末、きっと前者だろうという答えに落ち着いた。

「・・・いつメールしよっかな」

自分の赤い携帯を見つめ、ぽつりと呟く。次思い出した時で良いやと適当に思い直して、私はふらふらと教室へと向かった。

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