もしも翼があったなら
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暗闇に沈む最後の夜(日向side)


あれからおれは、一人じゃもう解決できないって思って、遂に家族に話した。両親も夏も、やっぱり泣いていた。
申し訳なさに顔を伏せることしかできなかったのは記憶に新しい。
それからおれは検査を受けて、結局病院への入院することになった。

影山にろくに挨拶も出来ないまま別れてしまったことに後悔はしたけど、ちょっと安心もしてた。
あいつが悲しむ顔を、見なくて済むから。

「…影山のこと考えてばっかだな、おれ」
思わず苦笑いをする。

おれのビョーキの名前は、オーハン?ルイノウ?エン、らしい。
しかもそれによるコーサイイジョーが起きてるらしくて、よくわかんないけど、目の色が前とは明らかに変わっているのはわかった。暗い、灰色に。
開いた手持ちのゲーム機の、真っ暗な画面に、それは映っていた。

影山が見たらきっと驚くだろうなあ、悲しむかな。
あいつ、おれの目好きだったからなあ。おれ、影山がおれの目みて、嬉しそうにしてるの知ってたんだからな。

…あ、また影山のこと。

どうしても影山のことを考えてしまうこの頭の中のバカなおれとこの目を、どうにか消そうとゲーム機の電源を付けた。
画面の明かりがついた、その瞬間。

バンッ

突然、病室のドアが開いた。
荒々しく、外れそうな音を立てて。

「うおっ!んだよ〜驚かせんなよ!」
ぶつぶつと文句を言いながら、ドアの方を見つめる。
入ってくる人物に、一言、言ってやろうとーー


   「おい、この日向ボゲェ」

…言葉を失った。

聞き慣れたその言葉。
なんで、が一瞬で頭を支配して、やっと絞り出せた言葉は、

「かげ、や…ま」
ーー影山飛雄の名前だった。

影山には入院したこと、言わなかったはずなのに。
疑問を口にする前に、影山が口を開いた。

「…日向」

「……」

「俺は、お前の事が好きだ」

「…うん」

「だから、すげえ心配した」

「……ごめん」

「謝んな。俺も悪かった。気付けなかった。ずっとお前に謝りたかった」

「お前は悪くねえ!ぜんぶおれがバカだったから「そうだな。でも…俺もお前も悪かったんだ」

おれの言葉を遮るように言う。
影山はおれにとって、甘美で魅力的な逃げ道を残してくれたと思った。
肯定しかない選択肢が、強制されてるわけでもなくて。
泣きそうになるくらいの優しさが、嬉しかった。

「……ん」

「…今日、荷物持ってきたから。泊まらせろよ」

「………おうよ」

拒否権なんて認めない王様ぶりを発揮しながら荷物を置き始めたもんだから、もう頷くしかねえじゃん、と思って、その強引さが懐かしくて、つい笑った
笑ってんじゃねえよ、なんて殴られたけど。痛え。

その日の夜は、いつもと違った。
まだおれは入ったばかりだから、影山が泊まるためののベットとか、そういう類のものが揃ってなかった。
夜も遅いし、仕方ないからおれのベットで一緒に寝た。
影山の腕に抱かれて。影山いわく、おれはすぐどっかに行っちゃいそうで危なっかしいんだとか。シツレーな。
この灰色に変わった目を見ても、影山はちょっと驚いてたけど、それでも好きだ、って照れたみたいに言ってくれたから安心した。
声が上ずっていたし、なんだか目元が赤かったような気がしたから、きっと泣いてたんだと思う。

影山の泣き顔、見たかったなあ。
目を閉じる。

2ヶ月前からずっと。
手足が縛られて水の中で、じわじわと酸素を奪われていくように、どんどん見えなくなって、視界が暗くなっていくのがわかって、怖かった。
地上を照らす星さえも、おれの目から消えていく。いつしか空は、唯の暗闇が広がるだけになっていた。

でも、隣でお前が幸せそうなカオでおれのこと見て笑うから、おれも笑った。
そうやって隣で星を数える日が、いつかこなくなるのを、おれは知っていた。ザイアクカンしか湧いてこなかった。

いつしか部屋を暗くして寝るのも怖くなって、電気を付けたまま、眠るようになった。

ここで過ごす初めての夜だから当たり前なんだけど、部屋は暗くなる。病院は消灯ってものがあるから。
いつものように電気を付けたまま、なんてこともできない。

目を閉じて明日が来るのも怖かった。もしかしたら明日おれの目はもうほんとに見えてないかもしれない。目を開けても、真っ暗だったら。
そう考えると、怖くて震えが止まらない。



「…か、げやま」

目の前の人物に縋ることしか出来なかった。ダメだと分かっているのに、一人で抱え込むには重すぎて。
だから、迷惑かけちまうかもしれないけど、お前がまだ見える今だけは、影山の温もりを感じて、眠りたかった。

ビョーキのせいじゃない、本物の涙が流れるのを感じた。
あふれて、あふれて止まらない。
ああ、だめだ、影山を起こしてしまう。
ダメだと分かっているのに、影山の腕の中にいる事実が嬉しくて、離れないでいてくれたのが嬉しくて、おれのために泣いてくれたのが嬉しくて、そんなお前のぜんぶが見れなくなるのがこわくてかなしくて、ごちゃごちゃの感情が、目から溢れてとまらなかった。

「かげやま、かげやまぁ…ひっ、ごめん、ごめんな、ごめん…っ」

「そうじゃねえだろ、ボゲ」

苛立ちの籠められた低い声が聞こえて、顔を上げる。
目があって、腕に力を込められた。

「!ごめ…っんん!?」
謝ろうとすると、キスをされた。
苛々してるときにする、ちょっと荒っぽいキス。
くっついた唇がゆっくりと離れていく。そして焦ったそうにおれをみて、

   「そうじゃねえだろ、こういう時は」
といつもの仏頂面でそう言った。

「……っあ、う、あああっ…!ひ、ぐっ…か、っげやま…っ…!あ、ありがとお…っう…っ!……」

子供みたいにぴいぴい泣いてるおれに、影山はわらって、もう一度キスをした。
今度は、優しい、おれがだいすきな、優しいキス。

「…すきだ、影山。だいすき」
「ああ。俺も、ずっと一緒だ」
「…おうよ!」

唇を離して、見つめあって、お互いの体温を確かめるように抱きしめあって、今度こそ、二人で眠った。

      「おやすみ、」

じんわりと身体を温めていく温度が、しあわせだった。
きっともう明日は怖くない。
そんなカクシンが、いまのおれにはあった。

もう何も見えない。
星も、空も、バレーも、お前の姿も。
ちょっと寂しいし嫌だけど、でも、怖くない。
だっておれには、こんなに暖かい体温が、気持ちがあるから。

今度こそ目を閉じて、深い眠りに落ちた。



(どこまでも

     どこまでも
          おれたち
               一緒に
                  進んで
                     いこう)


−−−−−−−−−−−−−−−−−−
影日の切ないシチュエーション
『最後の夜に 涙を堪えながら、あなたは 「もう何も見えないんだ」 と言いました。』 

Twitter診断様より

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