もしも翼があったなら
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祈誓


照明が白く照らす茶色いリノリウムの床。
つるつると輝く床に映る白い靴が高い音をたてて、その先に見えるオレンジが勢い良く走り、跳ぶ。
ネットより少し離れた位置から両足で思い切り踏み込み、身体をしならせる。その様はまるで獲物に飛びかかる烏。

「サッコォオーイ!!」
日向がネットの前でトスを請う。飢えた獣のようにぎらぎら目を光らせながら一つ、ぺろりと舌舐めずりをして。
そこに正確に飛んでくる赤白緑で構成された古くて固いモルテンボール。
光に照らされたそれが、今おれの、近くに、目と鼻の先にある。左手を伸ばして、右手を勢い良く振り上げる。鼓動が早まる。
バシン、と降り下ろすと、ネットの後ろへと叩き込まれるそれ。
心地よい掌の痺れを感じ、腹の底からこみ上げるこれは、歓喜。
横目で見たその先には、

「ナイス日向ぁー!」
そう言って日向の元に向かう菅原の姿があった。
「スガさんもナイストスです!!今の凄く良かったッス!」
「おお、良かった!日向も大分コントロール効くようになってるなあ!」

菅原は嬉しそうに目を細めて、鳥の巣のようにあちこちへ跳ねているオレンジの髪をわしゃわしゃと乱暴に、でも優しさを添えて撫で回す。

しかしその和やかな風景に反して暗い雰囲気を醸し出している、一つの影が二人をコートの外…遠くから眺めていた。

それは特徴的な黒曜の丸い頭、切れ長の瞳。
爛々と輝く藍のそれは、嫉み(そねみ)の炎が揺らめいていた。

そう、彼ーー影山飛雄は、現在花を飛ばしていそうな二人に付け入る隙間もないまま、みっともなく嫉妬をしているのである。

相手は先輩で、しかも練習中なのになんて情けない。
そんな自分自身に苛ついて、普段の何十倍も眉間にシワを寄せながら舌打ちがつい出る。

「なに、王様イラついてんの」
「うるせえ」
ピリピリとした影山の雰囲気に何かを察したのか、ニヤニヤとした笑みをその顔に湛えながら影山へと近づく月島。
相も変わらず人を煽るのが上手いやつだとつくづく思う。相手の首に鋭い爪を立ててじわじわと首を絞めて行くように、相手の心理の裏を的確に付いてくる侮れない奴だ。そう、今だって間違ってはいないのだから。
「…本当、君ってバカで笑える」
「はあ?」
「あのチビの事何にも分かってないね。
あれは天然タラシだし、君もそんなこと分かってるデショ。」
「…意味わかんねえ」
心の底から湧き上がる嫌悪感。道理でこいつとは気が合わないわけだ。予想外。まさかこんなことまで当てられるとは影山だって思っていなかった。

分かってンだよそんなこと。
そう言い返そうとした唇は開くことがないまま引き締め、硬く結ばれた。
ああ、酸素が奪われる。影山に薄ら笑いを向けた目の前のこの男に首を、絞められて。

不甲斐ないことだが、自信がなくなってしまう。セッターとして、そして相対的な日向の恋人としてもだ。
バレーを愛して止まない日向の事だから、きっと「影山以外のどんなセッターでもおれはスパイクを打てる」という所を影山に見せ付けたいのだろう。
バレーを愛し、影山を永遠の好敵手と認めているからこそ仲間だとしても見くびられたくはないし、自分の中の成長する様々な可能性に貪欲に縋り付き、見出す為に新しいことをしたいと思うのだ。

しかし頭ではわかっていてもこの高いプライドがそんな日向を受け入れることを邪魔するのだ。
結果、みっともなく嫉妬して、指摘されると拗ねた挙句、影山の口から出るのは反論ではなく、舌打ちだけだった。

影山の返答に突然興醒めしたふうにふーん、と表情が消える。

「まあ僕にはどうでもいいことだけど」
君たち見てて、本当ムカつく。そう言い残して月島はその場を離れた。

張り詰めていた空気が消え、閉じていた唇からくそ、と声が漏れる。
影山はこの気持ちの悪い感情を振り払うように、二人から態とらしく目線を逸らし、ジャンプサーブの練習に打ち込んだ。


それを見ていた目線など、影山は気付きもせずに。



-1話end-

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