震えるまつげにキス




ピピピピピ…
買ってから一度も変えて無いシンプルな着信音が鳴り響く。課題を進めていた手を止めて、携帯のディスプレイを確かめた。

――神宮寺レン

そこに表示されていたのは恋人の名前だった。といっても一週間前に付き合い始めたばかりなのだが……。

ドアの方をチラリとみやり、同室の音也が帰ってきそうにないのを確かめつつ通話ボタンを押す。
どういう経緯があったのかは知らないが、今日音也は翔達の部屋に泊まるそうだ。

「もしもし……」
「……やあ、ごめんイッチーこんな遅くに、今大丈夫?」
「構いません、どうかしたんですか?」
「こんな事を言うのは柄じゃないんだけど……ちょっと声を聞きたくなってね」
「レン……?なにかあった んですか」

時刻は丁度0時をまわったところで、以外と人に気を使う事の多いレンにしては珍しい事だった。。
この一週間、恋人になったはずの自分達はそれとは思えないくらい恋人らしい事は何もしていなかった。
むしろ以前より接触が減ったくらいである。
最近は微妙に気まずい空気になってしまっていて、だからレンとまともに喋るのは久し振りだった。
そして、電話越しに聞こえる声は少し掠れていて、レンが泣いているんじゃないかと錯覚させる。

「いやちょっと、ね 夢見が悪くてさ」

何でもない事のようにサラッと言ってのけたが、虚勢を張っているのはその声で丸分かりだ。

「レン、今一人ですか」
「え?ああ、うん 聖川は昨日から実家に帰ってるみたい」
「連休を利用して、ですか。じゃあ今から部屋にお邪魔してもかまいませんね?」
「え……どういうこと!?」
「大人しく待っていてくださいね」

レンが何か言いかけていたが強引に電話を切ると、言葉通り部屋を飛び出した。
……正直チャンスだと思ったのが半分。今の気まずい雰囲気を払拭したかったから、せっかく恋人同士になれたのにこれではあんまりだ。
それとやっぱりレンが心配だった、あの人はなんでもかんでも自分で抱え込んでしまってあまり人に頼りたがらない。
だからこんな風にちょっとでも自分を頼って、電話をしてきてくれたのは嬉しかった。


レンの部屋の前に着くと、おざなりなノックをしてから扉を開ける。
そ こには困惑した表情を浮かべているレンがベッドの上に座っていた。

「イッチーって時々予測できない行動をするよね……」
「あなたの声が寂しそうでしたから。迷惑でしたか?」
「いや…その、まあ嬉しいけど、さ」

少し照れたように、みっともない所見られちゃったねなんて笑うレンの横に腰掛ける。
もしかしたら、自分の告白を受け入れたことを後悔していて嫌われてしまったのでは、と危惧していたのだが。
その心配は無用だったみたいだ。レンが変わらず、自分の前でしか浮かべない表情をしていたから。

「で、どんな夢だったんですか?悲しい夢とか?」
「ん……どっちかっていうと怖い夢、のほうが近いかな……」
「怖い……?」
「辛い、でもいいかも。昔の事、 なんだけどね」
「それで泣いてたんですか」
「あー、バレてた?」

レンが無理矢理笑おうとするのを制するように、そっと抱きしめる。
レンが驚いたように硬直する、たまにこういう初々しいような反応を見せるのが可愛かった。

「私に電話してきてくれてありがとうございます」
「なんで、イッチーが……お礼を言うのはオレの方だよ」
「いえ、ですが私をもっと頼ってもらわないと困ります」

恋人、なんですからというとレンがフフッと微笑んで体の力を抜いたのがわかった。

「イッチーありがと」
「いえいえ」

少しだけ体を離してレンの瞼の辺りに軽いキスを落とした。
レンの悲しみが消えるように、と。



(震えるまつげにキス)





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デレデレなトキヤと乙女レンな感じになりました…。
このような企画に参加させていただき、嬉しい限りです。
ありがとうございました!

20111022 きらさき






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