ちろちろ、好き勝手に遊び回る舌がくすぐったい。ときどき掛かる吐息が熱っぽくて、ぐしょぐしょになった先に痺れが走り、剣呑な成り行きを案じさせた。
ふいに見上げてきた視線に、隙間まで残さず舐め取ろうとする意志が察知できて。
思わず逃避を謀ったら、予測した口縁で曲がった関節まで這われ、すっかり包まれてしまった。
なに、その楽しそうな顔。
やっぱりな、って?
「…溶けちゃうから、もう」
おわりにして。
塞がれて音にならなかった思いを、彼の舌に直接流す。伝わってないだろうけど。
この際唯一の抵抗、というよりも、言い訳だ。
分け与えられた唾液は甘くて、とにかく甘くて。普通の女の子並みに甘いものが大好きな私としては、流されてしまいたくなる。
「おいしいでしょ?」
眼前でいたずらっ子的微笑みを称える彼は、なんの悪びれもなく、再び私の顔に唇を寄せた。
目尻をちろりと舐めあげられる。
その行為でやっと気づいたのだが、どうやら私は涙を流していたらしい。
零れた跡を追って、伝って、先端をいく雫石まで吸われた。最後に濡れた彼自身の口角を、ペロリとした朱が妙に色っぽい。
――翼くんのくせに。
「……どんな味がするの?」
好奇心にかまけて聞いてみる。
だが、聞いてみるだけ無駄だ。私には到底知り得ない、一生味わえない。
彼の思い描いた通りの味だから、彼のシナプスにでもならないかぎり。
「俺の一番好きな味」
具体性を忘れた答え。
それでも彼も私も満足だった。
彼はうその無い笑顔で『一番』なんて明確(ここだけ明らかでもやっぱり具体性に欠けるけれど)な単語を用いるし、彼が喜ぶことは私にとっても喜びだから。
「熱でふやけて溶けて。飴みたいだな…」
「自分で開発したのに、今知ったの?」
「早く試したかったから」
「いきなり私で?」
「そ、それは、その…!」
「…翼くんのバカ」
「ぬわわわ!ごめんちゃいっ」
「謝るから怒らないで〜」喚く大きなこどもに、呆れを含む嘆息をのせて指を差し出した。
ほんとうは、あまりしたくないんだけど。惚れている、だけで果たして正解かはわからない。どちらにしろなんて禁忌に近く厄介な関係だろうか。
「怒らないから、ね?」
私の表情を窺った後、ひとくちめ同様に、彼は躊躇いがちに爪に舌を当てる。されどそんなのは触れる瞬間までで、ひとたび味覚で感じ取ってしまえば指丸々くわえこんで、うねる舌を這わす。
遠慮という言葉はなくし、貪る唇でごめんとか好きとか、おいしいとか呟きながら。
そんな姿に私は生つばを呑み込む。彼に預けていないほうの手を持ち上げて、自らの鼻に近づけた。
不思議と甘い香りが漂っている錯覚。……そう、錯覚の、はずなのだ。
「理想の味の最上級…ねぇ」
鼻の先の
爪
の
数
企画:)無題の洞さまに提出。
とても素敵な企画に参加させていただき、ありがとうございました。
(100505)香夜