コンビニの袋から取り出したケーキはふたつ入り。
 もちろん棚から取り出すお皿もフォークも、ふたつだ。

 小さな赤い蝋燭は、真っ白なショートケーキにのったいちごと同じ色。
 お祝いものとしては少々小さいが、何しろ大きなケーキが買える店が閉まっている時間だったのだから仕方ないだろう。
 わき目もふらずに調べて、勉強して、研究して、気づけば窓の外が暗くなっていたのだから。

 だからといって、それだけで考えたことを諦めるような性格ではない。

 何があってもやると決めていた。
 何があっても、今度は自分が祝う番だと。彼女にも誓ったのだ。

「……なでしこ……」

 祝いたい相手は、今も、ずっと、目を覚まさないけれど。
 去年よりも少しだけ伸びた手足にワンピースが合わなくなってきたから、プレゼントは新しい服にした。
 華やぐべき日に合わせて白い花を髪に挿せば、黒髪によく映えた。

「君が、目覚めてくれれば直接言えるのにね」

 自分には、まだそれだけの力が足りない。
 フォークを強く握ったところで手のひらが赤くなるだけで、撫子が止めに入ることはない。

『鷹斗』

 笑顔だって、悔しそうな顔だって、泣いた顔だって簡単に思い出せるのに。そこに横たわる彼女は無表情で、にこりともしないのだ。

「来年は、一緒に食べようね」

 フタを開けると、生クリームのにおい。眠っている撫子も、脳で香りは感じ取っているはず。
 おいしそうでしょう? ね、撫子?

 片方のいちごにフォークを突き刺して、もうひとつに移動した。
 それから蝋燭も刺して、火をつける。
 いちごはふたつとも君にあげる。小さいけれど、中学生だから、許してくれるよね。

「ハッピーバースデー、……撫子」

 君にとって素敵な一年になりますように、なんて。
 お祝いなのに、嬉しい日なのに、特別な日なのに。

『ありがとう、鷹斗』

「……っ、」

 君のその言葉が返ってこないだけで、俺は涙を堪えられないんだ。




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