あかいかみ、あかいめ。
あまいこえ、さめたかお。
彼を構成する表面はとてもシンプルなのに派手に整い、女の子ならば誰だって目で追ってしまうような、男性だってつい目を見張りそうな、トクベツな輝きでコーティングされていた。
アイドルなんだから、別段不思議なことではない。なんてフラットに済まされるとすれば、それはもったいない。
『SKYは、三人揃って食事に行ったりするんですか?』
『そうですねぇ…。どちらかというと、誰かの家に集まって騒ぐことが多いです』
『主に錫也のとこだな』
『美味しいもんね、錫也の料理。哉太の部屋と違ってキレーだし』
『コォラ、ひつじ!』
『あはは。七海くんは片付け苦手なんだ?』
『あー…あっははは…』
『たまに俺が掃除しに行くんですよ』
※
このこ、変だ。
アイドルらしくない。
違和感に気づけた要因は、たぶん私が思ってることで正解だった。
似てる、と思った。私に似ていて、周囲に同調しきれない。でもどこかが決定的に違う。
これほどのオーラを持っていて、オーディエンスの耳に痛い歓声を浴びているアイドルなのに。
彼――土萌羊は、SKY(スカイ/メンバーである東月錫也・七海哉太・土萌羊の名前の頭文字を並べて命名)というユニットに所属するアイドルだ。
近年デビューを果たして以来、10代20代の女性を中心に絶大な人気を得ている。
年齢は私と同じ。芸歴は私の3分の1。
魅力は抜群の歌唱力とダンスパフォーマンスはもちろん、彼の特殊な容姿。
一方で、滅多に笑わないクールな王子様という位置付けがファンの間では常識。
好物はタルトタタンと東月のチョコレート入り―――…
(滅多に笑わない、か)
情報サイトを眺めていて引っ掛かったのはこれだけだ。
今日の顔合わせ、彼に笑みを向けられたのは何だったのか。それとも芸能人らしくあれはその場しのぎの演技か、もしくは“キャラクター設定”が“笑わない”なのか。
薄型テレビの中の彼は、一度も微笑みさえしないままトークを切り上げ、画面から外れた。これからマイクを持ち変え、歌うのだろう。
そういえば。
リアルタイムな画面のあちら、照明があたると同時イントロが始まった。レンズの向こう、視聴者を見つめる目線は独自の色っぽさを持つプロだ。マイクを握るそれに交した手の感触が思い出される。
彼の手は冷えていた。
(110426)