振り返った時、さっとスクールバッグの影に隠されたそれを俺は見逃さなかった。黄色い袋。今日がバレンタインだってことは承知していたから、その中身がチョコレートだってことも簡単に予測できた。
 誰かにあげんのかな。最近ミョーに仲良しだけど…総司、じゃあないよな。

 どうでしょう?背後でにこにこ笑う彼女は、別に俺の守護霊でもここの自縛霊でもない。一番近いのは生き霊ってヤツなのかもしれないけど、ひとまず"霊"でないことだけは知っていた。こればかりは俺の想像だが、"念"だと思っている。もしくは"記憶"。

「わ、私、日直だから先に行くね!」

 逃げるように去ったちづるは、自分が日直なら隣の席の俺もそうだってこと、わかっているんだろうか。

「おまえさぁ、なんか聞いてねぇの?」

 小さくなった背中が青信号を渡るのを見届けて、気になってしまったことを投げ掛けた。
 何を?ってとぼけてみせる彼女は楽しそうだ。初めてあったころは可哀想なくらいおどおどしてたくせに、数百年の時を経て再会した女はどこか強かで美しい。ああこんな嫁さんもらえる男は幸せだよなって、まあ過去の俺だけど。

 今日のうちにわかるよ。嬉しくて仕方ないのといった様子を隠そうともしないで、俺を見る表情は優しい。

 俺、期待しちゃうよ?どーぞ。マジで?沖田さんだったりして。それだけは勘弁!

「ぜってぇ譲らねー!」

 叫んだら勢いがついて、ガッと足が出た。そのままスピードが増していって駆け足になる。青のチカチカが赤に変わる前に、ちづるが歩いた道を辿って、追いかけた。
 後に続く千鶴が平助くんらしいなぁとなおも笑ってついてくるから、きっと前方で揺れるあの袋は、帰り道では俺の手がぶら下げているんだろうと思った。

(110219)
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -