キラキラしたものは嫌いじゃない。ううん、嫌いなんてほど遠い。たぶん好き、なんだ。
 さすがに目に痛いほどのとか、どキツいほどに派手なのは好きとは言えないけれど。

 光るものと綺麗なものって、全然違うけど、近いと思う。
 綺麗と形容されるものをあげていくなら、花、海、空、空気、絵、言葉、歌声、心、エトセトラエトセトラ。自然物にも人工物にも、いくらだってある。
 でもこれらは同時に、枯れた花、汚れた海、陰った空、穢い空気、濁った絵、廃れた言葉、寂れた歌声、荒れた心、エトセトラエトセトラ。永久に誰の目から見ても綺麗であり続けることは、不可能と言ってもいい。

 しかし光はそうじゃない。

 そもそも、光るものを心の底から嫌えるヒトって、存在するのかな。ああいうのって、自然と目がそっちに行ってしまうものだ。
 真っ暗闇の中に光を見つけたら、例えそれがぽつんとした豆電球であっても、目を向けないことは難しいもの。
 光走性。ヒトだって、本能的な部分では虫や魚といっしょ。

 光に惹かれる。それだけ。


 だからつまりは、昔のヒトが光を辿って繋いで星座をつくったのも、私が時を忘れて星空を見てしまうのも、生き物として必然的なのだ。もしかしたらミミズだってカエルだって、こんな夜には星の放つ輝きに魅せられているかもしれないのだ。

 光に焦がれて、届かなくて、それでも触れたくて。そしてヒトは知識から触れたつもりになろうと、夜空の光に名前を付けて、呼んだ。

「ほし…」

 白い息をともなって、呼んでみた。その僅かな勢いで、熱までが私から逃げてゆく。ぶるり、コートを羽織った肩が震えた。

「寒くないか?」

 寒さを表したばかりの肩が、グイッと半ば強引に、それでいて優しく引き寄せられた。右肩から落ちそうになっていた大きめの肩掛けも、その手で整えられる。

 ありがとうを紡いだ口に、両手の中のココアを運んだ。

「寒いけど、その方が綺麗に見えるよ」
「……そうだな」

 隣の錫也もココアを含む。
 ミルクの風味が湯気に混じっているようで、立ち上る温かく白い水蒸気にくんと鼻を鳴らした。ら、寒さでよくわからなかった上に、鼻はツンと痛かった。

「星って、なんで見飽きないのかなぁ」

 真っ暗闇に輝く星ぼしから目を逸らさない私に向けてか、ただの独り言か、錫也はぽつぽつと話す。
 なんてことはない。昔から幼なじみたちと何度も談義してきた話題だ。
 話す度、無意識に見解を変えてみたり、以前否定した意見と似たようなことを言ってみたりするのだ。

 星を見る時、見た時の心理状態だったり、体調だったり、最近読んだ本とかでコロコロ変化したのだろう。
 しかもそれぞれが星を探して見つめることに夢中だから、誰が何を言ったかなんて滅多に正確じゃなくなる。

「好きだから?」

 単直で返した回答に、錫也は笑った。

「おまえは昔から答え変わらないよな」
「……わかんない。覚えてない」

 星から下ろしたままに、錫也を見た。彼は満天の光じゃなく、私を見ていた。
 視線が一つの共通なものになると、さらに優しさと慈しみの増した目尻で微笑まれた。胸がヒュンと鳴く。
 ここのところ、私は変だ。体調は変なのに、それでも私の答えは変わっていなかったらしい。

「好きだよ。綺麗だし、暖かいし、変わらずにいてくれるから――」

 ここまで言って、あ、と思った。これは高校で専門的に習う以前の話だ。星たちが変わらないわけがない。
 日夜変化する。私たちの知らないところで、生まれていたり、朽ちていたりと忙しいのだ。

「変わっちゃうのは……、正直、よくわからない」

 変わりきってしまった星は、すなわち燃え尽きたということだ。生涯をまっとうして、ブラックホールに変わる。
 でも花や海と違って、変わってしまった時、遠く離れたもと光だったものは、私には探すことも見ることも出来ないから、形容詞が変わることもない。

 星であることは光であることの絶対条件だ。
 光であることが綺麗であることの絶対条件のように。

 では果たして、変わることは喜ぶべきことか。それとも疎ましいとすべきか。

「錫也は…?」
「俺は…、…そうだなぁ」

 この思考事態に疎ましさを感じる前に、隣に投げた。

「なんで見飽きないのか、だろ?」
「うん。そう」

 錫也は自分で始めた質問を反復する。んー、とワンテンポ考える素振りを見せてから、私の目を真っ直ぐに見て、言った。

「好きだから」

 私の手の中で、カップが滑り落ちかけた。どこか静まり返る空気を察して、私は急いで瞬きを二三、三四度した。
 錫也は瞳を眩しそうに細めて、一度だけ目を瞑って開いて、続ける。

「すべては変わるものだと思うんだ。いつかは必ず。変わらないようでいて、目に見えないだけかもしれない。もしかしたらそれは、俺にとって悲しい変化かもしれない。でも俺はそれも含めて受け入れて、好きでいつづけたい。…と、思ってる」

 それは真剣な眼差しだった。すっかり星ではなく隣の、――今のところ幼なじみの彼から目が放せなくなった私に対して、錫也はまた笑った。
 その表情は眩しくて暖かくて、私はふいに、綺麗だなって思ってしまった。







(20091231)

主催企画:)凜鈴淋。に提出。

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