白い丘をフォークでつついて口に運ぶ。
甘すぎない滑らかな舌触りを感じて、「美味しい」という言葉が自然に飛び出た。
美味しい!シアワセー!
我が星月学園の購買は偉大に思います。
「そんなに美味しいか?」
「うん!すっごく!」
星持ちホテルのオーナーさんとこの学園の理事さんが親友どうしらしく、そのホテルで来期に出すスイーツは星をモチーフにして考案中らしい。
さらに理事長の甘味好きが合わさって、試験的に購買で割安販売し、未来を担う若人の意見を聞こうという試みだ。
二ツ星だか三ツ星だかは定かではないが、高級なことに代わりはない。
その上自動的に期間限定とくれば、食べるしかないだろう。
食堂のデザートよりは値が張るが、そこは仕方ない。
「こっちも旨いぞ」
「どれどれ。ん。あ、ホント!」
部活帰り。すっかり意見の合った宮地君と、割り勘して食べようということになり今に至る。
種類が豊富なため、個人で買っていては全て試す前に期限が来てしまうのだ。
それとなく目ぼしいものを三つ買って、宮地君の部屋のテーブルに広げた。高級苺と新鮮生クリームたっぷりのパフェ、抹茶のシフォン生地や栗カスタードなど五層から成るケーキ、それとまろやかでサッパリ味が好評のバニラアイス。
レストランで出す料理と近いデコレーションにするため、購買と言えどコンビニのような容器とは違う。ちゃんと食器にのせられた上にパッキングしてあった。食器は後で洗って返し、その際にアンケートを取る仕組みだ。
こんなに美味しいものが格安で食べられるのだから、そのくらいなんてことないと思う。
「どれが一番好き?」
「俺はパフェだな。このクリームの程よい甘さは群を抜いている」
「そっかぁ」
「お前は?」
「う〜ん………、全部」
どれも美味しいんだもの。その中から選りすぐらなければならないなんて、プロは大変だ。
いつでも食べられるから、お菓子屋さんになりたい!と言っていた昔を思い出すと、自分のことながら微笑ましい。
しょうがないやつ、と笑いながら、宮地君は生クリームといっしょに苺を頬張った。
艶やかな苺とキメ細やかなクリームの相性は抜群なのか、絶対に弓道場では見せない表情がお目見えする。
ふふ。可愛いなぁ。
パフェに釘付けになっていた視線がチラリとこちらを向いた。
「む、なんだ?」
「宮地君かわいいなーって」
「か、からかうな!」
「照れてる照れてる」
「照れてない!」
他愛ない会話の戯れをしながら、アイスに飾られた星形の薄焼きクッキーに手を伸ばすと、あ、と声があがった。
もちろん宮地君だ。
「ごめん、食べたかった?」
飾りクッキーはこれ一枚しかない。はんぶんこする?と聞けば、割ったらせっかくの星が台無しだろと言う。
なんともロマンチックな理屈だ。
気をつかうな、と宮地君が笑顔を見せるから、結局頂くことにした。
よくこんな薄い生地で綺麗に作れるものだと、星の形を眺めて口にくわえた。その時だ。
「ん?っ!」
急に暗くなったなと頭上の明かりを見上げたら、宮地君の顔があった。
段々と距離はなくなり、唇に触れる甘い感触。
クリームとか苺とかバニラとか、甘美な香りが鼻腔を通る。脳まで達して、頭の中まで甘々になりそうだ。
カリッと音がして、宮地君の唇が離れた。まじまじと見てしまえば、とても楽しそうな顔をしている。
「ごちそうさま」
「き、気をつかうなって言ったじゃない…!」
「ああ。でもいらないとは言ってない」
嵌められた!真っ赤になってしまう自分が悔しいのに、キスは嬉しいから怒れない。クッキーよりとっくの先に、心が持っていかれている。
「そんなに照れるな」
「照れてないー!」
星の カケラ をかじる
(090830)
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