教室の扉を開けるとあいつが机に突っ伏して眠ってて、よくよく見るとそれはオレの机で。
近づいてもなかなか起きなかったからってのを自分への言い訳に、思わずオレは目覚めのキスを――
「って、どんなベタな想像力働かせてんだオレ」
想像てかまんま妄想か。
ありえないありえない。
教室へ向かいながら二度目の欠伸をかます。もうほとんどの生徒が部活に行くか寮へ帰るかした後だから、廊下には自分の足音と、チャリチャリというネックレスの掠れあう音だけが響いた。
説教と特別補講の事前説明を聞いたらもうこんな時間だ。掃除の後に向かったってのも原因のひとつか。
あーオレってば、掃除サボらないだけ真面目だよなぁ。あいつといっしょだから楽しいしー…て。
サボらない――サボれない理由はここか。
「…くそ、」
ガシガシ頭を掻く。
オレってなんて分かりやすい思考回路してんだろ。だっせぇ。
イライラを抱えたまま教室へ足を踏み入れると、誰もいないと思っていた空間にあいつがいた。え、何この妄想通り。
「あ、おかえり哉太」
「お、ま、ちょ、な、」
「つっかえ過ぎだよ」
「な、なんでオレの席座って…!」
「ああそっか。ここ哉太の席だったね」
はぁあ?今のセリフへの感想はこれでキマリだ。
なんだそれ。意訳するならこんなカンジ。
「ここの席、風が気持ちいいいね」
いいなぁと顔を弛ませる。
なんだ、そんな理由でその席にいたのか。小さな期待を裏切られたことに少しショックを受けたが、のほほんとした表情が息が詰まりそうなくらい可愛かったから、別段文句も言わなかった。
「だろ?」
「うん。居眠りするにはさいこー」
「ハハッ、わかってんじゃん」
「でも推奨はしてないよ」
「ゔ…。お、お前だって、二現目寝てただろ!」
「…まあ、ハイ」
………。
ふたり分の沈黙が重なる。あいつの口が焦れったそうにむぐむぐしてるのが可笑しくて、ぶはっと吹き出した。直後、ふふと笑いが漏れる。
「哉太、顔おもしろい!」
「お前もヒトのこと言えねー顔してっから!」
ひとしきり笑って息をつく。余韻の中で、じゃあ帰ろっかという空気になって、はたと疑問が浮かんだ。
「そういやお前、何してたんだ?」
「へ?」
「錫也と羊はどした」
「ふたりなら食堂に…」
「お前は?」
「私は、哉太を待ってるって言って先に行ってもらっ、……哉太、口あいてる」
慌てて閉じた。
やば、嬉しくてぼーっとしちまってた。こんな、本人にしてはたぶんどうでもいいんだろうってくらい些細なこと。
「んじゃお待ちかねのオレも来たことだし、さっさと行こーぜ」荷物を掴んで、あいつに背を向けた。今の惚けヅラを見せたくない。
今のほうこそまともな顔をしていない。
後ろからは不審を感じながらもひょこひょこあいつがついてくる。
かなたー?どうかしたの?って、どうかしてるとしたら、とっくの昔にオレはどうかしてるよ。
「かーなーたー」
「あーっ!たくもー、うっせぇな」
「オレはお前に恋してんだよ!」
(090804)