両手にビニール袋を持ち、靴でまばらな落ち葉の絨毯を叩きながら歩く。
 散らばったイチョウの葉に隠れるように銀杏が潜んでいるかもしれないから、それに注意して進んだ。ところどころから匂うのは、きっとすでにどっかの誰かが踏み潰してしまったからだ。御愁傷様、である。

「ジャンケンに負けるなんて珍しいよね?」

 チョコレート菓子やポテトチップス、紙コップに紙皿が入った袋を揺らして、少し前をゆく夜久が俺を仰いだ。

 物好きもいいことに、彼女は買い出しの役目を自ら志願したのだ。
 スキップにも似た足取りは銀杏を踏みそうで心配になるが、彼女はどこふく風といった様子で笑う。もし踏んでしまっても、少し反省したらすぐに笑うのだろう。すぐに洗ったら明日には乾くかなぁ、とか言って。
 なんとなくだがそんな気がした。

「そうかぁ〜? そりゃそんなときもあんだろ。俺は万能じゃないしな」
「そうだけどさ」
「うわっ、ひっでー」

 非難の声をあげてケラケラ笑った俺の手荷物は2リットルペットボトルに入ったジュースが3本。彼女がそちらを持つ前に俺が持った。

「ジャンケンが強いヤツってのは、観察眼と反射神経に長けてるんだぜ」

 俺はフェミニストじゃないし、宮地みたいにがっちがちの考え方をするわけじゃないが、男として自分より重いものを女に持たせるというのは気が引けた。
 仮にその時は「ラッキー」と小さな幸福がよぎっても、文句も言わず頑張って荷物を運ぶ姿を見ていればやがて苦しくなってくるはずだ。
 そんなちゃっちい幸福感のために罪悪感をもわもわさせるくらいなら、いっそはじめっから気分よく持ちたいと思った。

 要するに、悔しい想いをしたくないのだ。

 悔しい気持ちは人間を奮い起たせ成長させるというから、感情自体は悪いことではないのだろう。
 でもだからといって好きな人はいないはず。
 少なくとも俺は嫌いだ。

「あ、」
「え? なになに?」
「お前今すっごいギリギリだったぞ。銀杏」
「うそ!? 危なかったー」
「うんうん。危なかったな。ギリギリ……踏んでた」
「うそ!」
「そう、嘘!」

 こどもっぽい口上論争。
 ニッと唇を意地悪げに左右へ引っ張れば、彼女は徐々に理解したようだ。前を向いていた足先が、完全に俺の方へと転換される。

「犬飼君!」

 目元を染めて恐くない瞳をキッとさせた。逃げろ〜と笑って煽り立てるのは俺のキャラにはお手の物だ。

 手堅く銀杏を避けながらの逃げるふり。さりげなく目的の方角へ軌道修正しながら。
 本気で怒っていないくせに、俺たちのおふざけに快くノってくれるのが、彼女の良いところのひとつだ。他にも多々知っているつもりだけど、とりあえずはそれだけ。













『ジャンケンが強いヤツってのは、観察眼と反射神経に長けてるんだぜ』

 逆の言い方をしよう。

『いつでも勝てることと、いつも勝つことは似ているがまったく違う。いつでも勝てるということはいつでも負けれるということで、いつも勝つということは勝つことしかできないこと。"強い"は"勝利"に直結しない』

 つまり、この場合俺は、『観察眼と反射神経に長けている』から負けられた。
 負けた悔しさ以上の悔しさが勝った先に待っていたから、負けた。

 それだけのこと。


だけどつまり青い春



(101016)


リクエストありがとうございました。青春なんて中学で終わった(と言い切る)私には、甘酸っぱい物が妄想困難でした。初・犬飼。スタスカキャラの中でじゃんけんが二番目に強いイメージ。一番目のコが誰かは主張しない。きっとそのこはいつの間にか銀杏踏んでたり拾ってたりするタイプ。ほぼ流れ星おやすみの勢いです。
お待たせいたしました。リクエストしてくださった想叶さまのみお持ち帰り可能です。

香夜

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