なあ、おまえは忘れているから、そんな眼差しであのひとを見れるんだ。忘れているから。 その状態はおまえにしてみればシアワセなのかもしれない。でもな、俺やあのひとにしてみればそんな単純な話じゃなくて、複雑で因縁に近い感情が今も続いている。穢くて、嫌な。――あのひとを認められないと同時に、赦せない自分も憎々しいんだよ。
「生徒会に行ってくるね」 「おー」 「いってらっしゃい」
俺はいつだって笑って見送る。 表面上には出せないし、出さないほうがいいと思っている。好きなコが、認められないヤツを好いている事実。本人の口から直接聞いたわけではないけれど、鈍くもない俺には、幼なじみの考えくらい、薄々伝わってくるのだ。 イベントの最中にあのひとの背中をみつめる眼差しとか、廊下ですれ違った時僅かばかり安定しない声とか、会話に盛り込まれるあのひとの話題、とか。小さなことひとつひとつが目につく耳につく。気づきたくもないのに敏感に感じ取って、脳が処理して解釈してしまう。
「……なぁ、錫也」
もうひとりの幼なじみが、まつげを伏せて呟くように俺を呼んだ。戸惑いがちな様子に、俺も耳を塞いで、続きを拒みたくなる。なんとなく、言わんとしていることがわかったからだ。
「あいつ、 先輩が好きなのかなぁ」 「………さあな」
心の中では頷いていた。さあな、なんていうのは誤魔化しの悪足掻きでしかなく、本当はわかっているのだ。確信にも似たレベルで。そして哉太も。
「だ、だよな!まだわからないよな」 「ああ」
わかっていながら、俺に否定を求めてわからないふりをしたいんだ。そうでもしなければ、やるせないじゃないか。ずっとひとりを見てきたんだから。わからないほうが不自然、でも、その不自然がひどく恋しいんだ。
差し色に否愛
(100306)
リクエストありがとうございました。一樹←主人公←錫也(or哉太)で、どうしようかとなった結果こうなりました。…み、みじかい…。 リクエストしてくださった方のみお持ち帰り可能です。
香夜
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