「最近月子ちゃん、うちに来ないね」 「にぁ〜」 「やっぱりアイツが来たせいだよね」 「にゃあ、にゃあにゃー」
もじゃめがねの独り言に律儀に応えてあげてる俺って、なんて健気なんだろう。
月子とはこのアパートに越してきた女の子で、とってもかわいいこだ。 入居当初はごはんをうち(って、もじゃもじゃが呼んでるここ。もじゃはあのこに"おおやさん"って呼ばれてる)に食べに来たり、逆に俺が遊びに行ったりの幸せな日々だった。 月子の膝はもじゃと違って、柔らかくていい匂いがして気持ちがいい。俺がゴロゴロすると喉を撫でてくれる、優しい気の利くいいこだ。
「やっぱり入居を断わるべきだったかな……、翼、どう思う?」 「にゃにゃ」
今さら何を言うんだもじゃめがね。月子が望んでお願いしてきたこと、断わる気ないくせに。てか、断りきれないくせに。このエセすけこましめっ。
それに、どっちにしろ月子が好きなのはおまえじゃなくて俺だ。かわいーかわいーと俺に抱き着いてくる月子を、おまえは何回見たんだもじゃ。俺はあのこの憧れの的なんだぞ!
正直に言おう。俺は月子が大好きだ。にゃははー。にゃあー、はずかしっ。 だから相思相愛。誰にも邪魔されないし、させない!…て思ってたのに…思ってたのに!
いったいどこの誰なんだあのエプロン男! 月子を見送ったと思ったらバイクで出掛けていくし、夕方帰ってきたと思えばうまそーな魚とか食いもんとか持ってるし。部屋の中じゃあ月子と笑いあってたりして楽しそうだしっ。(お向かいさんの屋根に登って見てる。ストーカーじゃないぞ!ゴエイだっ)
なんか苛々する。あいつに膝をとられていないことだけが今の心の支えだ。
「つまんないねー」
もじゃがエイジ新聞を閉じた。コーヒーとかいう黒くて苦い液体を飲み干して、流し台へと持っていく。 その背中に恨みを込めてにゃあと小さく鳴いた。
おまえのせいでな! もじゃめがねとあの正体不明の男が悪いんだ。
月子は俺だけといればいいのに。月子とふたりきりの、おだやかな時間がずっと続けばいいのに…。
☆僕の中のストレンジャー (100204)
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