講義の後図書館に残ってレポートをまとめて、家に着いたのは午後六時過ぎ。

 玄関からリビングへと続くドアを開ければ、おいしい匂いがぷわぁと漂ってきて、私は息を深く吸い込んだ。
 反射って言えるのかな。刺激が嗅覚から胃にまで行き届いて、ぐぐ〜っと甘えたな音を鳴らす。

「おかえり」
「ただいまー」

 二週間もすれば慣れてきたころで、あいさつもカジュアルだ。笑顔を向けられれば笑顔を返す。

 私が先に帰っていることもあるし、錫也(家の中で東月さんは堅苦しいからと、二日目に呼び方を直された)が出迎えてくれる日もある。
 まちまちな生活だ。それが変にマンネリ化するより楽しくて、着いた時に彼のバイクの有無を確認することが癖になってきていた。

 今日は早いんだな、とか。夕飯の買い物に行ってるのかな、とか。何をしてる人なのか知らないから、全部が私の臆測でしかないけど、想像どおりエプロンが妙に似合っている点については、おそらく職業とは無関係だと思ってる。
 …エプロンつける仕事って例えばどんなのだろう。店員さん? 保育士さん? あ、似合う似合う。こんな先生、こどもにも大人気だろうし。

「もう出来上がるから、早く手、洗ってきなよ」
「はーい」
「うがいもしっかりなー」

 そんな母親と幼いこどものやり取りをしながら、今日という一日も過ぎ、暮れていく。

 こどもにもって、"も"って他に何があるんだろうと、自分で考えたことを二重に考え改めながら、私はハンドソープを洗い流した。

☆陽だまり
(100204)

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -