電話の相手はワンコールで受話器を取った。そういうところはプロだ。
 …別に、プロじゃないと感じた瞬間があるわけもないけれど。でも口に出して認めるのも癪。だから、ぜぇったい言わない。

「月子です。星月さんいらっしゃいますか?」

 気づかないふりをして取り次ぎを願い出れば、「やっだ、月子ちゃん。たった3日で私の声忘れちゃったの?」ときた。そのフレーズに、あれから3日しか経っていないのか、と見当違いな思考を走らせる。

 昔から仕事は出来るんだよな、琥春さん。ただ行動に問題があるところが玉に瑕。それもかすり傷とかの生易しいものではなく、腕一本切り落としたぐらいっ……ていうのはさすがに表現が変わってるかもしれない。
 とにかく。そのぐらい突飛なのよ。

「いい男でしょ、東月くん。優しそうだったし。でも草食系とも違う」
「どこの女子高生ですか。どこで捕まえてきたんですか」
「ふふ。不動産屋の前で、憂鬱な横顔を見つけてちょっとね」

 電話口でなおも琥春さんは愉しそうに笑う。ふふふ、と色香を含んだ音色に、ため息が出た。

 なんでこんな人が相談室で、純真無垢なるこどもたちの相談にのっているんだろうか。謎だ。

「私が聞きたいのは琥春さんの趣味じゃなくて、"何故私のルームシェア相手が男性なのか"、ということです。ち、父に知られたらどうするんですか!」

 東月さんが女性ではないとわかってから、両親の「相手はどんな方なの?」な手の質問には緘口しっぱなしだ。『料理が得意なの』『あらっ。それで?』『…えと、や、優しくて、ステキな人だよ』『まあまあ。良い方が来てくれて、良かったわね』『まるでお前じゃないか』『やだわアナタったらそんなこと…』
 この日もこの日とて仲がいいようで、私は今のうちにと受話器を置いた。

 思い返してみると、あのいかにも恋人を紹介するかのようなくだりってどうなんだろうか。そして、今の事態に持ち込んだ琥春さんの危機感の無さったら…無い。一切。

「あら。ずいぶんなこと言ってるけど、こっちは月子ちゃんの希望通りにしわよ?」
「え? 希望、ですか?」
「料理が出来て、性格は私から見て合格で、さらにお金がちゃんと払える人」
「…確かに、言いましたね」


 忘れていたことだけれど、言われてみればそんな会話をした記憶もある。例えばどんな人がいいの?という問いに、一連の条件を述べた。

 私が納得しているのを電話越しに察した琥春さんは、ほれ見たことかと言う。

「どこにも性別の指示がないでしょう?」


 ―――あ。

☆ロマンチックエゴイスト
(100131)


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