「君、可愛いね。ひとり?」


 突然後ろから掛けられた声にヒャッと飛び上がる。甘く掠れた声だ。セリフだってベタそのもの。
 それに相反して住宅街で声掛け…一見ナンパ。いったいどんなプレイスセレクトよ。

「…友達と約束してたんですけど、たった今届いた謝罪メールを見る限り、半日ひとりです。他に質問はありますか――ヨウさん」

 名前を呼びながらゆっくり振り返った私に、なんだバレてたの?とヨウさんはがっかり呟く。

 バレてるも何も、知っている声ですから。

 ぴょんと立った一房の紅髪を揺らして、小首を傾ける姿はとても二十代半ばには見えない。

「暇ならウチに来ない?」
「…あー…とですねぇ」

 ちらり、先ほどまで伺っていた曲がり角の先に、立ち話をする牛乳屋さんと大家さんを見る。いってきますと勢いよく出てきた手前、直後にただいまをするのは控えたかった。

 アパート前の情景も気になるが、耳元でさわさわくすぐるように話すヨウさんにも気が気ではない。

「いいじゃない。月子と僕の仲でしょ」
「ご、誤解が生まれそうな言い方やめてください!」
「あ、紅くなってる。ふふ、本当に君はカワイ」
「ヨウさん!」

 私が小声で制したとほぼ時同じくして、大家さんが中に戻っていく。
牛乳屋さんが「陰険眼鏡のノッポやろー!!」と大きな声で叫んで(いったいどんな会話の末路なのか)、自転車に跨がった。

 うわ、まずい。気まずい。
 こっちに来るっ。

「さぁ、いこうか」

 自らの精神で誇張された状況にドキマギする私を知ってか知らずか、一笑したヨウさんは私の手をやんわりと持ち上げ、主君に忠誠を誓う騎士のごとく口唇で触れた。

「よ、よよよようさ…!」
「あっちの道には行きたくないんでしょう?」
「知ってたんですか?」

 だったら逆方向の、僕の城へ招待するよ。と言って手を引く彼は騎士から一転。微笑みは優雅だ。

 よくよく考えなくてもわかっていたことに彼は、もともと貴族気質だった。

☆紳士プレイ
(100408)

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