「ええっと、今日は……」
「何してるの?」
「何って、チラシチェック。買い物の基本だろ?」


 バイクに乗せてもらってやってきたのは、駅近くの大型スーパー。

 自動ドアをくぐってさっそくカゴを取りに行くのかと思いきや、隣にいると思っていた錫也は未だバイクの横に立っていた。

 ひとり歩いてきてしまった私は、どこか恥ずかしい気持ちを抱えながら小走りで引き返す。ちょっととか、もうとか、紛らわしの独り言を言いながら。こうでもしなきゃ、入って早々出ることはできなかった。変な目で見られてなければいいけど。

 そんなことなど知らない錫也は、スーパーのチラシを電車の中で新聞を読むサラリーマンのように、コンパクトにして持って眺めていた。
 目を通し終えたのか、ほどなくしてチラシはポケットにしまわれる。私が空気に話しかけてしまったことなんて、まるで知らないんだから。

「キャベツかぁ……キャベツ…、よし。月子」
「…はい」
「回鍋肉とロールキャベツ、どっちが食べたい?」
「え!…えっとー…今日はロールキャベツ」
「スープは?」
「コンソメスープ!」
「了解。それじゃ、行きましょうか、お姫様?」
「おひめ…?」

 あ。
 本日二回目の自動ドアをくぐってから気づく。文句を言うタイミング、すっかり逃してしまった。

☆カタルシスを騙る
(100221)

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