今更なこと
本に視線を落とす四季くんを横目に、紅茶をなみなみ注いだカップにそっと口をつける。
彼の細い髪がまぶたにのって、きらきらの夕日をまとってミステリアスな雰囲気を演出していた。
ちゃんと男の子らしいのに、きれい。鋭利な目尻は冷たいわけでもなく、端麗な顔を際立たせる。白い肌。薄いくちびるも、実は見た目より柔らかくてキスがうまい。…て、いったい私は何を考えているのだろう。
「……なに?」
「ううん、なんでもないの。ただ、綺麗だなって思っただけで」
「ほんとう?」
「うん、邪魔しちゃってごめん」
視点を厚い本に戻して「別にじゃまなんて思わない」と四季くんは言った。強弱の少ない言葉でも、ぶっきらぼうな言葉でも、彼の口から出るととたんに甘く優しくなる。本人が意識していない魅力。彼にはそれがたくさんあって、ひとつひとつが私を魅了する。
好きだなあ。
「俺も、アンタが好き」
え?って聞き返す前に注目してたはずの顔が目前にきていて、チウと音が鳴った。
「気にしないようにしてたけど、そんなに見られると、変な気分になる。…やっぱり、邪魔」
畳まれた本が、ソーサーの横に置かれて、私からはカップが取り上げられた。
空いた手と口には、四季くんの口と手がスルリ絡みついた。
(110507)