夢 | ナノ
世界の為の佐野万次郎
8月20日、俺の13才の誕生日。
日付が変わってすぐ、真一郎からプレゼントされたバブに跨り武蔵神社へと向かう。
神社の階段の下たむろしていた人影たちが、特徴的な排気音を響かせながら近付く俺に気付いて手を振った。
「誕生日おめでと、マイキー」
「サンキュ」
代表して言うケンチンに礼を返して、エンジンを切る。バブから降りると、その周りに創設メンバー達が集った。
「うーわ、マジでバブじゃん! かっけぇ!」
「神風……の東卍カスタムか。すげぇじゃん、マイキー」
目を輝かせ一虎とバジが笑う。
その光景に目を細める。一週間前のあの夜、バイク屋には誰も来なかった。真一郎と俺は無事朝日を拝むことが出来た。一虎もバジも今、みんなと共こうして笑いあえている。
救えたのだ。俺と真一郎は。バジも一虎も……赤音も青宗もココも。みんなには記憶の中とは違う、幸福な未来が待っている。ヒーローが、花垣武道がタイムリープする必要のない平和な世界を、俺と真一郎は掴めたんだ。
「なぁ、早速流しに行こうぜ!」
そう声をかけ、俺はバブに跨った。
§
海へ行き昇る朝日を拝んだ後、明るくなった空の下帰宅する。
バタバタと突如増えた5人分の朝食を用意するエマの隣に、手伝いを申し出たケンチンが立つ。リビングへ入って来て一番最初にその光景を目にした真一郎は、ぎょっと目をむいた後声を潜めて俺に聞いた。
「な、なあ万次郎。堅とエマって、……もしかして」
「記憶の中ではくっついてなかったケド」
「そ、そうか。いや、でも……んん」
「真一郎は、反対?」
腕を組み唸る真一郎に尋ねる。
記憶の中、二人の関係は両片思いのまま終わった。だが、それはエマが死んでしまったから。俺の背中でケンチンへの愛を囁き死ぬエマも、葬儀でエマへの思いを伝えるケンチンも。決して、俺は現実になどさせない。
「小学生はさすがに……いや、堅なら……中学生になれば、まぁ」
仲睦まじい様子の二人を再度覗き見て複雑な面持ちで口を動かす真一郎の肩をぽんと叩く。
「妹に先越されそうだからって焦んなよ、真一郎」
「焦ってねぇよ! ……ただ、」
俺の手を振り払い、分担して朝食を作るその姿を見て彼は頬を緩めた。
「俺の妹の婿は、堅ぐらいの奴じゃねぇと務まんねぇよな」
あまりにもその顔が幸せそうで。東卍総長の妹だろ、とか。無敵のマイキーの妹だろ、とか。……出て来たそんな言葉を、俺は飲み込むしかなかった。
§
朝食が終わりひと段落着いた頃、目の前に差し出された物を反射的に受け取る。
手のひらに落とされたそれを見て思わず顔を上げると、真一郎は歯を見せ笑った。
「今回の分、な」
俺の手元を覗き見て、三ツ谷とバジが不思議そうに首を傾げる。
「お守り? 誕生日に?」
「商売繁盛? ……マイキーには必要なくね?」
「ううん、必要。ありがと、嬉しいよ。真一郎」
一虎とバジ。二人の未来を、俺たちは救えた。
お守りを一度ぎゅっと握りしめ、首にかける。二つに増えた俺の首元で揺れるお守りに、真一郎は目を細めた。
「なら、俺も……」
おずおずと一虎が差し出すそれを受け取り、ラッピングを破らないよう丁寧にほどく。
「一虎、お前これ……」
「うっせ、手作りならなんでも良いって言ったのはマイキーだろ!?」
中から出てきたのは、ヒョウ柄のフレームにゴテゴテと付いた装飾の写真立て。一虎の趣味嗜好をこれ以上ないほど反映したそれに思わず笑えば、むっと口を尖らせた一虎が即座に反論する。
悪い悪いと謝りながら、俺は席を立ちテレビ台の棚からデジタルカメラを取り出した。
「よっし、これに入れる写真撮るぞ。そこに並べ」
デジカメを胸の前に掲げ、俺は真一郎が座るソファの方を指さした。
「はぁ? 主役が映ってねェなら意味ないだろ」
「いいんだよ、プレゼントされたのも見るのも俺なんだから」
怪訝そうに眉をひそめる創設メンバー達を真一郎の周りに並ばせる。カメラを構えた俺に、真一郎が穏やかな笑みを浮かべて。
「撮るぞー、オマエら」
パシャリとシャッターを切った。
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