本編 | ナノ
未来編
耳のすぐ横で風の音が聞こえる。
真下は草木が生い茂る森。
浮遊感に身を任せていたトウキは空中で体制を整えた。
一旦、生身の人間ではないトリカブトのマントから手を離す。
――トリカブトなら…仮面が割れなければ大丈夫…ですよね?
ちらり、とトリカブトを見るとトリカブトは肯定するように頷いた。
…贄になった僧が使い物になるといいが。
そんなことを思いながらトウキはぎゅ、と白蘭を抱きしめる。
ぶつかる瞬間、膝を曲げ少しでも吸収を受け流す。
ザザザ、と地面が削れる音が森の中に響いた。
砂埃の中、トウキは白蘭を抱き寄せたまま周りに目を走らせた。
「トウキチャン、此処どこ?」
『わかりません…並盛付近の山中だと予想します』
腕の中で首をかしげながら不思議そうに尋ねる白蘭に返答しながらトウキは敵の気配を探る。
チュンチュンと鳴く鳥の声が緊迫した空気を和らげる。
トウキは手に嵌めていた黒い革手袋をはずすとその白魚のような手を空中へ差し出した。
差し出したトウキの人差し指に止まった鳥は、一声鳴くと飛び立った。
『どうやら敵はいないようです、主』
鳥が飛び立った後、はずしていた黒い革手袋を手にはきながらトウキは白蘭に告げる。
そのトウキの報告に頷いた白蘭は、近くにあった木の幹に手を当て、空を見上げる。
「…うん、此処なら立地的にも…状況的にも、大丈夫、かな?」
主…?と呟きながら首を傾げるトウキに白蘭は笑顔を向けながら口を開いた。
「トウキチャンは敵が来たら始末しておいてね」
そう言い、トウキの返事を待たずに自分の周りに膜のようなものを張った白蘭にトウキはため息を吐いた。
そして、白蘭の周りを覆う膜から天高くに伸びる紐のようなものを見上げる。
『まったく…本当に主は人使いが荒い…』
あれでは、見つけてくれ、と言っているようなものだ。
一旦頭に着けていたホワイトブリムをはずし髪を掻きあげたトウキは振り向き、後ろにいたトリカブトに話しかける。
『トリカブト様は周囲を守っていてください』
こくり、と頷いた後さらさらと体を砂にして消えたトリカブトを一瞥してからトウキは右手で太ももに付けたホルスターからナイフを取り出し、森の中へ投げ入れた。
うめき声と共に何かが落ちる音が遠くからトウキの耳に届く。
『本当…浅はかな方たちですねぇ…』
私が居ることを知っていて、殺気を向けるなんて…と呟いたトウキは髪を整え、はずしていたホワイトブリムを着けながら森の方へ視線を寄越す。
人の姿は見えないが、確かに感じる肌を刺すような殺気。
耳に神経を集中すると、複数の息遣い、衣擦れの音が聞こえてくる。
10人…20人くらいですかねぇ…と呟いたトウキは白蘭がパラレルワールドを覗くことに必死で周りの状況に気が付いていないことを確認してから地面を蹴った。
任務遂行
(主は敵が来たら始末しておけ、とおっしゃりましたから)
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