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未来編


予想外の事態になった、と白蘭は舌打ちした。
まさかユニが裏切るとは…しかし、この世界には今までの世界にいなかったトウキや沢田夢月が存在している。
今までの世界と違うのは必然なのかもしれない。
今まで手に入れられなかった‘鍵’を自分は手に入れられたのだから。
しかし、と白蘭はいつもいるはずの存在がいない自分の横を見る。

――遅いなぁ、トウキチャン。

自分の頼み事はそんなにも時間がかかることだったろうか、と白蘭は首をかしげた。




『主』

消え入るような、幽かな声。少し息切れをしているのは走ったのだろうか。
耳元で囁くように聞こえたその言葉に白蘭はその顔に笑みを浮かべた。

「遅いよ、トウキチャン」
『申し訳ございません。まさかこのような事態になっているとは…想定外でした』

白蘭に頭を下げながら謝るトウキの横で沢田綱吉達を見ていた桔梗は口を開く。

「白蘭様、ユニ様をつれ戻すための攻撃許可を」

その桔梗の言葉を耳にしたトウキはスカートをたくし上げる。
スカートの裏に付いている帯を腰辺りに付いているボタンに引っかけ、スカートの一部を吊り上げた形で固定する。
この服は戦闘時のためにあらゆる工夫が凝らされている。
ボディアーマーなどにも使われている素材で織られているこの服はメイド服というよりも戦闘服、といった方が良いのかも知れない。
トウキは太ももに装着しているレッグホルスターからナイフを取り出し左右の手に三本ずつ、計六本のナイフを指の間に挟み構える。
この間、わずか二十秒。
トウキにとっては何十回、何百回と繰り返して来た行動である。

「…うん」

その白蘭の言葉と同時にトウキはナイフを投擲した。
華美でなく、しかし細やかな装飾が施されたナイフが桔梗の放った桔梗の草と共にまっすぐに沢田綱吉に飛んでいく。


が、途中で派手な爆発が巻き起こる。
爆風からの盾になるため白蘭の前に立ちながらトウキは訝しげに爆発元を見やる。


煙から出てきたのは、鮫。
スペルビ・スクアーロの斬撃を避けながらトウキはまたもや太もものホルスターから取り出した銃を構える。


アメリカ製ルガーGP100
マフィアの世界でこの内蔵型安全装置が付いた銃を持つものは少ない。

トウキがこの銃を選んだ時は白蘭も首を傾げたものだ。
6発しか装填できないリボルバーをなぜ選んだのか。
機関銃やデザートイーグルを選んだのなら納得できる。
本人に聞いても幽かに笑ってはぐらかすだけ。


トウキはこの銃になつかしむような、そんな目を銃に向けながらリボルバーを上げ、トリガーを引いた。
パン、という射撃音と共に銃弾が飛ぶ。
しかしその弾丸も獄寺隼人によって阻まれる。

トウキは眉間に眉を寄せながら走り去る沢田綱吉を見ていた。



その桔梗とトウキの行動を見ていたブルーベルとザクロは眉を眉間に寄せる。

「ニュニュウ〜何やってんのかしら桔梗とトウキ」
「バーローまどろっこしいビュンビュン草や鉛玉なんかじゃなくてここは一発よぉ!」

そう言いながらリングに火を灯すザクロの前に桔梗とトウキが立ちふさがる。

『否、ザクロ様それは強力すぎます』
「ユニ様に傷がつくことを白蘭様は望んでいない」

ザクロはその言葉に白蘭に目を映す。
白蘭の目は桔梗とトウキの言うことを肯定していた。

「わかりましたよ」

ザクロが返事をした次の瞬間、銀色の剣がザクロと桔梗の間に入り込む。

「よそ見すんなぁ!!」

けたたましい怒声と共に剣を振りかざすスペルビ・スクアーロにザクロは怒りに任せて口を開いた。

「あぶねーな!!バーロー!!」

叫ぶとともに少し離れた場所にいるトウキに目配らせする。
トウキは頷くと同時に銃を構えた。
パンパン、という発砲音と共に2発の銃弾がスクアーロに向かって飛んでいく。
当たるぎりぎりで銃弾を叩き切ったスクアーロはトウキを睨みつける。

「おい、お前…」

スクアーロが何かを言いかけたと同時に何かが暴発したような音と共に辺り一面がハリネズミのトゲで埋まる。
チッ、という舌打ちと共にスクアーロは獄寺隼人、雲雀恭弥を自身の匣兵器、暴雨鮫を乗せ逃走した。

スクアーロ達の後ろ姿を何もせずに見送ったトウキは上に来させていた超炎リング転送システムが消えたのを確認してから黒い死ぬ気の炎を辺り一面に放ちヒバリのバリネズミを焼き切った。


自分たちを拘束していたトゲがなくなったのを確認した真六弔花は素早く白蘭の元へ急いだ。



駆け付けた先には六道骸を粉々にする白蘭の姿。

「バイバイ」

塵になった六道骸に声をかける白蘭に桔梗が声をかける。

「白蘭様お怪我は!?」
「ないない。ちょっと口寂しいけどね」

駆け付けた真六弔花を見上げて笑う白蘭に、真六弔花の面々は素早く地に下りて膝を着く。

「申し訳ありません!我々がついていながらユニ様を…」
「いやーあの娘にはしてやられたよね
 こんなことなら素直にチョイスの再選うけときゃよかったかなー
 といってもユニちゃんは断るの予知してやったんだろーしムリか」

顎に手を当てながらぶつぶつと呟く白蘭の袖をブルーベルは不機嫌な顔を隠さずにその小さな手でぎゅっとつかんだ。

「ニュニュウ〜!!びゃくらんなんかプゥーだ!!」
「ん?」
「なんでユニなんて人形娘に振り回されてんの!?殺しちゃえばいいのにー!!」

そのブルーベルの物言いにトウキは少し眉間にしわを寄せる。
白蘭は顔に笑顔を張り付けながらピッ、とブルーベルの首に手を添えた。

「やだなーブルーベルユニちゃんを殺すなんて」
「!!」
「次言ったら殺す」

白蘭の殺気に当てられ腰が抜けたのか地面に尻もちを付きそうになるブルーベルの体をトウキは地面に着く寸での所で支える。
震えながらトウキに縋りつくブルーベルの頭をなでながら桔梗は口を開いた。

「失礼しました白蘭様出来れば我々にもユニ様を追う理由をお教え願えないでしょうか?」
「……言ってなかったかい?」


「僕はここ以外のほとんどすべてのパラレルワールドで73をコンプリートしているが
 どの世界で集めた73も僕を新しい世界の創造主にしてくれるほどの偉大な力は発揮していない…
 だがそれがなぜなのか今日見た目の眩むようなおしゃぶりの輝きで確信したよ
 73を覚醒させるために必要なのは魂をともなったユニだ」

話しながら白蘭はトウキから受け取ったマシュマロの袋を開ける。

「彼女を手に入れ73のナゾがとければこの世界だけじゃない
 全パラレルワールドの扉は開かれ僕は超時空の創造主になれるんだ
 ユニの魂がこの世界に戻ってきていたのは前々からトウキチャンの報告であったしね…
 ボンゴレなんかを頼りにしている点はどーでもいいや」

ズボッ、とマシュマロの袋に手を突っ込みその手のひらいっぱいにマシュマロをつかんだ白蘭は一気にマシュマロを頬張る。

「欲しい…あの娘が…」

その瞳に映るのは異常なまでの執着。
狂気の沙汰としかいいようのないその執着に、今更顔を青くするものなど真六弔花にはいなかった。

「わかったらさっさと追おうね♪」

目を細め、笑おうとして失敗したかのような歪な笑みを真六弔花に向けながら白蘭は口を開く。

「一刻も早くユニを奪え」

その主の命令にトウキは深々と頭を下げた。




  それはまさに、
(狂気の沙汰)


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