きちんとききかんりをしましょう 5 | ナノ
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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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きちんとききかんりをしましょう ご


落ち着いてみると、さすがに不良君達(襲おうとした人も止めようとした人も)をけがしたまま放っておく、というわけにはいかないということになり、とりあえず保健室に行ける者は行こう、ということになった。
ただ、千秋が最初から攻撃した3人は状態が酷いため、救急車を呼ぼうということになった。Fクラスでは別に珍しいことではないらしく、不良さん達がそういう場合に利用するFクラス生徒の家が経営する病院があるのだと教えてくれた。
少々の骨折や入院ならFクラス同士なら喧嘩でもおとがめなし(この処置のためにFクラスが作られた)らしい。ただ今回はBクラスの千秋が絡むため、これはF同士の喧嘩だったということにしようと不良さん達が決めた。千秋はそれを止めたことにしよう、と。
酷くやられた3人もさすがに俺をマワそうとしたと学園にバレルのは困るらしく、病院に行っても処罰されない方がいい、と千秋に怯えながらも同意した。

千秋自身の拳も血まみれで、一応説明をしないといけないということで保健室に俺達は移動した。
簡単に事情を説明しながら手当てを受ける不良さん達の横で、千秋は俺の手を握り締めたままうつむいて黙りこくっている。
水で洗い流したところ、千秋本人に怪我はないと分かり、事情をきくために保健室に残っている。俺は頬についていた血の跡を濡れたタオルで拭き落としながら保健室の様子を見ていた。

大山と前田君は手当てを手伝い、不良さん達は教師に説明する。
教師は確認を千秋にし、千秋は顔をあげないまま首を振ることで答える。
この後どうするべきなんだろう。
俺のところへ来たのは、向き合って答えが出たからなのか。
それとも非常事態だから仕方なく?
だとしたらこの手は離さないと。

まとまらない思考。
ぼんやりしているともう説明も手当ても終わったらしい。
「…とりあえず一旦寮に行こう。話はそれからにしよう」
大山が俺の前に立って言った。
繋いでいる手から千秋が軽く強張ったのを感じた。

結局談話室などでは他人が来るかもしれないということで、俺と千秋の部屋になった。
ただ人数的な関係で不良さんは代表者として2人が話を聞き、他の人は後日ということになった。代表者として選ばれたのは副リーダーさんと真っ先に千秋になついた3人組のうちの一人。説明が上手い副リーダーさんと、じゃんけんで勝ったことから彼らしい。
俺と千秋が同じソファに座り、対面に大山と前田君、副リーダーさんが座って不良君は絨毯に直接座っている。

大山が用意してくれたお茶を一口飲み、口を開いたのはなんと前田君だった。
「…火向様、この前の僕は少し言い過ぎたかもしれません。すいませんでした。でも、こうやって僕らに向きあっているってことは、お話して下さるんですよね」
じっと真剣にみつめる前田君に、千秋はしばらく無表情で見返し、大山達の顔も順番に見ていく。
彼らが全員真剣にこちらを見ていることを見て、千秋は一度ゆっくり瞬きをして口を開いた。

「…俺は前田の言うとおり、和希に依存してた」
うつむき気味に話す千秋の手は、もう離れている。
「…見ただろ?さっきの」
残虐で冷酷、容赦のない暴力。
「…俺、たまに頭が真っ白になって、気付いたらああなってる。頭のどこかで、相手の骨とかをやった、って分かってて、もうやめとかないと、って思う反面、どこをどうしたら相手の骨を折れるかとか冷静に考えてる」
は、と自嘲するように笑って、千秋は力なく自分の両手を見る。
「…気付いたら血だらけ、周りに立ってる奴は誰もいない。いても怯えたような目で見るだけ」
小さいころからあったし、中学時代はよくこんなことがあった、と静かに言う。

「…俺はさ、逃げてたんだ。大山や前田達と表面的には付き合って、実際にはきちんと向き合わなかった」
打ちとけて見えるのに、ある一線以上は決して踏み込ませない千秋。
「怖いんだ。あの状態になったら、殴るかもしれない。骨だって折るかも。そんなことになったら、どんな反応をされる?」
く、と自嘲の笑みを形作ったまま続ける。誰も何も言わない。
「バケモノ見る目で見て、怯えられて、結局俺は一人になる。だったら初めから向き合わなければいい」
幼いころから友達だったのに怯えられるようになる経験を繰り返して、中学に入るころにはこうするのが一番だって学んだ、という。

「…和希は違ったけど」
どこか夢見るような調子で、過去を思い出すようにして言う。
「和希は俺のこと怖がったけど、そんな目で俺に接しなかった。ああなってるときには怯えることもあるけど、いつもはそんなこと無かった」
馬鹿したら怒って、一緒にいてくれた。
「でも、和希以外もそうだって保証なんかない。和希さえいたら、他はいらない」
幼いころ学んだ、自分を守る術。
誰にも心を開かずに、ただ一人に縋りつく。

「…っ黙って聞いてたらなんですかそれ!!俺はっ!そりゃビビりましたけど千秋さんが強いってのは知ってます!それがなんだってんですか!!」
ガタン、と音を立てて不良君が立ち上がり、重苦しい雰囲気を破る。
千秋は驚いたように彼の顔を見上げる。
「殴られて骨折しても望むところっすよ!!なんなら今殴ってください!!さあ!!」
ずい、と鼻息荒く迫る不良君に、千秋はのけぞって体を引く。
「え、あ?」
混乱したような千秋。今までとは違う反応なんだろう。
というか俺もびっくりだ。望むところって…不良君の趣味が非常に心配だ。

「…っぷ、あはははははっ」
そしていきなり笑いだす大山。お前もどうした!?
「な、なんつー間抜け面…!つか望むところって…!」
ひい、と涙を滲ませるまで笑ってから、大山は千秋に向かってニッと笑った。
「俺は骨折は嫌だけど、要はあの状態になっても何とか正気に戻せたらいんだろ?俺がちゃんと岡崎呼んでやるよ」
おい、止めるのは結局俺なのか?自分でやんねーのかよ。
「…僕も殴られそうならそこの馬鹿を盾にします。望んでるらしいですし」
前田君は不良君に呆れた視線を送ってから、にっこり千秋に笑いかける。

「俺達がいざとなったら止めますし、大丈夫ですよ」
副リーダーさんがそう纏めると、未だ困惑したように見ている千秋に、前田君が優しく話しかける。
「…僕等は離れたりしませんよ、だって火向様のこと、大好きですから」
ようやく彼らの言いたいことを呑みこんだのか、千秋の眼が見開かれる。
「ま、そういうことだからこれからはもっと仲良くしようぜ」
大山が続けて、優しく笑う。

「…あ、俺…」
何か言いたげに口を開くが、言葉が出て来ない千秋は、しばし逡巡した後、一度ぐっと口元を引き締めてから、小さく呟いた。
「…ありがとう…」

穏やかな空気の中、千秋の声が微かに震えていたのには誰も気づかない振りをした。




101011

あと少し続きます…
予想より長くなってしまった…