きちんとききかんりをしましょう 2 | ナノ
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きちんとききかんりをしましょう に


あの俺の説明以降、不良さん達も俺と距離を置いている。
というか、せめて俺達は火向さんの傍にいたいんです、尊敬する方が苦しんでるのに、じっとしていられない、何も出来ないけど傍にいるぐらいしたいんです、と言われた。
俺としては他人の行動にまでどうこう言うつもりは無い。
俺は追いかけないけれど、他人が追いかけることについてまで口出しはしない。
大山は不良さん達といくつか言葉を交わしてから、俺は岡崎と一緒にいるよ、と言った。
平凡同士仲良くしてようぜ、と軽く笑って言ったのは、その場の重い空気を消し去るためだと思う。
大山はそういう気配りが上手い、良い奴だ。

とにかく俺はそういう経緯でいわゆる不良さんがたとは距離を置いていたのだ。
そして俺はうっかりと忘れていたことがあった。
これは俺のクラスが比較的穏やかな気性の人物が多く、他のクラスよりも高校からの外部生にとっては過ごしやすい環境であったことも関係している。
また、前田君の告白により誘拐した3年を放置していたことも悪かったのだと思う。
とにかく俺はこの学校の特色とも言うべき点についてすっかり忘れ去っていた。
そう、美形にはファンが出来、中には非常に過激なことまでしてしまうファンも出来るということを。

「…えーと…とりあえず大丈夫?」
「これが大丈夫に見える?君、頭大丈夫?」
「ですよね…」
はは、と乾いた笑いをたてる俺に冷たい視線を送る前田君。
俺達は仲良く両手両足を縛られた状態で教室に転がされていた。
どうやらあまり使われていないらしく、隅の方に埃が見える。

「確か俺、移動教室で…」
階段を降りてる途中で忘れものに気付き、急いで教室に取りに戻る途中通りかかった廊下でいきなり薬みたいなのかがされて…。
「僕もその途中に連れて来られて縛られたんだよ。今ちょうど6時間目の途中。だけど助けなんて考えない方が良いよ、今度は早退して寝てることにするからって言ってたから」
淡々と告げる前田君は顔色があまり良くない。

「前田君、大丈夫?顔色が…」
「…君こそ自分の心配しなよ。分かってないみたいだから教えとくけど、6時間目終わったら僕達も終わりだからね。あいつらFの奴らに声かけたんだよ、僕達を二度と火向様の前に出れないような目に合わせてって」
「そ、それって…」
嫌な予感に顔が引きつるのが分かる。大山から聞いていたけど、まさか、そんな。
「…多分マワされるだろうね。運が悪いとそれからサンドバック」
火向様のこと目ざわりって言ってた奴ららしいから、君も当てつけにヤられるだろうね、と告げられた言葉に俺は絶句する。
俺も自分の顔色が悪くなるのが分かる。

「…残り時間は30分、ここはこの前の倉庫に近い教室で使われることはめったにないし携帯はもちろん無い、脚を解かないと逃げ出せない。他に何か質問は?」
やけくそ気味の前田君に俺はありません、と小さくこたえる。
とにかくここから逃げ出さねば!
きょろきょろ周りを見るが、見事何も無い。
どうするか、と考えているとふいに前田君に話しかけられる。

「…どうして君だったんだろう」
「え?」
「火向様に初めて優しく接したの、どうして君だったんだろう」
絶句した俺に、それぐらい火向様から聞いて知ってる、初めて優しくしてくれたから大事なんだ、って嬉しそうに教えてくれたよ、と言われる。
「…別に、俺じゃないと駄目だったことは無いと思う。多分…前田君でも良かったはずだよ」
「…僕だってあんなこと言うつもり無かったんだよ。ただ、あんまりにも僕を見てくれないから…」
どこか悲しそうに言う前田君に、俺はかける言葉が見つからない。

「…初めは顔と将来のための繋がりからだったんだ」
床に視線を落したまま、前田君はぽつりと話しだす。
「でもよく知るうちに、慣れないながらも優しくしようとする姿とか、一生懸命に取り組む姿とか…僕のことを、そういう対象として見ないこととか…気付けば段々本当になってた」
ばかだよね、そういう対象で見てないって知ってたのにさ、と前田君は言う。
「そうしたら疑問に思ったんだ、君に対することに」
初めは些細なことだった、と続ける。
「2階から飛び降りる前、教室から君を見たときの表情が小さい子供みたいに見えたんだ。おいて行かれることを心配する子供」
それからよく見ていくうちに、もう転がるように考えが展開して、ある疑問が浮き上がったんだ、という。

「火向様は君に依存してるんじゃないか、刷り込みみたいに好意を抱いてるんじゃないか、って」
そう思ってる所に友達なんて言われて、思わず告白しちゃったよ、と笑う。
「1か月離れていれば、少しは落ち着くかと思ったんだ。僕のことだって見てくれるんじゃないかって」
でもそんなことは無かった、と震える声で呟く。
「離れるほど逆効果、君を追いかけてる。とうとう声をかけたとき、我慢できなくなってあんなこと言っちゃったんだ。ほんとばかだよね、結局傍に居づらくなっちゃって、君まで火向様は避けちゃうし。周りからFクラスの人が消えたことを幸いとあの人たちに今度は本格的な制裁受ける羽目になるし」
最悪だよ、と呟く前田君に、俺は確信する。

「…俺はさ、この前のセリフから考えていたんだ、どうして気付いたんだろう、って。だって大山は気付かなかった」
千秋自身、普通の好意に見えるよう無意識に装っていたのに、前田君は気付いた。
「答えは簡単なことだった…前田君は本当に千秋のことが好きなんだ、だから気付いた」
ゆっくり俺は前田君を見つめる。
涙で濡れた瞳に情けない顔の俺が映る。

「…俺はさ、前田君みたいな人こそ、千秋の傍にいるべきだと思う」
「え…?」
「俺なんかより、君の方がいるべき場所なんだよ」
戸惑ったような前田君に、俺は笑いかけてから上半身を何とか起こす。
「さ、とりあえずここから逃げないと。前田君、このロープって縄だよね」
「え?う、うん」

後ろ手に縛られた手首を何とか使って俺は廊下側まで近づく。
尻や太ももが床にこすれて痛いが仕方ない。
なんとか近づいて俺は扉の下の方にもちゃんとガラスが残っているのを見てから脚を振りあげる。
防犯対策として扉の下にも向こうが見えるようにガラスがはめ込まれているのだ。
俺は縛られた両足で狙いを定め振り下ろす。

カシャン、と高い音を立ててガラスが割れる。びっくりした様子の前田君に笑ってから、落ちた破片をとるために肩越しに後ろを確認しつつ手に取る。
縄を切り始めた俺を茫然と見ている前田君。
「実はこの学校に来る前にさ、千秋のおじさんに色々危機に陥った際の対処法とか学んでたんだ、これはまあその一例。俺は別に喧嘩強くないから、逃げる方法ね」
何とか手首の縄を切り、足首の分も切ってから急いで前田君の分も切る。

「っ!岡崎、君手を切って…!」
「え、ああ、これくらいなら大丈夫だって。それよりもう時間が無い。とにかく外に出よう」
上手く出来なくてところどころ血が滲んでいるが、そんなに酷いものは無い。
それよりも貞操の方が大事だと階段を下りていた時に、チャイムが鳴った。
ヤバい、と焦る俺達に神は味方しなかった。

校舎を出たところでFクラスの生徒数人に見つかったのだ。しかも多分頼まれた奴ら。
追いかけてくるからとっさに飛び込んだのはこの前の倉庫。
しまった、と出て行こうとしたときには遅く、入口にはこちらを見てにやにや笑う不良たちが立っていた。




101008

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