いがいときずつきやすいいきものです 2 | ナノ
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いがいときずつきやすいいきものです に


そんなこんなでアッという間に時間は過ぎ、とうとう前田君の言った期限、千秋の返事を聞く、という日が来てしまった。
放課後にでも聞くのだろう、と思っていたのだが、お昼御飯の時間にそれは起きた。
発端は些細な一言だった。

「そういや岡崎さんってこの映画見たがってたすよね」
千秋と前田君が不良さんを交えながら会話しているのを見ながら、少し距離を置いて食事をしていた俺と大山の前に座っていた不良さんの一人が雑誌のページを指さしながらそう言った。
「ああ、それか。DVD出たのか」
「どれ?あ、俺これまだ一個前の見てないわ」
「ええっ大山さんそれはすぐ見るべきですよ!」
すでに3部作が公開されたもので、今までは2部までしかDVD化されていなかったのが、今回3部作目がDVDとなったのだ。
俺が公開終了間際に、今回は見に行けなかったから残念だと言っていたのを覚えていたらしい。

「俺もこれ見逃したんで、岡崎さんもお仲間だ〜って覚えてたんですよ」
「ここちょっと不便だからな…」
全寮制の不便なとこは、平日気軽に放課後出かけることが出来ないことだ。土日も街に行くには基本的には外出許可が必要となるので、必然的に外出は少なくなる。
学校側もその対策として学園内にミニシアターやブランドショップやら、娯楽施設を用意してあるのだが、俺の見たかった映画はセレブにはお気に召さなかったらしく、上演予定には組み込まれなかった。

「これ、今日ぐらいには届くと思いますんで、2人で俺の部屋で一緒に見ませんか?他に見たいって人いないんすよ」
「本当か?なら喜んで…」
見に行く、と言おうとした時、千秋の「俺も」という声が入ってくる。
「俺も、それ見に行く」
いきなり会話に入ってきた千秋に、俺も不良君も、大山もぽかんとした視線を送る。
「…も、もちろんいいっす…」
よ、という不良君の声に前田君の大声が被った。

「どうしてなんですかっ!!」
その声に俺達はびっくりして前田君の方を見る。
前田君は真っ赤な顔で千秋を睨むように見上げていた。
「どうして火向様はいつもいつもそうやって彼を気にするんですか!!」
ビッと指を差されたのは俺。
「真剣に考えるって言ってくれたのに、彼が傍にいないと僕なんて見てないじゃないですか!!」
「そんなこと…」
「あります!!僕を眼で見ていても、僕として認識さえしてないじゃないですか!!僕だけじゃ無い、他の誰も!!」

勢いづいた前田君の言葉は止まらない。
俺達は声も出せずにただ聞くことしかできない。
「いつもいつも彼の存在を気にしてる!!こんな状態で考えたなんて言っても、僕は納得できません!!」
前田君の叫ぶような言葉。
「火向様のそれはまるで彼への依存です!!子供が親の愛情を求めるのと同じに見えます!!火向様が彼へ抱く感情、好意は、刷り込みなんじゃないんですか!?」

はあはあと荒い息で言い切った前田君は、その言葉に顔色を無くして茫然とする千秋をキッと強い視線で見る。
「…僕は今のままでは返事なんて聞きませんから!火向様がずっとそんな状態なら、諦めたりなんてしませんから!!」
それだけ言うと前田君は駈け出して行ってしまう。
部屋に残った人は誰も動けないままそれを見送る。

今回沈黙を破ったのは、不良さんの一人が持っていた缶がカラン、と高い音を立てて転がった音だった。
その音にハッとしたように横を見る千秋。
俺と視線があった、その、瞬間。
「ーっ」

「っ千秋さん!!」「火向!!」
不良さんと大山が焦ったように名を呼ぶが、教室から走って飛び出した千秋の背は止まらない。すぐに角を曲がって、見えなくなってしまう。

「…岡崎さん!千秋さんが…!!」「すぐに追いかけないと…!!」
「いいよ」
俺の言葉に、扉へ向かっていた不良さん達が止まる。
「…岡崎…?」
訝しげに大山も俺の方を見る。
「いいんだよ、追いかけ無くて」
「でも…!」「あんなにもショックを…!!」
「いいんだ」

何度も繰り返す俺に、理由を求めるような視線が突き刺さる。
「…千秋もそろそろ、向き合うべきなんだよ」
さらなる説明を求める視線を感じながら、俺は静かに目を閉じる。
まぶたの裏に、俺と視線があった千秋の顔が浮かぶ。

傷ついたような表情を浮かべた千秋。
その瞳は真実を暴かねばならないことに怯えているように、俺には見えた。




101006
(いつかくるこの日に、本当に怯えていたのは、どちら?)

ちょっとシリアス?ですがしばらくこういう感じになると思います…