むりにいうことをきかせようとしてはいけません 4 | ナノ
×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -


むりにいうことをきかせようとしてはいけません よん


「千秋っ怪我するくらいなら喧嘩しろっ!!」
よく考えて口に出したわけでは無い。
ただ、俺は千秋が怪我をする、ということを阻止するだけに口を開いていた。
「お前がでかい怪我するくらいなら喧嘩にでも巻き込まれてたほうがマシだっ!!」

突然の大声に驚いたのか、一瞬スピードが緩まったが、止まらずに千秋に振りおろされるナイフ。
刺される、と思った瞬間、千秋の下げられていた手が動く。

「…それ、ほんと?」
ぐ、とナイフを右手で握るようにして受け止めた千秋が、顔だけを俺達のいる2階に向けて聞く。
「…大きな怪我しなきゃ、喧嘩しちゃっても和希の傍にいて良いって、ほんと?」
受け止めた右手から血が流れ落ちているのに、痛みなど感じていないかのように千秋はまっすぐに俺を見つめて聞いてくる。
「っああほんとだっ!!」
俺がそういうと千秋は嬉しそうに笑った。
子供のような無邪気な喜びを表す笑顔に、一瞬状況も忘れ見惚れる。

「…おい火向!てめえどこ見てやがるっ!」
その声に俺はハッとする。とりあえずこの状況を何とかしないと!
「千秋っ!喧嘩していいからサッサと勝てっ!!」
後になって思うとこの時俺はテンパってたのだろう、隣で大山が「サッサと勝てっておまえ…」とひきつった顔で呟いていた。

「はあ?てめえふざけたこと言ってんじゃ…」
「分かった、すぐ終わらすから待ってて」
その言葉と同時に千秋は眼の前の河辺を蹴り飛ばす。
そう、まさに河辺は宙を飛んだ。
ドガ、という鈍い音を立てて後ろにいた不良たちにぶつかる河辺。
あまりの出来ごとに不良たちが固まる中、千秋はぺろ、と血のにじんだ口元を舐めてから言い放った。

「和希が勝てって言ってくれたし、ちょっと俺本気出すから。今なら見逃すけど、どうする?」
その言葉に我に返った不良たちは怒りをあらわにする。
「ってめえふざけんな!!」「ぼこぼこにしてやらあっ!!」
一気に駆けてくる不良たち。
千秋はそれを見て猛獣を思わせる光を眼に宿して笑った。

結果として言うと千秋の圧勝だった。
ものの12、3分で立っているのは千秋だけになった。
千秋は右手を使わなかったが、左手の拳でも十分な威力らしく、くらった奴はなかなか起き上がってこなかった。長い両脚から出される蹴りはまさに一撃必殺で、受けた奴はもう起き上がらなかった。
多数対一人、という状況も利用して仲間同士の相討ちも結構あった。
が、千秋の圧倒的な強さを眼にした3人組は眼をキラキラさせて尊敬のまなざしを送っている。

うう、とうめく男達の中の一人、河辺に近寄って千秋は怯えたような河辺に言う。
「ええと…川本だっけ?今回のことは和希に免じて許してやるからさ、もう俺に喧嘩売ってくんなよ?俺は出来るだけ喧嘩しないことにしたんだ」
川本って誰だよ、河辺だよ、河辺。というか俺に免じてって何?
つっこむ俺をよそに千秋は続ける。
「もしそれでもやるなら、次は本気で相手するからな。お前だって怪我は嫌だろ?それ、冷やしとけよ。内臓はいってないけど、痣にはなるはずだから」
それ、と千秋は蹴りを受けた腹を指さして言った後、もう気は済んだのかこちらに向かって歩いてくる。

「和希」
改めて嬉しそうに名前を呼ばれると照れる。
「…言っとくけど俺は喧嘩自体は反対してんだからな」
「うん。だから俺、喧嘩しないのは無理でも、出来るだけしないことにする」
にこにこ嬉しそうに言う千秋に俺も仕方ないけど進歩が見えたからよしとするか、とようやく小さく笑えた。
「んじゃ千秋、傷の手当てしに保健室行くぞ」
「うん」
「うわっそれ痛くないのかよ、火向」
「さすが千秋さんっ!!」「かっこいいっす!!」

ほのぼのした空気が流れてきたその時、「な、何があったんですかっ!」と教師が駆けつけた。まああれだけ騒げば当然か。
結局その後ひとまず千秋と不良たちは保健室に、俺達は指導室でみっちり怒られた。
俺と千秋、大山と3人組は3日間の謹慎を言い渡された。喧嘩を売られたということでこの程度ですんだらしい。千秋のは正当防衛(過剰じゃないか?)ということで判断された。まあ全治3週間の怪我を負ったということもあっただろうが。
Fクラスの大半は1週間。河辺は2週間の謹慎になった。
ナイフのこともあり、もっと厳しい処分を考えていたらしいが、なんと千秋が軽くしてやってほしい、と頼んだらしい。
それを聞いた大山が理由をきいたところ、あほっぽい返事が返ってきた。
「だって今回のことが無いと和希と仲直り出来なかったから」
俺はこれをきいて脱力した。3人組と大山は喜んでいたが。

ひとまず千秋もむやみに喧嘩しない、と決意したし、これでしばらくは落ち着くだろう、と俺は安心した。
謹慎が終わって登校した際、やけに遠巻きに見られていると思ったが、平凡なくせに謹慎をくらったからだと思っていた。
実は俺が千秋に河辺率いるF組グループををぼっこぼこにしろ、と命令したのだという噂が流れ、猛獣(千秋)を使って気に入らない奴をぶっ潰す悪魔のような男だと囁かれていることを知って驚愕することをその時の俺はまだ知らなかった。




100926
(俺が命令ってなんだそれええ!?)
(あれじゃね?勝て宣言)
(和希が命令するなら、俺ぶっ潰すよ?)
(しないから!!)

ちょっと流血表現
怪我の治療期間とかは適当です(笑)