むりにいうことをきかせようとしてはいけません 2 | ナノ
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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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むりにいうことをきかせようとしてはいけません に


あれから俺と千秋は一言も口をきいていない。
前後の席のためプリントのやり取りぐらいはするが、始終無言で顔を見ようともしない。
もちろん昼だって別々に食べるし、寮の部屋でも自室に閉じこもっている。

「岡崎、もうそろそろ許してやったら?」
そんな状態が1週間近く続いたある日の昼、大山がそう言ってきた。
「気づいてるだろ?火向ときどき岡崎のこと飼い主に怒られて仲直りしたいけどどうしたらいいかわからない犬の眼で見つめてるぞ」
確かにここ2、3日千秋が物言いたげに俺のほうを見ていることを俺は知っている。
いつもならこの時点で仕方ない、と折れるところだ。
だが今回は違う。

「…たとえそうだとしても、俺に何も言ってこないってことは別に大したことじゃ無いんだろ」
「別に大したことじゃないって…あんな顔してみてんだぞ?火向のことだから、どうせ仲直りしたくても仕方が分かんないんだろ?岡崎が折れてやらないと…」
「それだよ」
俺は少々行儀が悪いが、箸で大山をピッと指し示す。
「そうやって千秋を甘やかす。だからあいつは幼稚園児レベルのままなんだよ」

俺は今回のことを受けてちょっと真剣に考えてみたのだ。
確かに初めは俺も勢いだけでの行動だったが、落ち着いて考えてみるとこれはいい機会なんじゃないか?と思い至った。
そもそもなんで毎回毎回俺が世話をしないといけないんだ?
俺がいるということが千秋の行動を助長しているのではないのか?と。
そこで俺は今回は余程のことが無い限り、千秋から「仲直り」を願いでない限りは世話をしないことに決めたのだ。

「まあ確かにそうとも言えないこともないけど…」
「だろう?それに今は3人組も前田君もいるし、俺一人いなくても大丈夫だろ」
今までは俺しかいなかったが、今は千秋の周りにも人はいるのだ。3人組は「千秋さんを励ましてくるっす!」とここ最近は千秋とお昼を食べている。そこに前田君も加わっているようだ。
「でもさ〜そろそろ俺達が限界なんですけど…」
特に俺、と大山は呟く。
千秋はクラスで最近ずっとイライラしているのだ。おかげでクラス内は静まり返っている。

「少ししたら落ち着くだろ」
「いや、そんなこと無いと思うけど…」
大山の言葉は無視して箸を進める。
大体ペットの飼い方の本にはこういうことが書いてあるではないか。
『躾は厳しくしっかりとしましょう』と!

そういうわけで俺は最近まったく世話をしていなかった。
喧嘩することはあっても、千秋はほとんど無傷か擦り傷程度だったので放っておいても大丈夫だろう、と思っていたのだ。
あれから大きな喧嘩をしていなかったということも俺を楽観的にしていたのかもしれない。

問題はその日の6時間目に起こった。
5時間目の終わりにトイレに行ったきり戻ってこない千秋を不審に思ったものの、もともと不登校児だったのだからサボりか、ぐらいに思って俺は普通に授業を受けていた。
授業中の教室のドアが大きな音を立てて開けられたのは、そろそろだるくなってくる中間あたりだった。

バアン!!とすごい音をたてて開けられたドアに皆驚いて注目する。
俺も眠気が吹っ飛んだ。
そこにいたのは3人組の一人だった。
「ー飼い主さんっ!!」
叫んで俺のところへ駆けてくる彼は喧嘩したのか、口元が切れて血が滲んでいるし、制服もよろよろになっていた。
何事かと眼を丸くするクラスメイト。教師も驚きのあまり注意を忘れて見ている。

「火向さんがっ!河辺さんに連れていかれたんスっ!!」
河辺?誰だそれ、と思った俺に気付いたのか、大山が教えてくれる。
「Fクラスで最大派閥の不良のトップだよ、この学園で一番強いって言われてる人」
「いきなり大勢で取り囲んで、話があるって…!俺達、嫌な予感がして止めようとしたんすけどFクラスの奴に殴られて…」
「河辺ってあんまりいい噂聞かないからな、これはマジでヤバいかも」
いつもはひょうひょうとしている大山が若干顔色を悪くしてそう言う。
「とりあえず俺が飼い主さんを呼んで来ようってことになったんす!一緒に来てください!!」
そう叫んだと同時に無理やり手を引いて立たされ、そのまま引きずられるようにして走りだす。
「先生、俺達ちょっと体調悪いので早退します!」
と大山が言って俺達の後について走り出す。
大山、こんなに元気に走ってるのにそれは無理あるだろ!と俺はまだよく回らない頭の中でつっこんでいた。




100924
今回はギャグな感じになかなか出来ない…
かといってシリアスには決してならないんですけど(笑)