副会長と生徒会 | ナノ
×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -


副会長と生徒会


はあ、と豪華な室内に溜息の音が響く。
ここはとある学園の生徒会室。きらびやかな空間にはそんな空間にも負けない美形達が集まっていた。
みな席に着き真面目に書類やパソコンに取り組んでいる、ように見える。

はあ、ともう一度溜息が聞こえたとき、一人が声をあげる。
「〜っもう我慢ならねえ!なんで俺様がこんなとこに閉じ込めらんねえといけねえんだ!?」
ガタン、と椅子を倒して立ち上がったのは生徒会長の中島。イライラしたように手にしていた書類を机の上へ放り投げる。
それに慌てたのは他の役員。
「ちょ、会長!何してんすか!」
「そうだよっ!ちゃんとしなきゃだめだよっ!」

口々に言ってくる役員の言葉を会長は鼻であしらう。「けっお前らでやりゃあいいだろうが。大体夢樹に昨日の夜から会ってねえんだ!俺は夢樹に会いにいk…」
夢樹ー多くの美形を虜にした転入生である。その転入生に会いに行くと言おうとした会長に役員たちは真っ青な顔をして会長の背後を凝視する。

「…今、なんといいましたか?中島」
ぎくりとした会長が振り向く。そこにはパソコンに向かって座る副会長ー瀬戸朱史がいた。
「…聞こえませんでしたか?今なんといったか、と聞いているんです。中島」
丁寧な言葉遣いなのに恐怖を感じる。こちらを見て微笑んでいるように見えるが、その実眼は笑っていない。黒い笑顔に役員たちは彼が今非常に不機嫌であることを悟り、会長が何も言わずに席に戻ってくれることを期待した。
が、期待は見事裏切られた。

「お、俺は夢樹に会いに行く!これ以上我慢ならねえ!」
その発言に彼は形のいい眉を顰める。
「…中島、ではもちろん溜まっていた書類は全て終わったのでしょうね」
「そんなもんは知らねえ。大体さっさと処理できないお前らがわr…」
悪い、という言葉は眼の前の彼から漂う冷気によって続かない。

「…中島…これは、誰の、せいだと?」
役員たちは室内の温度が急激に低下していることを感じ、必死に会長に今すぐ謝るように念じたが、会長はプライドからか気丈にも「お前らのせいだろうが!」と言い張った。

「…この猿が…」
地の底から響いてくるような冷たい副会長の声に、役員たちはこの世の終わりを予感した。
「言ったろうが、サルに構っても良いが、俺に迷惑をかけるなと」
漂う黒い空気に役員達は魔界の王の降臨を悟った。

「っ罰だとてめえは言うが、昨日からこんなとこに監禁みたいな真似しやがって!大体俺が会長だ!てめえらは俺に従うべきだろうが!!」
ひるみながらも立ち向かう姿は勇敢とも言えないこともないが、役員たちには意地になりすぎて引っ込みがつかなくなってしまったとしか思えない。しかも自分たちにまで同意を求めるような発言に、こちらにまで被害が及んだらどうしてくれる!と顔色がさらに悪くなる。

「なぜ従えと?」
「一番強い奴に従うのが普通だろうが!」
確かに会長は不良グループの総長を務めていることもあり、喧嘩という意味でも強いうえ、役職上は確かに会長が一番とも言えなくもない。
「でしたら俺と勝負しましょう。勝ったほうがこの生徒会でのトップです」
あなた方にも参加権はありますがどうしますか?と聞かれた役員たちは声もなく首を横に振る。まだ命は惜しい。
「勝負方法はどうします?今すぐ決めれるものでしたらなんでもいいですよ」
「だったら喧嘩だ。手っ取り早いし決着もはっきりする。負けを認めるか気を失うかしたらそいつが負けだ」
「いいですよ。場所はこのままでも?」
「構わねえ。こいつらが証人だ」
役員の机があっても十分広いが、障害物を考慮しての喧嘩は難しい。

そもそも副会長に喧嘩ができるのか?会長はよく聞くが、副会長は悪い噂は聞いたことが無い、と役員達は思う。
大けがしてしまうんじゃ、という役員達の心配をよそにゆっくりと立ち上がった副会長は机の横に立つ。
「開始の合図は?」
「このアラームだ」
携帯を操作して1分後だ、と会長は机の上に置く。
「後で後悔するなよ」
「そちらこそ」
会長の言葉にふ、と笑って返す副会長に役員達はこの勝負の勝者を悟った。
会長は果敢にも魔王に戦いを挑んだのだ。

そこからは全てが一瞬だった。
アラーム音と同時に動いた会長、迎える副会長。
役員達が息をのんで見守る中、一瞬の後には会長が地面に倒れていた。
早すぎてよくわからなかったが、後日役員達の記憶を総合した結果、会長の拳をよけながら放たれた副会長の手刀により会長は意識を失ったらしい。
「…自分の敵う相手かどうかぐらい理解しろ、この猿が…」
倒れた会長を見降ろしながら低く呟かれたセリフに役員一同は思った。
今ここに魔王がいる。
人間が魔王に敵うはずが無い、俺達は魔王の下僕でいい、と。

「さて、これでトップは俺ですね。あなた方はもちろん仕事をあと30分もあれば終わらせられますよね」
にっこりほほ笑んでいる姿は役員達には最終警告に思えた。
必死にやって間に合うかどうかの時間だが、拒否はすなわち会長の二の舞。
必死にこくこくと頷き、一斉に仕事に取り掛かる。
「ああ、コレはどこかに置いておいてください」
コレ呼ばわりされた会長の身体を急いで会長席にもどし、作業を続ける。

そして約束の30分後。
役員達は神に感謝した。一生のうちで一番必死になった30分だった。
「これでとりあえず本日までの分は終了ですね。ああ、俺は帰りますが、ソレが起きたら仕事を終わらせるようあなた方で監視しておいてください」
ソレ、とは未だ意識の戻らない会長である。
「明日確認しますが、その時に出来ていないなどと言って俺を失望させないでくださいね」
にっこりと言い渡す魔王に誰が逆らえるだろう。

「写真ではあの美しさを堪能出来ないんですよね。やはり実物を触って感じないと…」
最後に書類をまとめる役員達を監督していた副会長が、自分のパソコンの画面を触りながら小さく溜息をつきながら呟く。
そういえば彼はことあるごとに溜息をついていた、と思い画面を後ろからちらりと見た役員は固まった。
そこにあったのはたくさんの脚の写真。しかもどうやら隠し撮りのようなものまである。
そのうちの1枚、多分体育の時のものだろう、三角座りをしているものに副会長は触りながら溜息をついているのである。
写真の少年には見覚えがあった。先日食堂で連れ去られた彼だ。
平凡な容姿だが、印象的な出来事だったため覚えている。

「もう我慢できません。俺は先に自室に帰ります」
パソコンの電源を落としながら副会長はそう言い立ち上がる。
「後は頼みましたよ」
必死に頷く役員を見てから彼は自室へ帰って行った。

「…副会長のパソコン、あの子の写真でいっぱいだった…」
茫然とひとりの役員が呟くと、そういえば、と他の役員が反応する。
「…そういえば最近3日ほど副会長部屋から出なかったとき、食堂に2人分注文があったらしい…」
しん、とした室内に広がる感情はひとつ。
役員達は魔王への生贄となった哀れな少年に対し同情した。






100918
(瞬、疲れた俺を癒してください!その美脚で!)
(ひいいぃ!脚に頬擦りするなああぁ!!)

こうして魔王は生徒会を掌握した(笑)