じぶんをしゅじんだとにんしきさせましょう  さん | ナノ
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じぶんをしゅじんだとにんしきさせましょう さん


ひゅ、と空を切る音。
ほぼ同時に派手に物体同士がぶつかる音が響く。
「うわっ!」「きゃあっ!」
扉のあたりにいた生徒が驚いて飛び退く。彼らの足元にはさっき千秋に対し殴りかかろうとした生徒。うめき声をあげる彼に、そこまで力いっぱい蹴っていないか、とひとまず安心する。

「…ってめえぇ!!」「ふざけんなっ!!」
ようやく何が仲間に起こったのか理解した残り二人が一斉に千秋に殴りかかる。
さっきは何が起きたか分からなかっただろう周囲にも今回は動きが見えたと思う。
千秋は二人の拳をよけながら一人には腹に拳を一発、もう一人には蹴りを一発お見舞いした。空を飛ぶようにして後ろにあった扉にぶつかる二人に、周囲は沈黙する。

まあ当たり前の反応だ。
人を一撃でぶっ飛ばすなんて、普通では考えられない。俺も千秋に会うまで人が宙を舞うなんて漫画の中だけだと思っていた。
「すっげー、めちゃくちゃ強えんだ」
大山が感心したように呟く。

「…っ、この、化け物めっ…」
ぶっ飛ばされた悔しさからか、吐き捨てるように一人が呟く。
俺は、その言葉に、さっと血の気が引いたのを感じる。
千秋は静かに男を見つめているが、その眼の中に、暗い光が、見えた。
瞬間。

「っぐあっ!!」
ガッと鈍い音。千秋が男の顔を蹴り上げたのだ。
鼻血を出してうめく男を、千秋はさらに蹴りつける。
「わ、悪かった!だからもう許してくれ…!」
仲間の一人がぼろぼろにされていくのに恐怖を感じたのか、一人が千秋の脚に抱きつきながら叫ぶように言うが、簡単に振りはらわれたうえに蹴りを受け、教室の前の壁に鈍い音を立てぶつかる。
「…うぅ、やめ、ゆるし…」
苦しそうにうめく男にさらに苦痛を与えようと脚をあげたとき、俺は決死の覚悟で持って千秋の名を呼びながら体当たりした。

「千秋っ!もうこれ以上は駄目だっ!」
千秋の身体に横から抱きつくようにして教卓のほうへ押しつける。
反射的に俺を振り払おうとする千秋に必死でしがみつく。手を離したら俺もぶっ飛ばされることは経験済みだ。
「千秋っ落ち着けっ!」
というか落ち着いてもらわないともう俺がもたないっ!

ぎゅうう、と全力で抱きついているのが俺だと理解したのか、千秋がようやく身体から力を抜く。
「…和希…」
俺の名前を呼ぶ千秋に、もう押さえなくても大丈夫だな、と身体を離そうとした時、強い力で抱きこまれる。
「和希…和希…!」
俺の名を何度も呼びながらまるで縋りつくように全力で抱きしめてくる。

そう、全力で。
「ちょ、ちあ、ギ、ギブ…しぬ…!」
ぎりぎりと締め付けられる身体に生命の危機を感じる。
「ご、ごめん。大丈夫か?和希…」
ハッとしたように腕の力を緩める千秋に、すばやく距離をとって何度も大きく呼吸する。酸素がおいしい。

「…あのさ岡崎、岡崎と火向…君って、どういう関係?」
おずおずと聞いてくる大山。周囲の人間も興味津々なのかしんとしたまま俺の返事を待っている。
緊急事態だったとはいえ、俺から千秋に接触するなんて最悪の事態だ。
しかもギャラリーがこんなにいる。

何と答えようかと思っていたとき、教師陣が駆けつけてきた。
「なんのさわ…!ひ、火向君っ!」
教卓の横に立つ千秋と倒れた生徒3人を見て、教師は大体のことを理解したのか顔をひきつらせる。そのとき固まったままだった前田君が声をあげる。
「せ、先生!火向様は悪くありません!先に殴りかかってきた彼らへの正当防衛です!」

確かに最初のはそうだが、最後のほうは違うだろ、と思ったが、やはり火向の名は強力なのか、前田君の意見を後押しするように周囲からも同様の意見が出る。
教師はどうすべきか迷ったように、一応倒れている生徒にも確認をとる。
「ええと…彼らの言うとおり、なのか?」
3人はしばらく顔を見合わせた後、小さく「はい…」と呟いた。
「そ、そうか。それなら君達は保健室の後に処分を受けることになる」
ほっとしたようにいう教師は周囲の生徒を教室へ帰るように指導し始める。

俺は教卓の横で気まずげに立つ千秋に向きなおる。学校から処分が無いのは別に構わないが、やりすぎたと自分でも思っているなら相手に言うべきことがあるはずだ。
「千秋」
俺の言いたいことが分かったのか、千秋は視線を揺らがせたまま小さく言い訳する。
「…向こうから喧嘩売ってきたんだ、俺は悪く…」
「千秋」
先ほどより心持低い声で呼ぶと、うっと詰まった後観念したように3人に向かって口を開く。

「…喧嘩売ってきたお前らが悪い…けど、ちょっとやりすぎた…と思う…悪い…」
気まずげにそういった後、俺のほうをこれでいいか、と伺うように見るので、よし、と俺は大きく頷いてやる。
すると嬉しそうに俺のほうへ近寄ってくる。

「…なんていうかお前ら、ペットと飼い主みたいなんだな…」
俺と後ろにくっついている千秋を見て、大山がしみじみという。
それに大きく頷く周囲。

どうやら俺はこの猛獣の飼い主として周囲に認識されてしまったらしい。
俺の夢見た平穏な学生生活はどこに…。




100919
(そこどけ。俺は和希の後ろがいい)
(こらぁぁ!!千秋ぃぃ!!そこはお前の席じゃ無い!!)