5m | ナノ
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距離5m


「古川、この映画見に行かない?」
東が昼休みに雑誌に載っていた映画の一つを指してそういう。俺がこの前観たいと言っていた映画で、俺はもちろん行く、と頷いた。
「いつ行く?松川はいつならいい?今日の放課後はどう?」
「へ!?俺も?」
「松川も観たいって言ってたじゃん。どうせなら一緒に行こうぜ!」
なぜか焦る松川に笑いながらそういう。実はこの前の出来事から東のことを妙に意識してしまって二人きりになるのはちょっと困るのだ。

「何か用でもあるのか?今日は暇だって言ってたじゃん」
「ひ、暇だけど…」
「なら今日の放課後な!」
俺は極力東のほうを見ないで、松川に話しかけていたため、東と名護が目配せをしていたことに気付かなかった。

「結構人がいるなあ」
「新しくできたところだからな」
近くにある映画館はショッピングモールに併設するように新しく作られたもので、平日の夕方にも関わらず学生で結構混雑していた。
「俺らの学校のやつがやっぱり多いな」
「近いから帰りに寄るんじゃないかな」
東の声にドキッとする。俺は最近変だ。
東にドキドキしてしまう。

平常心平常心、と思いながらチケット売り場に行く。
「俺と亮で買ってくるから、古川と松川はここで待ってて」
俺と松川に笑顔でそういった東は名護と二人でさっとチケット売り場へ行ってしまう。
俺はいい機会だから松川に相談することにした。
「ま、松川はさあ、男にドキドキすることってある?」
「へっ!?」
「お、俺さあ最近東にドキドキしちゃうんだけど、これって変かなあ?も、もしかして何か病気なのかなあ?」
恥ずかしくてうつむいたまま一気に言い切る。
「なあ、松川はどう思う?」
「えっ、どうって、ええと、古川、もしかしてその、それって…」
松川が微妙に顔を赤くしながら何か言いかけたとき、東達が戻ってきた。

「ごめんね、間違えて二人ずつ分かれて観ることになっちゃたんだ」
「悪いな」
「お詫びに飲み物とかおごるよ。古川は何がいい?」
東が俺を売り場に行くよう促しながら聞いてくる。
その顔を直視できずに俺はうつむいたままオレンジ、と答える。
「オレンジね」
にこっと笑った東が俺のオレンジと自分の分にコーラを買う。
その横では名護が松川の分を買っていた。

「それじゃ終わったら集合で」
時間も迫ってきていたので俺と東、名護と松川の二人ずつで席に向かう。
「はい、どうぞ」
画面の見やすい席で、周りに人はいたが横は空席だった。
ドキドキしながら座っていると暗くなって俺はこれで東の顔を見ずに済む、とほっとした。その時ふいにジュースを持つ俺の手に東の手が伸びた。
「ひとくちくれる?」
近くに来た東に真っ赤になってしまう。
くす、と笑った東は俺の手から一口飲み始める。伏せた睫毛が長い。
ゆっくりとあげられた視線と絡む。

「…ごちそうさま」
濡れたように光る口元に視線が集中する。
あの唇はやわらかいんだろうか、と考えたところでハッとする。
お、俺いま何を…っ!!?
ふ、と笑った東にさらにどうしよう、と思った時、画面に映像が流れだす。
ようやっと東から視線を外すことができほっとする。
しばらくは隣の東の存在が気になっていたが、俺はだんだんと映画の内容にのめりこんでいった。

「おもしろかったな!やっぱ映画館で見るのはいいなあ」
にこにこと俺は映画の内容に満足して笑みを浮かべていた。
「そうだね、また観に来ようか。今度は二人で、ね」
にこ、と笑う東に映画館の中でのことを思い出し赤面してしまう。
「〜っ、あ、ま、松川!」
出口から出てくる松川はなぜか真っ赤で名護はにやにやしていた。
「ま、松川?どうし…」
「お、俺もう帰るっ!ふ、古川も帰るよな!?じ、じゃあお先にっ!!」
「あ、松川!?ひ、東に名護、また学校でな!」

俺はにっこり笑って手を振る東にドキドキしながら、松川に引きずられるようにして帰った。そんな俺たちを満足げに東と名護が見つめていたが、俺はドキドキする胸のことで頭がいっぱいで、どうしたらあの東の表情を忘れられるだろうかと考えていた。





100916
(ど、どうしよう…俺なんか変だ)

鈍すぎる古川君(笑)