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Dragon's gem 後日談


「お疲れ様です、15分休憩お願いします」
「了解」
CDのジャケット撮影が一旦休憩となり控室に戻ると、椅子に座り雑誌を読む竜の姿が目につき眼を丸くしてしまう。
いや、雑誌を読むこと自体は別に構わないんだけど、あれだ、旅行雑誌を読む竜の姿は珍しい。
基本的にあんまり外出が好きでない竜が、旅行?どういう風の吹きまわしだ?
俺と同じことを感じたのかテツがあれ、と声を上げる。
「竜どうしたんだ?珍しいなお前がそんなの読んでるの。もしかして旅行いきたいとか?」
「……俺にもそういう気分の時ぐらいある」
ぺら、と雑誌をめくりながら答える竜の様子にピンときた。

「あ〜、なるほどそういうことね」
にやにやと笑ってそう言えば竜は俺の方を訝しげに見る。
「あれだろ、お前、これから珠生とデートでもすんだろ」
にやついた顔のままそう言えばテツはえっ!という顔をする。
竜はと言えば平然とした顔で動揺一つしない。
そういうのが俺のからかいたいって心を刺激するってのに、こいつは全く…
どうからかってやろうかとにやつきながら考えているとテツが先に声を上げる。
「それって、例のライブの竜の恋人だよな!?」
テツは基本的に好奇心旺盛なタイプだから、気になって仕方ないのだろう。
眼をキラキラさせて竜の方を見ている。
比較的落ち着いていて、、バンドのまとめ役でもあるショウはその様子を苦笑しながら見守っているが、テツを止めないってことはショウも気になっているんだろう。

「あの後竜に詳しく聞こうと思ってたのに、ライブが終わったら即行で帰ってたんだよな〜、しかも次の日もライブ前に聞いたのに結局教えてくれなかったし〜!!」
今日こそは聞くぞ!と意気込むテツは、結構しつこい所があるので、早々に諦めたのか竜は軽く溜息をつく。
よし、今日は珠生とのなれそめとかでからかってやるか。
にやにやと俺も椅子に座り竜の方を向けば、鬱陶しそうに睨まれる。
普通の男ならビビるかもしれないけど、俺はどれだけその睨みを受けてきたと思ってんだ?
尚もにやにやとしていると、ようやく竜が面倒くさそうにしながらも口を開く。

「……何が聞きたいんだ」
「やった!えーっとまずは、相手の人って男だよな?名前は?年は?」
テツがここぞとばかりに質問をぶつける。
「年は同じでお前の言うとおり性別は男だ、名前は珠生」
簡潔に答える竜が面白く無かったのか、テツはえ〜それだけ?と不満げな声を出す。
「なんかこう、なれそめとかは?あれだけ情熱的な展開で付き合いだしたんだし〜」
ドラマみたいだったよなぁ!!とはしゃぐテツの言うとおり、本当に凄かった。
ショウも思い出したのか、確かに、と同意する。
「竜が初めてソロを歌ったかと思えば、その後客席に向かって走っていくんだからな、あれ見た時は眼を疑ったよ」
さすがにアレはいつも俺様の竜も多少なりとも俺達に悪いと思ったのか、少々気まずそうな顔をする。

今日はどうしてもソロで歌いたい歌がある、しかもカウントダウン直前に、と爆弾発言をライブ直前になってしてかなり調整に慌ただしかったしな。
曲順とかも多少入れ替えをして、そのために俺達も立ち位置とか色々覚えなおさないといけない所もあった。
しかも実際に歌った後はステージから客席にまっしぐら!
「俺も頑張れよ、とは言ったけど流石にライブ中にいくとは思わなかったぜ」
しみじみと呟くとテツとショウが驚いた顔を向けてくる。
「え、イツヤああなるの知ってたのか!?」
テツが只でさえ大きい眼を更に広げて聞いてくる姿に、そう言えば言って無かったか?と思う。

「俺と竜が同級生だったのは知ってるだろ?珠生もそうだったんだよ、で、竜は昔っから珠生のことがだ〜い好きだったわけ」
にや、と笑ってそう言えば竜はむ、とした顔をしてテツはええええ!!と驚く。
「同級生って…マジ!?その頃から好きだったって!?」
竜の顔を凝視するテツに竜は憮然とした表情をする。
これは竜なりに照れてる時の顔だって知ってるテツとショウはは〜…と思わずといった溜息を洩らす。
「こりゃまじだ……竜、そ〜んな格好良い顔してんのに、一途とか……ありかよ」
「確かにな……ん?でも待てよ?そんなに好きだったなら、なんで今まで連絡も取って無かったんだ?」
ショウがふと呟いた言葉に竜が憮然としたまま答える。

「……ちゃんと珠生を守っていくだけの力を付けてから、最高の舞台で言うつもりだったんだ」
そう、竜は現実的なのにどこかロマンチストで、自分の力で生きていけるだけになってから、最高の歌を歌う舞台で告白する、と決めていたのだ。
俺も隣で見てて竜の珠生への好意がもう友情の域を飛び越えてるのは分かってたので、事務所に入って以降連絡を殆ど取ってる様子の無い竜を不思議に思ってはいたんだよな。
成人してからの酒の席で酔ったこいつが打ち明けたから初めて分かったんだけど、俺、あの時絶句したね。
だって普通に考えて、そこは告白して待ってて欲しい、って言うとこだろ!?
それをこいつ、告白せずに迎えに行くから待ってろって……
俺様もここまで来たらもう逆に感心するね。
ま、その分俺がちょこちょこ連絡とって状況は確認しといてやったけど。

「へ〜…だからソロが終わった瞬間駆け寄ったんだ?」
テツはこういうドラマチックな事に憧れるようで、竜のことを始終キラキラとした眼で見ている。
「で、感極まってチューしちゃったんだ!?く〜!!カッケー!!!」
椅子の上でじたばたするテツをショウが落ちるなよ、と宥めながら竜の方をちらりと見る。
「でも、大丈夫だったのか?ライブ中なのにキスなんかして……彼、客席にあの後もいたんだろう?」
ショウはファンの子のことを心配してるんだろう。
確かに竜は嫌味なぐらい顔だけは良いから、ファンだって多い。
だけど、それに関しては心配いらない。
「ふん、俺が何もせずに珠生を呼んだと思うのか?」
不遜な態度でにやりと笑う竜にショウは何か手を打ったのか?あの短時間で?と驚いているが、何のことは無い。

「そもそもあの席自体が仕組まれてたんだよ」
確実に珠生を呼ぶために江藤にチケットを渡し、その席周辺は竜自身には興味の無い同じ事務所に所属する新人たちを数人配置した。
その他にも昔からの親しいスタッフの数人にはあの辺りで何か起きたら真っ先にあの席に座ってる青年を避難させるように、と指示しておいた。
俺が種明かしをしてやるとテツもショウも納得している。
「にしてもキスするとは思わなかったけどな」
しても精々ライブ中は告白ぐらいか、と考えていたが、やはり竜はぶっ飛んでいた。
いくらカウントダウン中で俺達の方にカメラが集まってるからって、ライブ中にするとは。

「でもあの時、丁度花火でシルエットが浮かび上がって、すっげ〜ロマンチックだったよな〜」
うっとりとテツが言うと、ショウもうんうんと頷く。
「映画かドラマのワンシーンみたいだったな」
「にしてはちょっとディープだったけどな」
よ、色男〜!!と囃したてるテツにちょっとむっとしたのか、竜が雑誌を閉じて反論する。
「言っておくが、誰にでもあんな事をするわけでは無いからな!俺はああいう事は珠生と…」
と、竜の言葉の途中でピルル、と携帯の音が響く。
誰のだ?と皆一瞬自分のを確認しようとするが、それより早く竜が携帯の画面をチェックし、サッと立ち上がる。

「電話してくる」
そのまま控室を出ていこうとする竜にメールの相手が誰なのか悟った俺達は肩をすくめながらも道を開ける。
そもそも面倒の一言でマネージャーや俺達がいくら言っても聞かなかった携帯を、珠生と連絡をすぐ取りたいからってあっさり持つようになったという経緯から言って、竜が直ぐに反応する相手なんて考えなくても分かる。
扉に竜が手をかけた時、あっ!と思い出したようにテツが問いかける。
「最後に一個!なんであの歌、タイトルがDragon's gemなんだ?一応バンド用にもアレンジ出来るし、元々バンド用ってのなら分かるけど、違うんだろ?」
その質問に竜はふん、と笑う。
「何故か、だと?そのままの意味だからだ」
それだけ言うと竜は出ていってしまう。
「そのままって…わかんね〜、ショウ分かるか?」
「いや……イツヤは?その顔だと知ってるんだろ?」

にやにやしているとショウに指摘され、テツが「ずるい、教えろ!!」と喚きだす。
「いいけど、これ知ったらお前ら脱力するぜ?」
「いいって!で、何なんだ?」
興味津々のテツに俺はにやにや笑いが止まらない。
こいつらこれ知ったらどんな反応するか、イマイチの反応しかしない竜に比べ楽しみ過ぎる。
「バンド名決めるってなった時だけどな、あの時竜が頑固に譲らなかったんだよ」
初めは俺と竜だけしかメンバーが決まっておらず、テツとショウは後から正式に確定したので、バンド名を決める時にはいなかった。
だから、今からの内容は初めて聞く筈。
「Dragon's gemだけど、ドラゴンみたいに強く格好良いメンバーが宝石のように輝く音楽を作るから、とかって意味でつけたって説明だったろ?」

テツとショウはそう聞かされていたのを、俺も同じ場で聞いてたので知っている。
あの時は余りにもそれらしい理由をでっち上げたスタッフに笑いを堪えるのに必死だったぜ。
「それは後からのこじ付けで、本当は竜が言い張ったんだ」
ごく、とテツが喉を鳴らす。
俺はたっぷり間を取ってからにやりと笑って真実を言ってやる。
「バンド名はDragon's gem、竜の珠生って名前しか認めないってな」
「……え?」
ぽかんとした顔のテツとショウに思わずブッとふきだしてしまう。
「くくっ……だから、その時から竜はもちろん自分が歌うのが好きだってのもあったけど、珠生が喜ぶのが嬉しくて歌ってたんだ、だから俺が歌うのは珠生のためだって意味でそれしか認めない!って言い張ってさ、しかも今は離れてしまってるし、珠生は俺のだって言っとかないと不安ってのもあったんだろうな」
予想通りぽかーんとした顔の二人ににやにやしながらそう言えば、ようやく衝撃から立ち直ったのかショウが呟く。

「……でも、なんでDragon's gem……?」
「ああ、Dragonはドラゴン、つまり竜だろ?で、gemは宝珠…珠生の珠って漢字になぞらえて、Dragon's gemで要は竜の珠生、ってな」
すげーだろ?公共の電波で俺のもの宣言をずーっとしてたんだぜ?と言えばまたも固まった二人。
まあそうだよな、普通はぶっ飛び加減に驚くよな。
「どうだ?真実を知った感想は」
にやにやと聞いてやればテツはびく、と一瞬身体を揺らした後あ〜あぁ……とぐったりと身体から力を抜く。
ショウも同じ様に脱力して椅子に凭れかかっている。
「…竜って、凄すぎ……ここまで堂々と言われたら、怒る気も失せるわ……」
「そうだな、まあ、竜らしいと言えばらしい、か……ま、恋人も出来たし、竜だって落ち着くだろ」
はは、と苦笑するショウに俺は肩をすくめる。

「さ〜、それはどうかな」
「え?」
テツがぐてっと机に凭れながら顔を上げたので俺は苦笑してぽん、と頭を軽く叩いてやる。
「竜は今まで我慢してたんだよ、一人前になるまでは、ってな、それが解放されたんだぜ?」
どうなるか、分かるだろ?と言えば二人とも顔をひきつらせる。
ま、珠生がいれば竜は基本的に珠生に任せたらいいしな、と思いながらも二人の反応が面白いので黙っておく。
にしても、やっとくっついたかと思うと感慨深くもある。
あいつらと一緒にいて、これで付き合って無いのかっ!とツッコミたいことがもう数えきれないほどあった。
ようやく収まるべき形に収まったって感じで、俺も肩の荷が下りたように清々しい。

と、ようやく電話が終わったのか竜が帰ってくる。
満足そうな顔にああ、やっぱり珠生だったんだな、と思う。
見るからに幸せそうな竜を見ていると、一人身の俺がなんだか寂しく感じてくる。
「………今度は俺の恋人でも探すかな」
ぽつりと小さく呟いて、俺も気になるあいつに電話しようと席を立った。




110127
(珠生、今夜泊りに来い)
(えええ!?い、いきなり何言ってんだよっ!!)
(あ、江藤か?今日暇?)


知らぬ間に100万hitありがとうございます…!!
イツヤ視点での後日談です
彼はなんというか竜のお兄さんみたいな感じのイメージです