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名護と松川


「暑い…」
じりじりと照りつける太陽に耐えかねてぽつりと零す。
「仕方ないでしょ、それより圭、家にいると電気代かかるからどっかで遊んできなさいよ」
「どっかって…大体そんなお金…」
母親の言葉に思わずぶつぶつ零すと、俺の声を聞きつけたのか母親が眉を吊り上げてこちらを見る。
「何?圭、何か言いたいことでも?」
「い、いいえ…」
ぎろりと睨まれてさっと視線を逸らす。
俺の家の中で一番強い母親に逆らうなんて出来ない。
タイミング良くかかってきた電話に母親が出たのを見てそそくさとリビングを離れる。

すごすごと自分の部屋に戻りベッドにぼすんと座る。
折角夏休みに入ったというのに、母親からは既に邪険に扱われている。まあ働いてて忙しいのに俺が一日中家にいると用事が増えて更に疲れるからなんだろうけどさ…
「だからってクーラー禁止令は無いよ…」
節電が叫ばれているこの夏、我が家では節約のためにもと言うことで昼間はクーラー禁止令が出された。
これの被害を受けるのは夏休みに入る俺だ。
要は暑いのが嫌なら日中は外で過ごせ、という俺へのメッセージだ。

「はあ〜…課題もあるし、図書館でも行くか…」
のそのそと出かける準備をしていると携帯がメールの着信を知らせる。
何気なくメールを開いた俺はその内容にぎょっとしてしまった。
『From:名護 
 Sb:おはよう
  最近暑いな、俺暑いの苦手なんだよ
  ってわけで避暑地に泊りに行こうと思ってんだけど、圭も行こうぜ
  課題も向こうで終わらせたらいいし、知り合いのとこに泊まるから金はいらないし
  食事とかは自分で用意する必要あるけど、プールもあるしな
  生活用品は揃ってるから着替えと水着、あと課題だけ持って行けばいいから
  取りあえず1週間ぐらい行くつもりだから、用意しとけよ
  許可は取ってるから心配すんな
  それじゃ明日の朝迎えに行くから』

「えええええええええ〜!!?」
ちょ、避暑地!?
ていうか最初は誘ってたのに最後の方もう行くの決定してる!?
というか明日!?
許可は取ってるって…えええええええ!?
「圭〜!」
いきなり母親がバン、とドアを開けて入ってきて俺はびくっと思わず飛び上がる。
「な、なにいきなり…」
「圭、あんた明日から泊まりに行くんですって?そういうことは早く言っときなさいよ!」
も〜まだ用意もしてないの?とぶつぶつ言う母親に俺はぽかんとしてしまう。

「え、泊まりに行くって、なんで…」
茫然とそう聞くとそうそう!と母親が嬉々として俺の肩をばしっと叩く。
「さっき電話で挨拶してくれたのよ!それよりあんたの友達とっても良い声ね〜!母さん思わずときめいちゃったわ!」
「え」
さっき電話で…ってさっきのかああああ!!!
ていうか良い声の友達ってもしかして…
「名護君、だったかしら?『圭君を1週間お預かりします』ってわざわざ挨拶してくれるなんてすっごい礼儀正しい子ねぇ、それにあの声、きっとイケメンね!!」
やっぱり名護だああああああ!!!
許可は取ってるって俺の親の許可ってことかあああああ!!!

「名護君のお家に泊まらせてもらうんでしょ?手土産に何か持って行きなさいよ」
これで買ってきなさい、とお札を渡され思わず受け取ってしまう。
「にしてもほんと良い声の子ねえ、明日仕事で会えないのが残念だわ」
迷惑かけちゃだめよ!と言って母親は出て行ってしまい、ぽかんとした俺だけが残る。
え…よくわかんないけど、俺明日から泊まりに行くの決定?
またも流されてしまったことに溜息をつきながらも、久しぶりに名護と過ごせる、と思うと自然と笑顔が浮かんできた。

◇◇◇◇
「こ、ここ……!?」
「そ、手入れはしてるし不便ってことは無いと思うぜ」
わわわわわ忘れてたよ……名護が俺と違ってお金持ちだってことをね…!!
名護が連れて来てくれたのは、よくテレビとかで見る『有名人が持ってる豪華な別荘』タイプのお家でした……
今朝母親を見送ってから迎えに来た名護に連れられ、迎えだって言う高そうな車を見た時から薄々おかしいなとは思ってたんだよ…!
俺のイメージではどっちかと言うと民宿系だったんだけど、段々周りの景色が一軒家ばっかりになってきてあれ、って嫌な予感はしたんだよ…!
だけどさあだけどさあ…!!!

「圭?」
訝しげな名護の声にハッと我に返る。
いけない、家の豪華さに気を取られてた…!!
「あ、に、荷物ありがとう」
ぼんやりしていたうちに名護が俺の分も運んでくれていたらしい。
「いや、圭はこっち使ってくれたらいいから」
名護は隣の部屋を使うらしい。
部屋についてあるクローゼットを開けてそう言われたので、早速荷物を移し替える。
落ち着け、落ち着け俺…!!

「終わったか、圭?」
「う、うん」
「だったらそろそろ昼飯作るか」
名護の言葉にハッと手土産を思い出して慌てて名護に差し出す。
「あ、これ一応泊めてもらう御礼…」
今となってはこんなものでは御礼なんて言えないのではというような気もするが……
「お、サンキュ、何?菓子?」
「い、一応ゼリーを…」
「なら冷やして後で食おうぜ」
袋から取り出して大きな冷蔵庫に入れる名護を見ながらふと思う。
あれ、これじゃ御礼にならない気が…
というかよく考えたらこれ帰ってから渡した方が良かったんじゃ…?

「んじゃ取りあえずここに入ってるので何か作るか、何か食いたいのあるか?」
悶々と考えていた俺に名護が問いかけ、俺は冷蔵庫の中を覗き込む。
食材も一応用意してくれていたようで、基本的な食材は揃っているように見える。
でもそんな凝ったものなんて出来るわけ無いし…
「何でもいいよ、というか料理法の分かる物であれば…」
「それもそうだな」
名護と二人でしばらく考え、結局簡単そうな野菜炒めにしよう、という結論になった。
「取りあえず野菜切ろうぜ」
「うん」

広いキッチンは俺と名護が並んでも十分広い。
慣れない手つきで俺がキャベツを切る隣で、名護はするするとジャガイモの皮を包丁で剥いていく。
その手慣れた動きに感心していると名護が苦笑する。
「んなこっちばっか見んなって、圭が怪我すんじゃねえかって心配になる」
「っ別に大丈夫だって………多分」
ザクザクと大きめに切るだけだし、と小さく付け足すとくっくっと笑われる。
なんだか子供扱いされてるみたいでちょっとムッとして、俺はぷいっと顔をそむけてぶつぶつ零す。
「どうせ名護みたいには出来ませんよ」
「悪い、拗ねんなって」
今更言ったって遅い!
ふんとそっぽを向いていると苦笑しながら名護が話し出す。

「俺だって初めから出来たわけじゃねえよ、これはクソジジイに叩き込まれてな」
「お爺さん?」
そういやあんまり名護の家族のことを聞いたことが無いな、と興味を引かれる。
「そ、ジジイのくせに未だに影響力が強くてガキの頃から色々叩き込まれたんだよ」
「たとえばどんな?」
尋ねてみると名護はそうだな…としばらく考えて口を開く。
「ジジイはさ、祖母さんに一目惚れしてそれはもう溺愛してるんだよ、それで俺らにもいつか大事な人が出来たら守れるようにって護身術とかガキの頃からガンガンさせてたんだよ…」
確かに名護は鍛えてる身体してるけど、これってそういう理由だったんだ。
そういや体育で柔道あったけど、名護はすっごく強くて柔道部も余裕で倒してたもんな。

「んでイイ男は家事も出来なきゃならんって一人暮らしさせられたしな、まあたまには手抜いてるけど」
話している間に剥き終わったのか、次は人参を剥きだす。
「ま、今は感謝してるぜ?ガキの頃はムカついてたけどな」
「ぷっ」
むすっとした小さい名護が思い浮かんで思わず吹き出してしまう。
名護はそんな俺に片眉をあげるが、何か思いついたようににやりと笑う。
「だから安心していいぜ、圭だけじゃなく俺も一緒にしていけばいいんだからな」
「っ!?な、何言ってんだよ、ほ、ほら切れたよ」

いきなりそんなことを言われて焦ってしまう。
だ、大体なんで俺が名護と一緒にするって前提なんだよ。
あ、こ、ここに泊まってる間ってことか。
ははは、な、何焦っちゃってるんだよ俺ってば!!
うわ、恥ずかしい!!
自分でそう納得して勘違いしてしまった自分に照れていた俺は、名護がそんな俺を見てく、と妖しく唇をあげていたことを知らなかった。

◇◇◇◇
「今日はここまでにしとくか」
「わ、もうこんな時間か…」
課題を先に終わらせてしまおうということになって二人で取りかかっていたため、気付けば辺りは暗くなっていた。
今から夕飯を作るのも面倒なので簡単にパスタを茹でて明太子を入れたもので済ませてしまい、洗い物を済ませると名護がにやりと笑う。
なんだか嫌な予感がした瞬間、名護が爆弾発言をする。
「んじゃ次は風呂だな、ここ、でかめだから二人でも十分入れるんだぜ」
「っ!!!?ふ、ふふふふふふたっ…!?な、なん、な…!!」

えええええええええええええ!!!!?
ちょ、ちょちょちょちょちょっとおおお!!!?
ふ、二人でお風呂って、えええええええ!?
い、いやそりゃもう名護とはその…ごにょごにょしちゃってるけども!
でもそれだって暗い中でだし、い、一緒にお風呂なんてそ、そんなこと…!
ハッ!そ、そうか、からかってるんだ!
そそそそうだ!
俺がこうやって真っ赤になってあたふたするのを見てからかうために言ったジョークだジョーク!!
そう、だよ…な?

ちら、と名護に視線をやってドキリとする。
笑みを浮かべながらも名護の眼には明らかに熱が籠っていて。
その視線を受け止めた俺もじわじわと身体の奥から熱が上がってくる。
確かにここ最近お互いに予定が合わなくて、その、あの、そ、そういうことをしてなかったからちょっと今回期待して無かったってわけじゃないし…
「…一緒に入るだろ?圭…」
いつもよりも甘めの声で名前を呼ばれて、するりと頬を撫でられて身体がびくりと震える。
骨ばった男らしい指が輪郭を辿る様に触れる。
触れられた部分から熱がじわじわと広がっていく。

「…圭…?」
する、と首筋に指先が触れて一際大きく身体が震える。
自分の呼吸が乱れてきているのが分かる。
恥ずかしい、顔が熱い。
俺、そういうこと、して欲しいって、期待、してる。
でも、名護がそんな俺を見てより一層熱のこもった視線を送ってくるから。
ここは、知ってる人もいない場所で、誰も何も言わないから。
俺と名護しかいないから。

「…っ」
こくん、と頷く。
恥ずかしくて顔から火が出そうだ。
これが俺の精一杯。
羞恥で耳まで真っ赤だろう俺のそんな答えに、名護は満足そうに喉を鳴らして笑う。
「…先に入っててくれ…俺も直ぐ行く」
手の甲で頬を撫であげられてびくりと反応してしまう。
落ちてきた名護の声に籠った熱に、更に俺の熱も上がる。
見上げることも出来ないまま頷き、俺は羞恥から急いで風呂へ向かう。

心臓が煩い。
やばい、恥ずかしすぎる……!!!
頷いちゃったよ!!
頷いちゃったけど全然心の準備とか出来て無いよ…!!!
一緒にって、一緒にって……!!!!
あわわわわわわわわどどどどどどどどうしようっ!!!!?
どうしたらいいいんだああああああああ!!!!!?




110813
(どどどどうしよあわわわわわ(真っ赤))


お待たせしました!
美波様リクの名護×松川の裏話です
自分のメモに「エロ名護」と書いてあって思わず笑いました(笑)
後編は頑張ってメモ通りの内容にしたいと思います(笑)