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名護と松川 前編


あ、ヤバい。
「や、やっぱごめん今の忘れ…わっ!?」
簡単に押し倒せてしまう小さい身体。
多分こういうことに慣れてないだろうと俺が折角我慢してきてやったのに。
「え、あ、あの…え、えと、これ、は…」
きょろきょろと落ちつか無げに視線をさまよわせて、今更やっぱり怖くなったか?
でもな、そんな顔したって遅いぜ。
「……いいぜ、圭は慣れてないだろうからって遠慮してたが…圭もシたいなら、もう遠慮はいらねえよな?」
く、と唇の端が自然に上がる。

「っ!あ、あの、そ、その…っ」
俺の顔を見てあわあわと圭が慌てる。
ああ、多分今の俺、滅茶苦茶ガっついた男の顔してるんだろうな。
圭が戸惑ってんのは分かるんだけど、これはお前のせいなんだぜ?
あんな可愛いコト言われたら、ガっついても仕方ないだろ?
「…っあ、あの、や、やっぱ俺…っ」
悪いけど、その先は言わせない。
「…そんなこと考える余裕なんて無くしてやるよ」
耳元で吐息と一緒にそう囁くと、びくんと身体を震わせる。

上気した頬に潤んだ眼を見開いて見上げてきて、ほんと男を分かってねえな。
そんなふうに初心な反応されたら、男は興奮しちまうんだぜ?
「…煽ったのは圭だぜ、覚悟しろよ」
ぺろ、と舌なめずりすれば、カッと顔を赤く染めて。
ああ、やっぱりぐちゃぐちゃにしてやりたい。
俺は本能の求めるままにその柔らかい唇に貪りついた。

◇◇◇◇
『付き合っても彼が手を出してこない!これって遊び!?』
雑誌の表紙に書かれた文字に思わず眼がいってしまう。
どうしようか悩んだ末、結局その本も買うことにしてそそくさと本屋を後にする。
「圭、買えたのか?」
「う、うん、待たせてごめん」
「気にすんなって、俺も雑誌見て時間潰してたし」
どっかで飯でも食うか、と手にしていた雑誌を戻す名護にさっきの雑誌の言葉を思い出してしまう。
名護は文句なく格好良い。
ちょっと危ない感じで、付き合うのはちょっと…と言う人も、顔が格好良いってことには文句ないぐらい美形だ。
今も周りの女の人から熱い視線で見られている。
背も高いし、脚だって長い。
そんな名護は、特に抜き出たところも無い地味な男である俺の、か、か、彼氏…だったりする。

「どうした?」
「う、ううん、お腹空いたなって」
ぼおっと名護の顔を見ていると不思議そうに名護が声をかけてきて慌てて誤魔化す。
どこにするかな、と店を再び選び始めた名護にほっと息をつきながら、ぐっと鞄を握り閉める。
名護と付き合うことになったのは、名護が俺に告白してきたからだ。
今でもはっきりと覚えてる。
いつになく真剣な名護に、凄くドキドキした。
そ、その時に…というかそれより前からき、キスはされてる。
だけど、それからも名護はキスだけでそれ以上に進む様子が無い。

「ここにするか」
「うん」
こうして俺には優しいし、相変わらずキスはたくさんされるんだけど。
やっぱり、付き合って結構経つのに、キスしかしてないって、変なのかな。
もしかしてあの告白も本気なんかじゃ無くて、ふざけてただけなのに俺が勘違いしちゃっただけなのかな…
でもキスはされるし…もう分かんないよ!
経験なんて無い俺に、経験豊富な名護の考えなんて分かるはず無い!
はぁ、と小さく溜息をつきながら俺は大きな背中に続いて店の中に入った。

◇◇◇◇
「次に会うのは月曜だな」
「うん」
今週はお互いに用事があるから、次に会うのは月曜日。
名護は俺の家の前まで毎回送ってくれる。
名護の家は俺の家とは学校を挟んだ反対方向にあるから、凄い遠回りになるのに。
ちら、と横を歩く名護を見上げる。
ついこの前まで俺は名護がどこに住んでるかも、わざわざこうして送ってくれてるってことも知らなかった。
そんなに付き合ってから、というか知り合ってから時間が経ってないからってのもあるけど、名護が慣れてるってのもあるんだろうな。

「どうした?」
「えっ…月曜と言えば小テスト嫌だなって…」
「点数悪かったら俺が教えてやるよ」
声をかけられて思わず咄嗟に思いついたことを言えば、名護はふ、と笑って軽く頭を撫でてくる。
格好良い上に勉強も出来るとか…ほんと名護は凄すぎだよ。
撫でられたところを押さえてちょっとムッとした顔をする俺に口角をあげて名護は前に向き直る。
…付き合う前ならここでき、き、き、キスぐらいされてたと思うのに、今はこっちを見もしない。
やっぱり、あの告白って本気じゃ無かったのかな…?

もやもやとそんなことを考えているともう家の前まで着いてしまった。
「じゃあ、月曜な」
「うん…」
立ち止まって俺の方を見る名護は、俺なんかと付き合うような人に見えない。
顔は格好良いし、運動も出来て頭も良いおまけに、優しい名護は相手に困ったことなんて無い筈だし。
こうして自然に家まで送るところやさりげなく車道側を歩くところとか、今までたくさんこういうことはしてきた感じで、名護が遠く感じる。
き、キスだって経験豊富な名護にしたら挨拶レベルでどうってことも無いものなのかも知れないし。
俺には名護の気持ちが、全く分からない。

「どうした?やっぱり何か心配な事でもあんのか?」
「えあっ、ううん!今日の晩御飯なんだったかな〜って…」
あはは、と笑って誤魔化す。
危ない、名護って凄く気がつくから、ちょっとした気分の変化でも気付かれてしまう。
「そうか…?ま、何かあったら俺に言えよ」
くしゃ、とまた頭を撫でられる。
こんなふうに優しくされるから、やっぱり遊びじゃないのかな、なんて俺は混乱してしまうのに。

「…それじゃ、帰るな」
「あ、うん…」
すっと手が離れて行って名護が一歩下がる。
まただ。
こうして頭を撫でても、すぐに離れていってしまう。
名護の真意が分からなくて、じっと見つめているとふ、と名護の眼と視線が合う。
切れ長の眼に見惚れていると、ふと顔に影がかかる。
あ、と思った時。
ふわ、と頬に吐息がかかって、唇に温かな感触。
ゆっくり離れて行く綺麗な顔。
「…おやすみ、圭…」
囁くような声にハッと我に返る。

途端にかあっと顔が熱くなる。
「…っお、おやすみ…っ」
なんとかそれだけ言うとパッと勢いよく俯く。
どくどくと心臓が煩くて名護の顔が見られない。
な、な、な、なんだよ、これ!
た、単に唇が触れ合っただけのキスだろ!?
い、今までもっと凄いのもされたことあるじゃないか!
な、なのになんでこんなにドキドキするんだよ…っ!

頭上でふ、と笑う気配がした後、ぽんぽんと軽く頭を撫でて名護がゆっくりと眼の前から立ち去る。
ざり、と地面を蹴る音が遠くなっていくのを聞いてようやく顔をあげる。
ゆっくりと帰っていく名護の背中に、はぁ、と思わず溜息が出る。
初めは流されて、みたいな感じだったのに、俺、いつの間にか本当になっちゃってたみたいだ。
薄々分かってたけど、今日改めて自覚してしまった。
まあ、でも仕方ないよな…
あれだけ格好良い人に、優しくされたら、好きになっても、おかしくない、よな…

俺だけじゃ無くて、多分たくさんの人が名護に好意を持ってる。
俺よりももっと綺麗な人も、可愛い人も。
そもそも、名護は本当に俺のことが好きなのかな。
またその問題に戻ってきてしまって、今度は大きな溜息が出る。
多分、恋人として大事にはされてる、と思う。
こうして放課後は買い物にも付き合ってくれるし、休日もで、デートって言って色々なところに連れて行ってくれるし。
だけど、キス以上のことはされない。

これってやっぱり、俺のこと暇つぶしみたいに思ってるから?
やっぱり、男の俺なんかと、そ、そういうことって、興味無い?
ぐるぐると色々思うけど、さっぱり名護の気持ちは分からない。
あれだけモテてたんだから、きっとそういう経験はしてる…と思うのに。
そんなことを考えだしたら気分が落ち込んで仕方なくなる。
視線を落としたところに、鞄が見えてハッとする。
そうだ、あの雑誌を買ったんだった。

俺ははっきり言って名護が付き合うのは初めてだし、全くこういう知識が無い。
そ、そりゃ俺も男子だからそういうことには興味あったりするし、人並みには知ってる…とは思うけど、こういう恋人同士の心理、みたいなのはさっぱりだ。
だから思わず今の状態を現してるこの雑誌を買ってしまったんだけど…
女子向けのだけど、相手が男だから…ま、まあ大丈夫だろ!
落ち込むよりはまず読んでみよう!
俺はよし、と気合を入れぐっと鞄を持つ手を握り締めた。




110402
(ふむふむ…わわっ!!こ、こんなことまで書いてるんだ…っ(照))


長らくお待たせしてすみません(汗)
ピピ様リクの名護×松川の初Hです(そこまで書けてませんが…)
名護視点というリクでしたが…す、すみません視点が混ざってます…
攻め視点で書くの難しいですね…
でもそういうシーンはちゃんと名護視点を入れるつもりです!
後編はもうしばらくお待ちください〜