「今日は前言ってた駅前のカフェ行こっか」
「うんっ」
にこ、と茜君の言葉に俺は笑顔で答える。
前から駅前のケーキセットが食べたかったんだよね。
うきうきと茜君と真淵さんと一緒に学校を出る。
何がいいかなぁ〜苺、それともチョコ…う〜ん悩むなぁ!
「トモちゃんはケーキ大好きだねぇ」
「うん、ケーキならたくさん食べれるよ!」
「ケーキもいいが、ちゃんと飯も食えよ?」
諭すような真淵さんにはい、と答える。
なんていうか真淵さんってお兄ちゃんみたいだよね。
お兄ちゃんってちょっと憧れだったから嬉しいなあ。
茜君は…お兄ちゃん、て感じはしないよね。
3人で色々と話しているうちに目的のカフェが直ぐそこになった。
と、カフェの前で電話している女の人の声が聞こえて来た。
「ちょっと!どういうことよっ!あんたこの前も…あっ!ちょっと何勝手に…!最ッ低!」
相手に勝手に切られたのか、苛立たしげに携帯を睨む女の人。
うわ〜背高い!モデルさんみたい!
ゆるくウェーブした長い茶髪に薄いピンクのカーディガンに花柄のワンピース。
顔も美人さんだし、ほんとにモデルさんかなにかなのかなぁ。
道行く人と同じようにぽおっと見ていると、横で真淵さんが「げっ」と言う声が聞こえた。
え?と思って顔を見上げると茜君も真淵さんも嫌そうな顔。
どうしたのかな、と思った時、女の人がこちらを向いた。
わっ!眼も大きい!!ぱっちりしててお人形みたい!
「あら茜じゃない!久しぶりね〜!」
女の人は嬉しそうにこっちに近寄ってくる。
え、知り合い?
ぽかんとしている眼の前で女の人が茜君の腕に自分の腕を絡ませる。
「も〜最近全然会わないから寂しかったわ〜」
茜君がその手を外さないことになんだかチクッとする。
女の人はすごく背が高いのか、茜君とそんなに変わらない位置に頭がある。
寄り添った親密そうなその様子になんだか胸がもやもやする。
どうしたのかな、俺…
「なんでこんなトコにいるの?」
「最近この辺りに美味しいカフェが出来たって聞いてね、ってそう言えば茜がこんなとこにいるのも珍しいわよね、どうしたの?あら、この子も茜のお友達?」
女の人が俺の方を見て不思議そうに小首を傾げる。
「えっあ、そ、その…」
なんだか美味く話せない。
もやもやちくちく、なんだかおかしい。
「こんなとこで話すのもなんだろ、とりあえず店に入ろうぜ」
俺を気遣ってくれたのか、真淵さんがそう言う。
「あら、そうね」
女の人は真淵さんの言葉にするりと茜君から腕を離す。
それになんだかホッとした。
「こいつと一緒にぃ?」
茜君が真淵さんに嫌そうに聞くのにもなぜかホッとする。
なんでだろ、そんな仲間はずれみたいなこと、いつもはこんな風に思わないのに…
「相変わらず失礼ねえ!もともと私が一人になったのはあんたのとこの副総長のせいなんだから付き合いなさいよ!」
「…だそうだ、取りあえず中で話だけでも聞こうぜ」
むっとした女の人が言った言葉に真淵さんははぁ〜と溜息をついてから疲れたように女の人の背を押して店に促す。
茜君も仕方ないと言う風にひとつ溜息をつくと真淵さんに続く。
「トモちゃん、邪魔がはいっちゃってごめんね」
「え、そんな」
茜君が眉を下げて困ったようにそう言うのに慌てる。
「今日は俺が奢るよ、どれでも好きなの食べてね」
「あ、ありがとう…」
苦笑する茜君に促されて店内に入る。
なんだろう、茜君のこういう優しい態度、いつもなら嬉しいんだけど、今日はもやもやする…
それになんだか胸がチクチクするような…
俺はいつもと違う自分の反応を不思議に思いながらも、先に座っている真淵さんと女の人の席に向かった。
◇◇◇◇
注文を終えて一息ついたところで女の人が口を開いた。
「さて、はじめましてね、私はカレンっていうの、この二人とは昔からの知り合い、あなたの名前は?」
にこっと綺麗に笑ってカレンさんがそう言うのに俺も自己紹介をする。
「は、はじめまして、俺は川島智広です、茜君と真淵さんとはクラスが一緒で…」
「そうなの!?荒高にあなたみたいな子がいて、大丈夫なの!?」
驚いたようにカレンさんがそう言うと、茜君がむっとしたように返事をする。
「俺のこと馬鹿にしてる?俺がいるのに大丈夫に決まってるじゃん」
その言葉にちょっとドキっとする。
「あら…そういうこと?ふうん、茜がねぇ〜…」
カレンさんは茜君の言葉に眼を少し見張って、俺と茜君を交互に見た後にこにこと笑いながら茜君を見る。
「何?」
「べつにぃ〜?ふふ、そう、茜がねぇ…」
楽しそうなカレンさんに対して茜君はちょっとむっとしてる。
なんていうかちょっと恥ずかしそうな感じ…?
親しい関係みたいなその気軽な雰囲気にもやっとする。
茜君は格好良いんだけど、今まで女の人と一緒にいるところは見たこと無かった。
というか、ずっと一緒にいることが多かったし、考えても無かったけど、茜君ならモテルよね…
格好良いし優しいし、好きになる人がいて当たり前だよね…
もしかしたら彼女だって…
チクンとして思わず胸に手を当てる。
どうしたんだろう、さっきからこんな風になってばっかりだ…
「そんなことより、なんでこんなとこいたんすか」
真淵さんの声にハッとして前を向く。
な、何してるんだろう、ほんと俺今日はおかしいなあ…
「そうだったわ!聞いてよ兵頭の奴!!今日はミキちゃんとここに来る約束してたのに、直前になって勝手に無理だなんてメールしてくるのよっ!!」
ミキちゃん?って誰なんだろう…兵頭さんはあの黒髪美人さんだよね?
「あ〜…大体話が分かったわ…」
はぁ、と真淵さんが溜息をつくけど、カレンさんは怒りが収まらないのか、勢いのまま続ける。
「ムカついて電話したら、あいつ何て言ったと思う!?『そんなに一人が嫌ならナンパでもしたらどうです?それだけ猫を被るのが上手ければ相手はすぐ見つかるでしょう?』よ!?」
「あ〜…言いそう…」
げんなりした真淵さんに、興味なさげにメニューをぱらぱら捲る茜君。
俺も?て感じなんだけど構わずにカレンさんは口を開く。
「それに私明日もミキちゃんと遊ぶ約束してたのに『残念ですが明日は立てないと思うので違う相手を探してください』よ!?この前も休みに遊ぶ約束してたのが兵頭のせいでブチ壊されたのに、またよまた!!ほんとに最低ッ!!」
一応言いきったのかカレンさんはそこでテーブルの上の水を飲む。
「…野田のことに関しては諦めるしかねえと思うぜ?兵頭の奴、野田のことに関しては…いや、もともとそんな広いわけでも無えけど、特に心滅茶苦茶狭いからな…」
「だからって毎回毎回は狭すぎよっ!!」
ふんっと言い切るカレンさんに真淵さんは苦笑する。
兵頭さんってそんなに心狭いのかな?
数えるぐらいしかあったことないけど、むしろ寛大な感じに思えたけどなあ…
首を傾げているとカレンさんがそんな俺に気付いてずいっと身を乗り出してくる。
「もしかして知らない?なら覚えておいた方がいいわ、兵頭ってのはね、人の弱みを握ってちくちくチクチク刺してくる嫌〜な奴なのよ、しかも超心狭いしっ!川島君もそういうねちっこい男はやめといた方がいいわよ!」
え、と俺がカレンさんの勢いに若干びっくりしていると茜君が「離れろ近い」とぐいっとカレンさんを椅子に押し戻す。
「兵頭があんたに絡むのは野田にちょっかいだすからでしょ〜?自業自得じゃん?」
むっとしたような顔で茜君がそう言うとカレンさんがキッと眼を吊り上げる。
「ミキちゃんは大切な従兄弟なのよっ!小さい頃からあんなに仲良くしてきたのに…っちょっと離れた間にあんな変な虫がくっついちゃうなんてっ!!」
へ、変な虫って…兵頭さんのこと?
話の内容的にそのミキちゃんていう人とお付き合いしてるんだよね?
なら兵頭さんってむしろ理想に近いと思うんだけどな…
進学校に行くぐらいだから頭も良いし、顔ももちろんいいし、不良…なのはちょっとマイナスかもだけど、喧嘩も強いってことは運動も出来るだろうし、いい面の方が多そうだけど…
「ま、まあそう言わず…兵頭なら将来安心出来るし、むしろ他のやつよりは良いんじゃないか?」
真淵さんが宥めるようにそう言うとギッとカレンさんが勢いよく真淵さんを睨みつける。
うっ!な、なんか妙に迫力ある…!!
「安心ですって!?むしろ不安だらけよっ!!あの男週末は毎回ミキちゃんが立てなくなるまで抱き潰すのよっ!?平日でも嫉妬したら次の日が辛いくらいするのよっ!?あんなねちっこいエッチする男と付き合ってたらミキちゃんの身体がもたないわよっ!!」
…なななななななななななななんですとおおおおおおおお!!!?
ぎょっと真淵さんも眼を見開いて慌てて周囲をきょろきょろと見回す。
ななななななななんってことを言うんだカレンさん…!!!
カッカッと頬が熱い。
絶対顔真っ赤だよ!!
「ちょ、おま、もうちょっとそういうことは場所考えて言えよ…!」
真淵さんも若干顔を赤くしてカレンさんに注意する。
ううう奥のテーブルでほんと良かった…!!
人が少ないからさっきのカレンさんの爆弾発言を聞いた人もいなかったみたいでホッとする。
「なによ、本当のことでしょ!?ああっきっと今頃もミキちゃんはあの男にねちっこいエッチされてるのよきっと…!!」
か、カレンさん、女の人なのに、は、はっきりそういうこと言っちゃうんだ…
ていうかもうこれから兵頭さんにどういう顔して会えばいいか分かんないんですけどっ!?
あああああなんだか兵頭さんのイメージが変わっていく…っ!
「お待たせしました」
カレンさんが黙った時にタイミング良く注文したケーキとかが運ばれてきてホッとする。
こ、これ以上聞くのはなんだか心臓に悪い気がする…
真淵さんもホッとしたようでコーヒーを飲んでいる。
「わあっ美味しそう!あっ、茜、私のもミルク入れといて」
「面倒だな〜自分でしなよね」
茜君が紅茶にミルクを入れているのを見てカレンさんが自分の分も頼む。茜君はぶつぶつ文句をいったものの丁寧にカレンさんの紅茶にもミルクを入れて行く。
ついでに砂糖も入れるんだけど、量について質問もしないその様子にちく、と痛みを感じる。
「ん、ありがとう…私の好み覚えててくれたのね」
「あれだけやらされたら嫌でも覚えるし?」
一口飲んだカレンさんが笑顔でそう言うと呆れたように茜君は返す。
…覚えるほどカレンさんと一緒に紅茶飲んだんだ…?
なんだか無性にもやもやちくちくしてきて、あんなに楽しみだったケーキはなんだか色あせて見えた。
110925
(なんでこんなにもやもやするんだろう…)
カレンさん登場
テンション高いけど結構好きなキャラです
兵頭のもネタは考えてるのに書く時間が無い…