さみしがりや、おくびょうです2 | ナノ
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さみしがりや、おくびょうです に


「崎田君っ!もう大丈夫なの!?」
「はい、まだちょっと激しい運動とかは無理ですけど、もう普通に生活する分には大丈夫ですよ」
お昼の時間、教室に崎田君がやってきた。
慌てて駆け寄ると、崎田君は笑ってそう言ってくれる。
「総長達にもご迷惑おかけして…済みませんでした」
ぺこりと頭を下げる崎田君に、茜君は軽く「いいよぉ」と返す。
真淵さんも「気にすんな」って言って崎田君の頭をがしがしと撫でている。

「さ、崎田君、もうご飯食べちゃった?まだなら一緒にどう?」
俺は崎田君用にと買っておいたパンを取り出してそう言う。
崎田君はちょっと戸惑って茜君と真淵さんの方を見たけど、二人がこくんと頷くのを見て「失礼します」と真淵さんの隣に腰を下ろした。
パンをもぐもぐと食べていると茜君がひょいっと手を伸ばしてきた。
なんだろう、と眼を丸くして見ていると、「ついてたよ」とパンくずを手に笑う茜君。
そのままひょいっと茜君はそれを口に入れて「美味しい」とにっこり笑う。

え、あ、あれ?
友達って普通顔についてたパンくずとかってそのまま食べたっけ…?
にこにこ笑う茜君を前にそんなこと言える筈もなく、俺はかあっと顔を赤くしてぼそぼそと「あ、ありがとう」と返すしか出来なかった。
ななななななんか滅茶苦茶恥ずかしい…!!
柔らかい笑顔で俺を見てくる茜君の方を見れない。
これ、おかしくない!?
なんか最近俺、茜君に対しておかしい気がするっ!!

ちら、と周りを窺うと黙々と食べる真淵さんと崎田君が眼に入る。
うん、普通だよね、普通。
今度は横に座っている茜君をちら、と見上げる。
ふっとパンに視線を落としてもぐもぐと食べる茜君に、どきっとする。
長い睫毛とか、飲みこむたびに動く喉仏とかに意味も分からずどきどきしてくる。
だ、だだだっだだだだからなんで茜君にだけおかしくなっちゃうんだよっ!!

意味の分からないドキドキを誤魔化すためにもごもごと一気にパンを口に頬張る。
うっちょっと入れすぎたかも…
「わっ、トモちゃん頬袋膨らましてるみたいで可愛い〜!」
茜君が俺の方を見るなり、眼を丸くしてそう言う。
茜君につられて真淵さんも崎田君も俺の方を見て眼を丸くする。
「ハムスターみたい〜!!」
嬉しそうにそう言う茜君にちょっとムッとする。
は、ハムスター!?
確かに俺は小さいし今ほっぺたもぱんぱんだけど…!

むうっとした顔をするけどそもそもほっぺたにパンが詰まってるので伝わっているのか微妙なところだ。
でもちょっと怒ってるんだぞ、という気持ちを込めて心なし茜君を睨みつけた、んだけど…
「っ可愛い〜!!ねっ、ちょっとほっぺ触ってい?ちょっとだけだから!」
茜君には全く伝わらなかったみたいで、逆にもっと喜ばせてしまった。
しかもほっぺた触らせてって…ますますハムスター扱いじゃんか!
ますますむううっと膨れ面をするけど、まだパンが邪魔で伝わりそうにない。
膨れる俺と嬉しそうにしている茜君に、真淵さんがはあ、と溜息をついて声をかけてくる。

「…あのな、そんなに詰め込むと喉に詰まるぞ、ほら、飲み物でゆっくり飲みこめ」
そう言うと真淵さんはまだ開けていなかったコーヒー・オレを差し出してくれる。
崎田君も心配そうに「足りなければこれもどうぞ」と崎田君用のオレンジジュースまで差し出してくれる。
それにようやく茜君もハッとなって慌てて「トモちゃん、ゆっくりだよ!ゆっくり飲みこまなきゃだめだよ!」と言ってくる。
な、なんかここまで心配されるとさすがに恥ずかしくなってくる。
そうだよな、冷静に考えて高校生にもなってパンを詰め込むって…無いな。
ありがたく飲み物を頂戴してごきゅごきゅと流し込む。

最後までごくんと飲みこむと皆ほっとした顔をする。
ううう…なんだか俺、子供扱いされてるような気が…
そう言えば、と崎田君が思い出したように茜君に話しかける。
「そう言えばこの前畑山と会いましたよ、どうやらあっちもそろそろ退院みたいです」
「畑山といや、決闘の申し込み受けたんだって?兵頭が言ってたぞ、あんなに嫌がってたのに、どうしたんだ?」
真淵さんが不思議そうに茜君に聞くのを聞いて、そう言えばあの時真淵さんはいなかったんだっけ、と思い出す。
兵頭さんってあの和風知的美人さんだよね。

「あ〜…まあね、俺も色々考えたの」
茜君は肩をすくめてそれ以上言う気は無いのか、がじがじとストローに噛みつく。
真淵さんは一瞬何か言いかけた後、「ま、いいか…」と呟いてがしがしと頭を掻いた。
「ま、なんにしろお前が決めたなら俺は別に文句言うつもりはねえよ」
崎田君も同感なのか、一度頷くと手に持っていたパンに齧りつく。
わ〜…なんだか憧れちゃうなあ。
言わなくても分かってくれる、みたいな…青春って感じ、憧れるなぁ…
茜君と真淵さんって親友って感じがして、良いよね。
俺と茜君とじゃまだ親友って言えるほどじゃないし…
俺もいつかこういう親友が出来たらいいなあ…

憧れを込めて二人を見ていると、視線に気付いた茜君がん?と首を傾げてくる。
俺はそれに何でも無いよ、の意味を込めて笑い返し、がぶっと残りのパンに齧りつく。
今度はちゃんと口に収まる程度にね!
もぐもぐと噛んでいると真淵さんが「あ」といきなり声をあげる。
何?という視線が真淵さんに集まると、真淵さんは「あ〜…いや、大したことじゃねえけど…」と言いながら俺に向かって口を開く。
「川島にも言っとこうかと思ってな。この前はちょっと危ないことがあったけど、少なくともこの近辺はもう安全だからな」
真淵さんの言葉にえっという顔をしていると、茜君がむっとしたように真淵さんを軽く睨む。

「折角忘れてたことわざわざ思い出させる必要無いだろ、あんな怖いめにあったんだから」
茜君がそう言って気遣わしげに俺の方を気にする。
真淵さんもしまったというように顔を顰めて「悪い」と謝ってくる。
確かに怖かったけど、直接的に痛いめとかにはあって無いし…そこまで気にしてもらわなくても大丈夫なんだけどな。
それにいつまでも引き摺ってても仕方ないしね。
「俺なら大丈夫だよ、確かに怖かったけど、もう大丈夫だから」
安心させるように笑ってそう言うと、茜君も真淵さんもちょっとほっとした顔をする。

「そう言ってもらえるとありがたい…とにかく、もう安全だから安心してくれよ」
真淵さんはそう言うとその大きなごつい手で俺の頭をがしがしと撫でる。
不器用でちょっと見た目が怖いんだけど、真淵さんって優しいんだよね。
大人しくされるがままになっていると真淵さんはハッとしてサッと手を引っ込める。
?と真淵さんを見ていると何故か視線を逸らして引きつった顔で「すまん」と言う。
崎田君も心なし青褪めて視線をパンに落としたままあげようとしないし…どうしたのかな?

きょとんとしているとふわっと頭に大きな手の感触。
見上げると茜君がにっこり笑って真淵さんに撫でられてぐしゃぐしゃになった髪を撫でて整えてくれていた。
「トモちゃん、今度放課後一緒に出かけようね〜」
にこにこ笑う茜君に俺は勢いよくうんっ!と答える。
友達同士で寄り道、高校に入ったらしてみたい憧れだったんだよね!
荒高に行くことが決まってからは無理っぽいって思ってたんだけど…茜君となら行けるもんね!!
どこ行こうかなぁ…今から楽しみだなぁっ!!
うきうきにこにこする俺を見て機嫌を直した茜君に、ほっと真淵さんと崎田君が胸をなでおろしていたのを知らず、俺は何をしようかと胸を躍らせていた。

◇◇◇◇
それからしばらくは崎田君も一緒に4人で高校生活を満喫した。
放課後に真淵さんや崎田君のお友達と一緒に遊んだりもした。
もしかしたら不良なのかもって不安だったんだけど、すっごく普通の子達で直ぐに仲良くなれた。
今では立派なメル友になってる。

そんなある日、崎田君が体操服に着替えているのを見て俺は思わず「大丈夫なの?」と聞いてしまった。
崎田君は一瞬意味が分からないみたいにしてたけど、直ぐに分かったのか「大丈夫です」と返事をしてくれた。
まだちょっと体育は無理だからっていつも見学してたんだよね。
着替えがしんどいからっていつも制服で見学してたのに、大丈夫なのかな。
「実はちょっと前から普通に動くくらいなら大丈夫になってたんですよね」
ちょっとサボってました、と崎田君は悪戯っ子のように笑うので安心した。
そっか、もう大丈夫なんだ、良かった〜!

「おっ崎田、もう大丈夫なのかよ」
クラスメイトも気付いたのか、口々に崎田君に声をかける。
「おう、流石に強い相手は無理でも、お前らなら余裕で勝てるぜ」
にやっと笑った崎田君に「言ってろ」「ば〜か」と皆笑って返す。
崎田君ってムードメーカーっていうか、皆に慕われてるよね。
真淵さんとか茜君とかも結構一目置いてるみたいだし、凄いんだなぁ…
「トモちゃん、行こ〜」
茜君の声に俺は「うん」と返事をして移動する。
なんか俺の周り、凄い人ばっかな気がするなぁ…

ぽつりとそう呟くと、隣にいた真淵さんに聞えたのか、「川島も十分凄い奴だぞ」と言って俺と茜君の繋いだ手をちらりと見た。
う〜ん、そうかなぁ…?
俺、ただのチキンでどこも凄いとこなんて思いつかないんだけどな…
真淵さんなりの慰めだったのかな。

「トモちゃん、今日は帰り何処行こっか」
茜君の声に俺はそれまでの考えを止めて放課後のことに想いを馳せる。
そうだなぁ、何が良いかなぁ。
「皆にメールして会えそうなら皆で遊ぼっか」
久しぶりに会いたいな、と思いそう言うと、茜君は笑顔でそうしよっかと言ってくれる。
楽しみだなぁ…!
俺はうきうきと茜君と手を繋いだままグラウンドに向かった。




110320
(あの総長を手なずけた川島はマジで凄いよ…)


真淵が段々お兄さん化してきた(笑)
トモのことも弟的な可愛がり方ですね