バレンタイン3 後編 | ナノ
×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -


ビターチョコ的告白 後編


俺が将史の気持ちに気付いたのは、些細なことからだった。
高校に入って少したったある日、俺は夕食後に自室で勉強していたのだが、喉が渇いてリビングに降りて行った。
その頃になると将史の態度が少し軟化してきていたこともあって、俺はこのままいけば将史と、また昔みたいに笑いあえるんじゃないかって思っていた。
今思うと馬鹿みたいに浮かれていたな、と思う。
あの事があって、分かっていた筈なのに。

静かにリビングに降りると、人の話声がしてあれ、と思う。
将俊さんは仕事があるから、って書斎に向かっていたし、将史も最近は夜は自分の部屋で過ごしていたから。
父さんがテレビでも見ているのかな、と思い、ドアを少し開けたところで俺は思わず固まってしまった。
リビングには父さんと、将史が並んでソファに座っていた。
別に小さい頃から一緒にいるんだから、その二人が一緒にいること自体はそれほど珍しいことでも無かったけど、なんだか入ってはいけないような雰囲気に俺はドアを開けたまま動けなくなってしまった。

何を話しているのか分からないけど、将史が心なし辛そうに見える。
父さんはそんな将史を気遣うように見つめながら、口を開く。
「…何があったのかは知らないけど、皆心配してるんだよ」
「……心配なんか…」
「私はもちろん、嵩も将俊さんも将史君のことを心配してるよ」
その声に将史は視線を逸らして吐き捨てるように呟く。
「…嵩が俺のことを心配してるわけ無い、親父だって…」
その言葉にずきんとする。
俺のこと、やっぱりもう家族なんかじゃ無いって思ってるのかな…

「そんなこと無いよ、嵩は将史君のことを心配してる……やっぱり嵩と何かあった?」
父さんの言葉にどきりとする。
あの大喧嘩の理由を、父さんは聞かなかった。
俺はそもそも答えられる状態じゃ無かったし、将俊さんもあの話題にはそれ以降触れようとはしなかった。
残るのは将史だけど…将史が仮にも俺の親である父さんにあんなことを言うとは思えないし、どうやら父さんも将史には深く聞かなかったらしい。
父さんは眉を寄せて心配そうにしながらじっと答えを待っている。

どう答えるんだろう、と思っていると、将史は自嘲するようにぽつりと答える。
「…何も……何も無ぇよ、俺と嵩にはな」
「将史君…」
荒んだ雰囲気の将史に、父さんが気遣わしげな視線を送る。
俺は扉の向こうで将史の言葉にずきんと胸が痛んだ。
俺と将史には、もう何も無いのだろうか。
家族でも、友人でも無い、ただの他人?
いや、むしろ嫌いな人物…?
自分の考えに自分で傷付く。

「…将史君、大丈夫だよ」
父さんの声にそちらを見ると、ぽんぽんと将史の背を父さんが宥めるように撫でていた。
「今悩んでることも、きっとすぐ解決するよ」
「…そんなことは…」
将史の声に、父さんはにこっと笑う。
「大丈夫、私も将俊さんも嵩も、皆将史君が大好きだからね」
にこにこと笑う父さんに、一瞬将史は呆気に取られたかと思うと、ふっと笑った。
俺は、その光景にびしりと身体が凍りついた。

将史が、笑った。
嘲る様にでも無く、自嘲するようにでも無く。
昔のように、本当の笑顔で。
久しぶりの笑顔が見れて嬉しいと思うと同時に、それが父さんに向けられたものだと思うと胸が苦しい。
もう俺には向けてくれなくなった笑顔。
他の誰にも見せなくなったそれを、父さんにはいとも簡単に見せる将史。
その時ふっと頭にある考えが過った。

―将史は父さんのことが好きなんじゃないのか?
まさか、と思いながらも、眼の前の様子がその考えを後押しする。
今ではもう見れなくなった穏やかな顔を父さんに向ける将史。
思い返してみれば、将史は俺に辛く当たる様になっても、父さんには優しかった。
父さんが好きだから、父さんには優しい?
そう思うとなぜいきなり俺が辛く当られるようになったかも理由が分かる。
―俺が、邪魔になったんだ。
父さんは俺のことを大事に思ってくれているし、もう俺しか血のつながった家族がいないこともあってか、俺のことが一番大切だと昔からはっきりと言っていた。

父さんの一番には、俺がいる限りなれない。
だから、俺に辛く当たって家から出たくなるようにしむけた?
ぐら、と視界が揺れた。
そんな、将史が、父さんを。
一度部屋に戻ろう、とショックのあまりふらつく身体を反転させようとしたとき。
「何があったのかは知らないけど、嵩と仲直りしてあげてね、あの子、昔から将史君のこと大好きだから」
父さんの言葉にハッとする。

もしかして、最近俺への態度が軟化してきたのも、父さんが言ったから?
そう思った途端、俺は自室へと駆け戻っていた。
あれ以上二人の声を聞いていられなかった。
ぐらぐらする頭を抱えてベッドに倒れ込む。
将史は、俺のことなんて、もうちっとも気にしていない。
いや、気にしてはいても、邪魔な存在として。
浮かれていたのが馬鹿みたいだ。
将史は、もう俺なんかいなくてもいいんだ。
むしろ、いない方が良いのかも。

「…っ、ぅ…」
初恋は実らないというけど、本当みたいだ。
俺の将史への想いは、叶う筈もないと知っていたけど。
それでも。
「ふ…っ」
せめて友人ぐらいとしては思われていたかった。
俺は失恋の胸の痛みに耐えきれず、その日はそのまま泣き疲れて眠るまで声を押し殺して泣き続けた。
◇◇◇◇
あれから2年が経ったけれど、俺は今でも不毛な恋をしている。
望みが無いのはよく分かっているのに、捨てられなかった。
ずるずると進展も無いまま、俺は将史への思いを抱え続けている。
高校3年になった今も、ずっと。

「おはよう、今日はバレンタインだね、嵩君からチョコは貰えるのかな?」
にこにこと笑顔でスーツ姿の将俊さんが姿を現す。
「おはようございます、ちゃんと用意しますよ」
朝からチョコを気にする将俊さんに苦笑しながら、朝食をテーブルに並べる。
俺なんかに催促しなくても、将俊さんなら女の人からたくさん貰えるだろうのに。
ピシッとスーツを着込んだ将俊さんは、将史という大きな子供がいるとは思えないくらい若々しい。
一応独身ではあるし、きっと今でもモテているんだろうと思う。

「おはよう嵩」
父さんの声にそちらを見てぎくりとする。
にこやかに挨拶をする父さんの後ろに、こちらを睨みつける将史がいた。
「おはよう、父さん、将史…」
その鋭い眼光に一瞬怯むものの、なんとか挨拶を返す。
きつい視線から逃げるように俺は朝食の準備をする。
「あ、そうだ嵩、父さん今年はチョコケーキがいいな」
食事を初めてすぐ、父さんが思い出したようにそう言う。

「分かったってば」
俺は昨日から何度も言われた内容に呆れながら返事をする。
今日は夕食の後にチョコケーキを渡すつもりだ。
一応3つつくるつもりだけど…将史は食べてくれるだろうか。
ちら、と見るといかにも不機嫌そうに眉をよせたまま黙々と食べている。
将史は俺のことを嫌いになっても、食事だけはきちんと食べてくれた。
家に帰ってこなかった時も、ラップして置いておくと翌日には全て空になっていた。
俺は空になった食器を見るたび、ああ、これだけはまだ認めてくれているんだってほっとした。
こうして食べてくれている間は、将史にも俺が何かしてあげれていると思えたから。

でも、チョコケーキはもしかしたら食べてもらえないかもな、と思う。
もともと将史は甘い物が好きではないし、今日はバレンタインだ。
嫌いな奴が作ったものなんて、しかもバレンタインにチョコなんて嫌だろう。
将史の分は自分で食べることになるかもな、と思う。
もう期待はしない。
二度もあんな思いをした俺は、ようやく学習したんだ。
初めから期待していなければ、傷も小さくて済む。
……それでも傷付いてしまうことに変わりは無いんだけれど。

「嵩君のチョコケーキ、楽しみにしてるよ」
「大きいのにして欲しいな」
にこにこと笑ってそう言うと、将俊さんと父さんは出勤していった。
俺は苦笑してそれを見送ってから、学校へと向かう。
将史と俺と、同じ時間に家を出るけど、会話は全くない。
途中から将史の周りには大勢人が集まるし、俺も将史もお互い話しかけようともしないからだ。
俺と将史は、あの家から一歩出れば、ただの他人。
言葉を交わすことも無い関係に、なる。

◇◇◇◇
学校では何事も無く過ぎて、俺は放課後にスーパーで足りない材料を買ってから家に帰っていた。
相変わらず学校では俺は将史とは何の接点も持たない。
言葉はおろか、視線さえも交わすこと無く、放課後になった。
将史はどうやら言葉通り女子に騒がれているようで、まだまだ帰っては来れないだろう。
もしかしたら帰ってこないかも…と思いかけ、頭を振って考えを消す。

気にしてはいけない。
俺はただ、帰って来た時のために食事を作っていればいいんだから。
ハンバーグのタネを作り終えて、俺はチョコケーキに取りかかる。
3つ分になるので結構あるのを、2つ分と1つ分に分けて作り始める。
将史はどれくらいチョコを貰ったんだろう。
甘い物が苦手というのは知られているみたいだけど、ビターチョコとかなら将史も食べるし。
将史の分はビターチョコを使って甘さを控えめにしてある。
万が一食べてもらえても、将史に美味しいと言ってもらえるように。

型に流し込み、オーブンで焼き上げる。
漂う甘い香りに、ぼんやりとこうしていられるのもいつまでだろう、と思う。
もう俺も将史も大学生、成人も近い。
子育てのために同居し始めた父さんと将俊さんは、これからどうするつもりなんだろう。
専門学校や大学に行くけれど、もう子育てが必要な年齢では無い。
同居をする必要性は、もう無い。
確かに今の生活は快適だけど、再婚も考えるならこの機会が良い時期だと思う。

今を逃すと同居を解消するタイミングを逃しかねない。
確かに父さんの給料では今と同じ生活水準を保つのは無理でも、もっと普通のレベルにすれば俺と二人、何とかやっていけると思う。
高校生では無理だったけど、俺もバイトをするつもりだし。
将俊さんと将史は俺達がいなくても十分やっていけると思う。
むしろ俺達の生活費の分が浮いて、家政婦さんを雇っても余裕があるぐらいじゃないかと思う。

だったらこれで最後かな、と思うと、しんみりしてきてしまった。
そうなったら、もう将史との接点は無くなる。
この恋も、ようやく、終わりに、なる。
喜んでも良い筈なのに、じわっと視界が滲む。
…嬉しくなんか、無い。
将史ともう会えなくなるなんて、嬉しい筈が、無い。

嫌われてても、憎まれてても。
すぐそばにいれるだけで、十分なのに。
「ふ…っ」
ぱたぱたっとシンクに水滴が落ちる。
ぎゅっと胸の辺りを掴む。
服の中、チェーンに通したあの指輪。
他愛もない子供の約束だけど、俺にとっては大切な、宝物。

一緒にいたい。
家族、なんて贅沢は言わない。
家政婦でも何でもいい、それでもいいから。

「…何、泣いてんだよ…」
突然かけられた言葉に驚いてハッと顔をあげて見ると、玄関に通じる扉が開いていて、将史が茫然としたように俺を見ていた。
いつかを思い出させる構図に、俺はサッと視線を逸らして慌てて涙をぬぐおうとした。
けど。
「…っ何泣いてんだっつってんだよ…!」
「っ…!」
長い脚で一気に距離を詰めた将史にぐいっと腕を掴まれ、無理やりに将史の方を向かされる。

俺を見下ろす怒気を纏った将史に、知らず身体が後ろに逃げようとする。
でも将史は逃がさないと言うようにがっちりと俺の腕を掴んだまま再度聞いてくる。
「何泣いてんだ、答えろっ!」
真っ直ぐに俺を見下ろして、将史が聞いてくる。
驚きのあまり答えることが出来ない。
あれほど俺のことを避けて来たのに、今、将史は俺を真っ直ぐに見ている。
そんな俺をどう思ったのか、将史は顔を歪めてちっと舌打ちすると苦々しげに吐き捨てる。

「…んなにあいつがいいのかよ…」
「…ぇ…?」
聞き取れず聞き返すと、ぎっと睨みつけるようにしてこちらを見てくる。
「っあんな奴やめろ!仕事しか出来ねぇクソ爺だぞ!」
意味が分からない俺に将史は顔を歪めてなおも続ける。
「女にだってだらしねえ碌でもない野郎だ!餓鬼の俺を押しつけられても相手のことを思い出せないような最低な奴だぞ…っ!」
「っ…」
ぎり、と掴まれた腕に力を入れられすぎて思わず顔を歪めると、将史はそれを見て苦しそうに眉を寄せる。

「くそ…んであいつなんだよ…今だってどうせあいつのことで泣いてんだろうが…」
弱弱しい苦しそうな将史に、俺は驚きながらも慌てる。
どんな時も傍若無人な態度の将史が、こんなに悲しそうにするなんて。
慌てて訳を聞こうと口を開いた時、将史が発した言葉に俺は固まる。
「……もう親父を好きでいるのなんか止めろ…頼むから…嵩……っ」
項垂れて苦しそうに言う将史に、俺は驚きで目を見張る。
俺が…なんだって?

「ま、将史…お、俺が将俊さんを好きって…なんでそんなこと…?」
「っお前は親父が好きなんだろうがっ!?」
俺の声にバッと顔をあげて睨みつけるようにしてそう言った将史は、目を丸くしたままの俺を見てその表情を戸惑ったように崩す。
「……違うのか…?」
おそるおそるという感じで聞いてきた将史に、俺は勢いよく首を振って肯定する。
俺が将俊さんを…ってなんでそうなるんだ!?

俺の様子に将史は戸惑いを隠せないように呟く。
「そんな…だって、お前、親父と抱きあってたじゃねえか」
「えええっ!?」
ぎょっとして声をあげるが、将史はむっとしたように俺を見る。
「忘れたとは言わせねえぞ、中学に入った頃、ここで親父と抱きあってたじゃねえか」
将史の言葉に俺は必死に記憶を探る。
中学に入った頃…あっ、まさか…!!

「あ、あれは慰めてもらってたんだ」
「慰めるのに普通抱き締めるかよ」
即座に返される言葉に、一瞬話すかどうか迷うが、こうなったら言ってしまえ、と口を開く。
「実は、あの日、俺…大事な物を失くして…ショックで泣いてたら将俊さんが大丈夫、すぐ見つかるってパニック状態の俺を抱きしめてくれたんだ、結局探したらすぐ見つかったし…」
将史はまだ納得がいかないというように眉を寄せながら、小さく「なんだよ、大事な物って」と聞いてくる。

俺はこうなったら仕方ない、と胸元からチェーンを引きだす。
「っそれ…」
将史はチェーンに通された指輪を見て目を丸くする。
「これ…もう失くさないようにってあれからこうして持ってるんだ」
失くしたと思ったあの時はパニックになってしまった。
直ぐに見つけられてほっとしたものの、そういうことがもう無いようにこうして肌身離さず付けれるようにしたのだ。
将史は茫然と指輪を見つめ、「…てっきり捨てたのかと…」と何やら小さく呟いている。
俺は聞くなら今しかない、と意を決し、将史に聞くことにした。

「それより…将史こそ、俺の父さんを好き、なんでしょ…?」
ここまで言ってしまったんだから、どうせならきっぱり失恋してしまおう、と聞くと、将史は眼を見開く。
「はぁっ!?誰がんなこと言いやがった!?クソ親父かっ!?」
その反応に驚いて「え…違うの…?」と呟くと、将史が「当たり前だっ」と勢いよく返してくる。
「康さんは昔から世話になってるし、家族みたいな意味では好意を持ってるけどな…そういう意味での好意は持ってねえ」

きっぱりと言う将史にほっとしながらも、ならなぜ避けられたのかが分からない。
将史にそう言うと、ぐっと詰まった後、将史は気まずそうにぼそぼそと呟く。
「…お前が、親父を好きだと思ってだな…その…」
言い難そうに語尾をぼかす将史に、ハッとする。
そりゃ自分の実の親、しかも父親に恋してると思ってたら避けたくもなるよな…誤解されてたなら仕方ないか。
そう結論付けた俺は、未だ何かを言い難そうにする将史に「もういいよ」と言う。
えっという顔をする将史に、俺は穏やかに続ける。

「誤解してたのは俺もだもんな、もういいよ…でも、誤解も解けたし、これからは俺のこと、避けないでくれたら嬉しい…」
明るくしようと思ったのに、最後の方は弱弱しく懇願する感じになってしまった。
将史はそれを聞いてハッとした後、じっと俺の顔を見て告げる。
「悪かった、後悔してる…もう二度と嵩に当たったりしねぇ、本当に悪かった」
辛そうに顔を歪めて、心底後悔しているふうに将史が言うから、俺の方が慌ててしまう。
「い、いいよ、そう言ってくれたら十分だから」
「嵩…本当に済まなかった…こんな俺を許してくれてありがとな」
眉を下げながらも穏やかな表情を浮かべる将史に、ああ、またこの表情を向けてもらえるのだと思って胸が温かくなった。

◇◇◇◇
「なんだこの歪な形は」
「うるせえ文句があるなら食うな」
将俊さんがお皿にのったハンバーグを見て思わず呟くと、将史がそれに咬みつく。
将俊さんは将史と皿の上のハンバーグを交互に見ると俺を見て口を開く。
「…もしかして、これ、将史が…?」
おそるおそる聞いてきた将俊さんに、俺は苦笑しながら返事をする。
「形を整えるの手伝ってもらったんです」
あの後将史はぎこちない手つきながらも手伝ってくれた。

「…そうか、にしてもなんというかもうちょっとマシな形にならなかったのか…」
「うるせえ」
将史の作ってくれた形はお世辞にもきれいとは言い難いものだった。
将俊さんの言葉にそっぽを向きながら返す将史に笑いながら、俺は将史と俺の前にも皿を置く。
と、将史の皿を見た将俊さんが声をあげる。
「なんで将史のは嵩君のなんだい!?」
「うっせぇよ…あっ何しやがるっ!」
将俊さんが将史の皿に手を伸ばすのを見て、さっと将史は皿を持ち上げ睨みつける。

「これは作った将史本人が食べなさい、私は嵩君のを食べよう」
「ざけんな誰がやるかっ」
大人げないやり取りに父さんと二人苦笑する。
「味は一緒ですから」
そう言うと渋々座ったものの将俊さんは悔しそうに将史を見ており、将史は得意そうにしている。
見本として俺が作ったものを食べたいと言うので将史のだけは俺が作ったものだ。
他の3人の皿には将史の作ったものが並んでいる。
歪な形のそれが、俺は実は気に入っている。
将史が作ったということもあるが、なんだか将史みたいに思えるのだ。
ちょっと歪なところとか。
本人にはもちろん言えないけれど。

食後の時間になりチョコケーキをテーブルに置き、飲み物を用意しようとテーブルを離れると、何やらまた騒がしい声が聞こえて来た。
今度はなんだろう、と戻ると、言いあう二人を父さんがにこにこ見ながらケーキを食べていた。
「あ、嵩、美味しいよこれ、ありがとう」
「ありがと、で、どうしたの?」
「聞いてたら分かるよ」
にこにこ顔の父さんの隣に腰をおろし、二人の言葉に耳を傾ける。

「将史それは私の分だ返しなさいっ!」
「はっメタボにならねえように親切な俺が食ってやるって」
「なっ誰がメタボだっ!それに甘い物は苦手だろう私が美味しく頂くからサッサと返しなさいっ」
「これは別物、どうせ会社で貰ったのあんだろ?そっちでも食っとけ」
「はあっ!?私は今日それを楽しみに一日仕事を頑張って…あっ!!将史っ!!」
「あ〜美味い」
「この…!!」

どうやら将史が将俊さんの分まで取ってしまったみたいだ。
ちゃんと一人ずつに焼いたのに小さすぎたのかな?と思いながらもぽかんと見ていると、父さんがのんびりと呟く。
「二人とも仲良しだね」
ケーキを巡って拳を使った小競り合いを始めた二人を見ながら、そんなことを言える父さんに俺は呆れを通り越して尊敬を覚える。
この緩さが父さんの良いところなんだよな…まあ時々状況を見てほしい時もあるんだけど。
まあでも今は。
「…そうだね」

俺もそう返すと、にこにこ笑う父さんにつられて頬が緩む。
将俊さんと未だやり合っている将史を見て、ああやっぱり好きだな、と思う。
辛いこともあったけど、俺はやっぱりこの恋をまだ捨てられそうにない。
俺はまだもう少しこの恋とは付き合うことになりそうだな、と穏やかな気分で入れて来たコーヒーに口をつけた。




110214
(良ければまた今度作りますから)
(嵩君っ!)
(…このクソ親父め…)
(皆仲良いっていいねぇ)

ビターも長くなりましたが纏まって良かった…
実はまだ裏設定があったりするんですがそれはまた機会があれば…(汗)

チョコケーキと言えば妹が作ってくれたことがあります
余ったからと言ってチョコを最後に全体にコーティングしてくれたんですが、冷やしたため表面が固まって大変でした
なんせフォークが刺さらない(笑)
刺さったら今度は抜けないしで爆笑ものでした
美味しかったんですけどね