バレンタイン2 後編 | ナノ
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スイートチョコ的告白 後編


もってきちゃったよ…
俺は鞄の中にあるピンクの包装紙を見てはあと肩を落とした。
昨日散々悩んだ結果、取りあえず用意だけはしていこう、とトリュフをラッピングした。
俺はこういう細かい作業が好きなので、うじうじ悩むよりは、と買ってきた材料でラッピングをした。
結果出来たものは…

「…どこの乙女の本命チョコだよ……」
焦げ茶の箱の中にはきちんと形の整ったトリュフを入れ、ピンクの包装紙で包んだのだが、ついつい楽しくなり、手を加えて行った結果出来たのは何とも気合の入りまくったどう見ても本命用としか思えない代物だった。
リボンとかで豪華さアップだしなんで小さい花まで付けちゃったんだ俺!!
初めはリボンでも付けとくか、ぐらいだったのに、何か物足りなさを感じて紙で作った花まで付けてしまった。
いやうきうきして花作ったの俺だけどさぁ!
ヤバい昨日の俺はどうかしてたとしか思えない。

御礼として渡すつもりならリボンはまだしも、花は付けちゃ駄目だろ!!
昨日悩みまくって深夜にラッピングしたのがまずかった。
どう考えても夜中に書いた日記は後で読むと恥ずかしい物になるというあのノリだ。
今改めて見てみるとこれはありえん!
深夜のテンションで作ったから俺の趣味が全開だし!!

こんなの渡せるわけ無いし…
はぁ〜と溜息をついて鞄をしまい、宮島の方をちらりと見る。
朝から女子が宮島の所に集まってきてはチョコを渡していく。
宮島は最初は「いらねぇ」と断ったものの、それでもめげずに渡してくる女子にもう断るのは諦めたみたいだ。
もう既に誰かから貰った紙袋にチョコが一杯になっている。
宮島は誰が来ても興味無さげに窓の外を見ているけど、それでも構わないのか女子達は「後で食べてね」とか「連絡待ってるよ」とか言ってチョコを置いていく。
宮島の代わりにいつもいる周りの人たちがチョコを紙袋に入れていっているけど、それでも受け取ってもらえるだけいいな、と思う。

俺なんか渡すことすら出来そうに無いし…
だって想像してみなよ?
女子が列をなしてチョコを渡そうとしてる所に、地味な男子学生が一人並んでるところを。
その手にこれでもかとラッピングされた気合の入ったどう見ても本命チョコを持っているところを。
絶対俺ドン引きされる!!
周りに思われるだけならまだしも、宮島に軽蔑されたりしたら…!
想像しただけで背筋が寒くなる。

駄目だ、止めよう。
どう考えてもこれを渡すとか自殺行為としか思えない。
それに段々自信が無くなってきた。
俺、趣味だからお菓子作りにはまあ自信があったんだけど、女子が渡してるチョコを見て自信が無くなって来た。
だって皆超有名店の奴とか渡してるんだぞ?
あの中に手作りって…どう考えても見劣りするし。

俺は耐えること無い女子を見ながら落ち込んでいた。
そうだよな、俺ってば何勘違いしちゃってんだって感じだよな。
ちょっと優しくされたからって、調子乗りすぎたよな。
宮島が俺に対してだけ態度違うとか、何妄想してんのって感じだよな…
ずーんと落ち込む俺の耳に、友人たちの会話が聞こえてくる。
「にしてもさ、宮島すっげえよな」
「あれだけ手渡しされて、朝に置いてあった分もだろ?何かもう羨ましい通り越して尊敬の域だよな〜」
「一個も貰えそうにない俺達にとったら夢のまた夢だよな」

ははは、と笑う友人達にハッとする。
そうだ、手渡ししなくても、こっそり机にでも置いておけばいいんだ!!
朝既に宮島の机にはチョコが山積みされていた。
宮島は眉をしかめたけど、それも全部紙袋にいれられていた筈だ。
俺のもこっそり机に置いておけば、そうやって持って帰ってもらえるんじゃ…!?
そうだよ!!幸いパット見ただけだと女子のプレセントとしか思えないし、それなら俺からだってばれずに宮島に受け取ってもらえるはず!
今日は午後にひとつ移動教室があるし、その時にこっそり入れておけば…!
よし、そうしよう!!

俺はすっかり悩みが解消されてすがすがしい気分になった。
「にしてもさ、朝からチョコの匂いしてるから俺、今無性にチョコ食べたいんだよな」
「あ、俺も!何でもいいから食いたいよな」
友人の声に俺はそう言えば、と鞄を探る。
「チョコならあるけど食べるか?」
こいつらが話をしてくれたおかげで思いついたんだもんな、御礼みたいなもんだ。
「えっマジ!?誰かから貰ったのか本間っ!?」
驚いたような友人に慌てて説明する。
「ま、まさか!じ、実は母親がチョコ作ったんだけど作り過ぎちゃってさ、朝余ってるの渡されたんだよ」

まあ実際には俺が作ったものだけど、それは言わない方がいいだろう。
さすがに俺が作ったなんて言ったら引かれることは分かってるからな。
俺は家用に作ったチョコクッキーを鞄から取り出す。
友人は嬉しそうにそれをがつがつと食べだした。
「!これ美味ぇっ!!本間の母親料理の天才だなっ!」
「えっ…あ、ありがとう、言っとくよ」
それは本当は俺が作ったものだから、実際は俺に向けての褒め言葉なわけで。
俺はにやけそうな顔を隠すように俯いた。

やっぱりこういうふうに美味しいって言ってもらえると嬉しいよな。
俺はえへへ…と照れて緩みそうになる顔を下に向け、褒められたことに喜びを感じていた。
「まじ美味…うっ!!お、おい、なんか宮島こっち見て無いか…?」
「お、おう…ていうかなんかすっげえ睨まれてるような…」
下を向いてどういうふうに渡そうかと考えている俺は、隣でひそひそと怯えたように話をする友人にも、こちらに向けられた鋭い視線にも全く気付いていなかった。

◇◇◇◇
か、考えが甘すぎた…
俺はがっくりと肩を落としながら、教師に押しつけられたプリントの整理を淡々とこなしていた。
俺は気楽に移動教室の際にでも机に入れれば、と思っていたのだが、どうやらそう考えていたのは俺だけでは無いようで。
宮島がだるそうに教室を出ていった瞬間、どっと女子が教室に入ってきたかと思うと一斉に宮島の机に突進していった。
ぽかんと残っていたクラスメイトが見る中、彼女達は猛烈な争いを始めた。

「ちょっと私が机に入れるんだからあんたは上にでも置いときなさいよっ」
「何言ってんのよ私が入れるのよ!」「そこは私が置くのよっどきなさいよっ!!」
残っていた男子全員がビビるくらいそれは凄い争いだった。
じょ、女子って怖い…!
押し合いへしあいチョコを少しでも目につくような場所に置こうとする彼女達に、俺は入って行く勇気を持っていなかった。
というか誰もいなくなってからこっそり置こうと思っていたのに、これでは無理そうだ。

仕方なく諦めてとぼとぼと移動し、授業を受けたのだが俺はこうなってしまった以上どうするかで頭が一杯だった。
もう今日は移動教室は無いし、一番に教室に帰って置くというのも鍵を持っていない以上無理だ。
折角渡せると思ったのに…とショックで放心していた俺は、教師に当てられても答えることが出来なかった。
そのせいで放課後にプリントの整理を命じられてしまった。

終わった…
HRが終わると俺は教師に言われた仕事のために資料室に向かわねばならず、日直から鍵を受け取りとぼとぼと資料室に向かった。
資料室に向かう際ちら、と見たのだが、宮島は女子に囲まれていて全く様子が窺えなかった。
はぁ、と俺は一人きりの資料室で溜息をついた。
仕事自体はもう終わりそうなのだが、思ったよりも時間がかかってしまった。
きっともう宮島は帰ってしまっているだろう。

資料室のある階は移動教室ばかりなので部活をしている声が良く聞こえる。
俺はぼんやりとそれを聞きながら整理し終わったプリントを机の片隅に寄せた。
教師からは終われば鍵を閉めて帰って良いと言われているので、鍵を閉めて荷物を取りに教室に向かう。
がら、と扉を開けると誰もいなくなった教室にはあと溜息が出る。
もちろん宮島の机には、溢れかえっていたチョコ達の影も形も無い。
今日は俺が最後になるかもしれないと知っていたので、日直も俺に鍵を渡して帰ってしまった。

とぼとぼと自分の席に向かい椅子に座る。
鞄を開いて中にあるチョコを見る。
結局渡せなかった。
折角作って、綺麗にラッピングまでしたのにな…
こんなことなら、友人にでもいいからあげておけば良かったと思う。
家に持って帰って家族に何か言われるのも嫌だし、自分で食べてしまおう。

机の上に置いて、ラッピングを丁寧に解く。
付ける時はあんなに楽しい気分だったのに、今はなんだか悲しい。
全部取り除いて、箱を開ける。
ころんと丸いトリュフに、俺からだって分からなくても、食べてほしかったな、と思う。
まあ今更言っても仕方ないんだけど…

俺はひとつ摘まんでぱくりと食べる。
「…おいし」
自分でも美味しいと思う出来に、思わず呟く。
折角の自信作なのに、食べるのが自分だけってなんだか空しいな。
落ち込んだ気分が嫌で、それを振り切る様にぱくぱくとトリュフを食べる。
あとひとつ、と思った時、がらっと音を立てて扉が開き、俺はトリュフを持ったまま視線をそちらに向けた。
教室に入ってくる人物を見て、俺はそのまま眼を丸くしてしまった。

「ぇ…みや、じま…?」
思わず名前を呼ぶと、宮島がくっと唇をあげてこちらに向かってくる。
「今まで残ってたのか、本間…何食ってんだ?」
近寄ってくるうちに、俺の机の上にあるものを見たのか、宮島の眉間に皺が寄る。
それを見て俺はハッとするが、宮島は長い脚で一気に俺の前まで来てしまった。
「あ、これは、その」
「……誰かから貰ったのか?」
低い声で聞いてくる宮島にぶんぶんと首を横に振る。

「ま、まさか!」
俺なんかにチョコを渡す女子なんているわけないよ!
何やら機嫌の悪そうな宮島に慌てて否定すると、宮島の眉間から皺が消える。
ほっとしているとふうん…と呟いた宮島は俺に爆弾を落とした。
「それじゃこれ、本間の手作りなんだ?」
「!!」
お、俺の馬鹿っ!!
貰って無いのにチョコ持ってるってことは、持参ってバレバレじゃんかっ!!!
ぬおおおおなぜ寄りにも寄って宮島にバレるっ!?

あたふたと何か言い訳をしようと頭を働かせるものの、何も思いつかない。
ど、どっどどどどどどどどどうしようっ!!?
挙動不審になる俺に構わず、宮島は更に爆弾発言をした。
「なあ、俺にそれ頂戴」
「えっ!?」
ぎょっとして宮島を見ると、それ、と俺の持ったままのトリュフを指さしている。
ええええええ!?
た、確かに入れてある紙ごと持ってるから手では直接触れて無いけど、これ!!?
いくらなんでも人が触ったのは…!!
ていうかそもそも宮島に俺の作ったのなんてやっぱり無理!!
間の前で食べられるとか恥ずかしすぎるし!!

「そっそそそそんな俺が作ったものなんて人にあげれないって言うか!」
あわあわと何とか断ろうとすると、宮島がむっとしたように眉を寄せて反論してくる。
「…あいつらにはクッキーやってただろ、あいつらには良くて俺には駄目なのかよ」
「えっいやその…っ」
ええええええなんで納得してくれないの!?
ていうかなんでそれ知ってんの!?
「いいだろ、くれよ」
「えっあっちょ…!」

焦れたのか宮島が手を伸ばしてきて必死に考える。
や、やっぱり恥ずかしすぎて食べてもらうなんて無理っ!!
なんでそんなに食べたがるのか分かんないけど、こればっかりは無理っ!!
あああでもこのままだと宮島が食べてしまうっ!!
一体どうすれば…ハッ!!そうだっ!!
俺は手に持っていたトリュフを急いで口に放り込んだ。
宮島の手が届く前に口に無事入れることが出来てほっとする。

俺が食べてしまえば宮島も諦めるしかないもんな。
「…ごめん宮島、これが最後の一個で…」
もごもごとトリュフを口に入れたまま宮島の方を見ると、何故か手を伸ばしたままで。
え、と思った時には、宮島の顔が眼前にあって。
「…なら直接貰う」
「え、な…んんっ!?」

え、え、え!?
何これ何これ何これっ!?
どどどどどうなってんだ!?
驚きのあまり見開いた目に映る、瞼を伏せた宮島の顔。
あ、睫毛長い…じゃなくてっ!!!
なななななぜに至近距離に宮島の顔!?
ていうか顔の距離がぜぜぜゼロ…!?

「ん…ふぅっ!?」
混乱してうっすら開いたままになっていた口に熱い感触。ぬる、とした物が一気に口の中に入ってきてトリュフと俺の舌と絡む。
「んっ…んん…!」
思わず身体を引いて逃げようとするけど、いつの間にか後頭部をがっちりと押さえられていて逃げられない。
ちゅく、という音が合わさった唇の間から聞こえてかあっと一気に顔に熱が集中する。
舌から伝わる熱でどろりと溶けだしたチョコの甘い匂いが広がる。

ここここここここここれってももももももしかしてききききききキス!?
お、俺と宮島が、キス!?
何がどうなってんのっ!?
「んふぅっ…んっ」
ぐちゅ、と溶けたチョコと絡められるように舌を絡め取られ、思わずびくんとして眼をぎゅっと瞑る。
こここここここの舌に当たってる熱いぬるっとしたのって、み、宮島の舌…!?
ぎゃあああああなななんで宮島とディープキスなんてしちゃってんのおおおおお!!?

「…っ、んん…っ」
完全に溶けてしまったチョコを全て舐めとろうとするかのように口内を舌で掻き回されてぞくんとした震えが走る。
余すところなく舌で舐めとられてくらくらしてくる。
「はふっ…んんぅっ」
ようやく唇が離れて息が出来る、とひとつ息をした途端またも唇で塞がれる。
執拗なまでに舌を絡められて身体から力が抜けていく。

な、なんで…っ!?
も、もうチョコも残って無いのに…っ!!
たっぷり時間をかけて宮島は俺の口の中を掻きまわした後、ようやくゆっくりと口を離す。
「はっ…ふぁっ…」
うっすら眼をあけるとつうっと俺と宮島の間に伝った雫を舐めとる宮島を見てしまい、余計に顔が熱くなった。
な、なんでこんな色気たっぷりなの…!!

はぁはぁと荒い呼吸をしていると、宮島がぺろ、と濡れた唇を舐めてぽつりと零す。
「…甘い」
その甘さを含んだ声に、かあっと顔が赤くなる。
お、お、俺、み、み、宮島と…っ!!!?
恥ずかしくなりうろうろと視線をさまよわせていると、ぐいっと宮島に顎を掴まれじっと眼を合わされる。

「…これからは俺だけに作れ、他の男には絶対やるな」
いいな?と言ってくる宮島に俺は言葉も無くこくこくと頷く。
わ、分かったから顔を離してくれっ!!
は、恥ずかしすぎて死にそうだ…っ!!
「よし…」
俺の様子に満足したのか、宮島は身体を起こして唇の端を持ち上げる。
あ、あの…出来たら俺の頬においたままの手もどけてほしいんですけど…!

後頭部から外され、するりと頬を撫でる手にぞくぞくする。
な、なんだか手がいつもよりも妖しい触り方な気がするんですけど…っ!?
どうすることも出来ずに身体を固まらせて宮島を赤い顔のまま見上げていると、ふっと宮島が笑う。
その穏やかな笑顔に見惚れた俺に、宮島の声が響く。
「…とりあえず宏平は明日から俺と一緒にいること、いいな?」
え…あの、それはど、どういう…?

「それから俺のことは彰って呼べよ、いいな。もし今度宮島って呼んだら…」
わけが分からない俺を余所に宮島はそこで言葉を区切ると、にやっと不敵に笑いぐっと俺を引き寄せ耳元で囁く。
「…さっきよりももっとすごいことしてやる」
「っな…ひゃあっ!!?」
ぎょっとして思わず口を開くとぴちゃ、と耳に濡れた感触がして思わず奇声をあげてしまった。
驚いて耳を手で覆って身体を引くと、にやりと笑った宮島が舌でぺろりと唇を舐めていて真っ赤になってしまう。

ままままままままさかさっき耳…!!
あまりの衝撃に言葉も出せずに宮島を見ていると、にやっと笑った宮島が口を開く。
「これから楽しみだな?宏平」
妖しく不敵に笑う宮島に、俺は真っ赤になって固まるしか出来なかった。

この日を境に俺と宮島の関係は大きく変わることになるのだが、その時の俺はさっきまでの衝撃が強すぎて、宮島の言葉の意味を理解することは出来ず、ただただ茫然と楽しそうに笑う宮島を見上げているしか出来なかった。




110214
(おいもっとこっち寄れ)
(っ!?(えええええなんで手を繋ぐのおおおおお!?))


宮島も密かに宏平のことを狙ってたという…
分かりにくくてすいません(汗)