バレンタイン2 | ナノ
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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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スイートチョコ的告白 前編


「…どうしよ…作っちゃったよ…」
2月13日の夜、一人甘い匂いの漂うキッチンで、俺は茫然と机の上の物体を見つめていた。
俺の名前は本間宏平(ほんまこうへい)、地味な男子高校生だ。
ちょっと変わったところと言えば、俺は料理とか縫物とかそういう女の子が好きなことが好きってところ。
お、オトメン…?とか言うんだっけ?
多分俺もそれなんだろうけど、誰にもこの趣味については言って無い。

だって俺みたいな地味で目立たない奴がそういう趣味だなんて、絶対に引かれる。
引かれるだけならまだしも、オカマとかホモとか言われたらもう俺絶対学校行けない。
……いや、ホモってのは強ち間違っても無いんだけどさ……
はあ、と力なく溜息をつき、取りあえず使った器具を洗いながらちら、と机の上に眼をやる。
そこにあるのはころんとした形の甘い匂いの茶色い物体。
そう、トリュフだ。
今の俺を悩ませている、丸い物体。

別にそれ自体はおかしい物じゃ無い。
俺はお菓子作りも趣味だから、トリュフ自体は何回か作ったこともあるし。
問題は今日が2月13日だってことだ。
俺は椅子の上に置いてある鞄を見てまたはぁと溜息をつく。
そこには先日店で買ってきたラッピング用品が入っている。
しかもピンクの、どう見てもバレンタイン用の。

そう、俺はバレンタインにチョコを渡すか否かで悩んでいるのだ。
別に相手が女の子なら、まあ逆チョコもありだろう。
だけど、俺が渡したい相手は女の子じゃ無い。
俺が渡したいのは、宮島彰(みやじまあきら)という俺と同じ男子なのだ。
……俺がホモと呼ばれても仕方ないというのはこういうわけだ。

別に俺は昔から男の人が好きだったわけでは無い。
中学の頃とかは、普通に女の子に時めいたりしてた。
ただ、俺はそういう恋愛よりも趣味…特に料理に嵌ってしまい、これといって好きな人も出来ないまま高校に入学した。
そこで俺は宮島を知った。
宮島は俺なんかとは違って、入学当初から有名だった。
というのも、宮島は滅多にいないような美形だったのだ。

艶のある黒髪に、ちょっと着崩した制服。
同い年とは思えないぐらいに成長した身体に、どこかちょっと危ない雰囲気。
実際宮島は中学の頃から夜の街でも有名だったらしい。
いつも不敵に笑ってる宮島に、女の子達は直ぐに心を奪われた。
俺はと言えば正直最初は宮島のことが苦手だった。
宮島の周りには派手な人がたくさんいたし、地味で目立たない俺はどちらかと言えばそういう人達にからかわれることが多かったのだ。

俺はそういうわけで、同じクラスになった宮島に対して苦手意識を抱いていた。
まあ同じクラスって言ってもグループが違うし、接点なんか無いだろうと俺は思っていたんだけど…

◇◇◇◇
「今日の日直は本間と宮島だな、しっかりやれよ〜」
担任のその声に俺はハッとして黒板を見た。
黒板の隅にはっきりと本間・宮島と書かれているのを見て内心で盛大な溜息をついた。
入学して間もないので日直は名簿順に二人一組でしているのだ。
席順こそ一番後ろと一番前とで離れているものの、名簿で行けば俺の後が宮島。
今日だったのか…と俺はがっくりと肩を落とした。

日直と言えば面倒くさいことを教師に押しつけられることが多い。
宮島とよく一緒にいる人達はそういうことを嫌がって、もう一人の日直に仕事を押しつけていた。
派手でクラスでも発言力のあるグループにいる彼らに逆らえるはずもなく、相手の子は一人で仕事をせねばならず、非常に大変そうだった。
宮島も多分面倒な仕事なんて嫌がると思う。
そもそも宮島はあまり何事に対してもやる気がないみたいで、周りの人たちがはしゃいでいても宮島はつまらなさそうにしていることが多かった。
そんな宮島が日直の仕事をしてくれるとは…到底思えない。
今日は一日雑用か…と俺は気分が重くなった。

午前中は何も仕事を頼まれることも無く、これならば今日はこのまま終わるんじゃないかと思っていた矢先、昼休憩に現れた教師が俺の希望を打ち砕いた。
「午後は地図を使うからな〜日直用意頼んだぞ〜」
これに書いてるから、と教師は地図の番号を書いたメモを俺に渡して去って行った。
俺はそのメモを見て愕然とした。
な、なんで今日に限って3つも地図を使うんだよっ!?
地図は結構大きいし重いので、いくら男子でも一気に3つも運ぶことは出来ない。
しかも俺はそんなに身体が大きいわけでもないので、1つでも結構しんどいのに…!

ショックを受けてメモを見ていると、教師の声が聞こえたのか宮島の周りにいる人達から声がかけられた。
「うわ〜面倒くさそ〜!休憩潰して地図運ぶとかやりたくね〜!!」
「宮島は忙しいからさ、全部やっといてくんね?えっと…誰だっけ?」
「ひっど〜い!!クラスメイトぐらい覚えてあげなよ〜!ね?本田君だっけ?」
「お前も覚えて無いじゃんかよ!」
ぎゃははと笑う声にかあっと顔が熱くなる。
俯いたままだから彼らの顔は見えないけど、きっと俺のことを見下して笑ってるんだ。
しかもお昼だからまだクラスに人が一杯いるのに、こんな風に馬鹿にするみたいに笑うなんて。

これ以上ここにいたくない、と教室から出ようと思った時、ガアン!という大きな音が響いて教室がしんと静まった。
驚いて顔をあげると、机がひとつ転がっていて宮島が脚をあげた格好で椅子に座っていた。
え、と思って見ていると、宮島が口を開く。
「…煩ぇんだよ」
ぎろ、と切れ長の眼で見られて宮島の周りで騒いでいた人達がびくっと震える。
「…ぁ、わ、悪ぃ…」
宮島はふんと鼻を鳴らしたかと思うとすっと立ち上がるとすたすたと歩き出す。

「えっあ、宮島、どこ…」
慌てて立ちあがろうとした彼らに宮島はぎろっと鋭い眼を向ける。
「黙れ、ついてくんじゃねえよ」
「っわ、悪い…」
宮島の眼に怯えたように腰を下ろすのを確認もせずに宮島は歩き出す。
なぜか俺の方に近寄ってくる宮島に混乱していると、宮島がくいっと顎で示して口を開く。
「行くぞ、本間」
「っは、はい!」
名を呼ばれびくっとしながらも慌てて宮島の後に続く。

宮島の長い脚に置いてかれそうになり小走りになると、宮島はほんの少し歩調を緩めてくれる。
も、もしかして俺を気遣ってくれた…?
背の高い後ろ姿を見ながらそんなことを考えていると、資料室の並ぶ階に出る。
宮島は迷いも無く社会科資料室に脚を進める。
も、もしかして、仕事、してくれる…?
驚いてまじまじと宮島の背中を見ている間にも、宮島はさっさと中に入ってしまう。
慌てておいかけると、「どれだ」と宮島が聞いてくる。

「えっ、あ、こ、これだけど…」
慌てて手に持ったメモを見せると、宮島は「3本もかよ…だりぃ」と眉をしかめながらも地図を探し出す。
しばらくそれを茫然と見ているしか出来なかったが、ハッと我に返り慌てて手伝う。
3つとも直ぐに見つかり、後は運ぶだけになって宮島を見る。
な、なんていうか宮島って思ってたよりも良い奴なのかも…
きちんと仕事はしてくれるし、さっきも歩くのをゆっくりにしてくれたし。
それにもしかしてあの教室のも、俺を庇ってくれた…?
ま、まあそれは俺の考えすぎにしても、宮島って案外優しい…?

今もさりげなく大きい方の2つを持とうとしてくれている宮島に俺は確信する。
きっと宮島は優しい人だ。
そりゃちょっと普段の宮島は近寄りがたいけど、悪い人じゃ無い。
派手なグループだからって勝手に苦手意識持ってたの反省しなきゃな…
そう思っていると宮島が地図に手を伸ばした瞬間「痛っ」と顔を顰めた。
「ど、どうしたのっ!?宮島…っ」
慌てて手元を覗き込むと、金具に当たって切れたのか、指から少し血が滲んでいた。

「!だ、大丈夫!?消毒しなきゃ…!」
「あ?これくらい放っといても大丈夫だろ、舐めときゃ治…」
「駄目だって!!と、取りあえず絆創膏貼らないとっ!」
小さい怪我でも雑菌が入ったりしたら…っ!!
俺は小さい頃親に散々脅されまくったので今でも怪我をするとすぐ消毒しないと気が済まないのだ。
母親に半ばトラウマになりそうなぐらい脅された記憶があるため、俺は宮島の手をがっしりと掴むと慌てて自分のポケットから絆創膏を取り出した。
宮島は俺のいきなりの行動に驚いたのか、こちらを見たまま俺のされるがままになっていた。

「い、痛い?消毒出来たら一番良かったんだけど…」
指に絆創膏をくるくると巻きつける。
あああ消毒してから貼るのが一番なのに…っ!
「…いや、ていうか本間、絆創膏…」
指を心配で見つめていると、頭上から聞こえた声にハッとする。
おおおお俺ってば宮島になんてことをっ!!
そして俺は改めて宮島の指を見てぎょっとした。

みっみみみみみみみみみみみみミッ○ィー!?
寄りにも寄ってミッ○ィーの絆創膏っ!!!?
どっちかというとクールで野性的な宮島に、ミッ○ィー!?
ぎょっとして固まる俺に宮島は「おい、本間?」と声をかけてくる。
俺はようやく頭が働きだし慌てて口を開く。
「み、宮島、これは、その、いつもはもっとマシな絆創膏持ってるんだけどっ!き、昨日使っちゃってこれしか無かったって言うかっ」
俺の馬鹿ーっ!!昨日友人に一個まともなのあげて、後はファンシーなのしか残って無いの忘れてたーっ!!

言い訳のようなことを言い続ける俺に宮島は不思議そうに聞いてきた。
「いつも?」
その声にハッとする。
も、もしかしなくても男子高校生が絆創膏常時してるのって変!?
でもさあいつ怪我するか分かんないじゃんかっ!
「本間、いつも絆創膏持ってるのか?」
宮島の再度の問いかけに俺はうっと一瞬詰まるが、観念して口を開いた。
「うん…まあ、大体は…」

変なら変だと笑うがいいさっ!
気になっちゃうんだからしかたないじゃんかっ!!
小さい頃からの習慣だからもう癖みたいなんだよっ!
少々やさぐれた気分でいると、「どんなの?」と聞かれる。
ど、どんなのだって!?さっき言ったじゃんもうまともなの無いって!
「別に見せるぐらいいいだろ?本間」
何故か引く気がなさそうな宮島に渋々ポケットから取り出す。

「こ、これだけど…」
「へぇ…」
宮島が興味深そうに俺の手の上にある絆創膏を見る。
ファンシーなそれらに俺は顔が熱くなる。
な、なんでよりによって滅茶苦茶ファンシーな感じかなぁ!!
ピンクとかパステルブルーとか、どう見ても女の子が好きそうな感じのばっかだし!!
キャラクター物だということが更に追い打ち。
うううキャラ物の方が見てて可愛いじゃんか、痛いんだからせめて可愛い物で気持ちを和らげようという俺の考えから選んだものだけど、こうやってまじまじと他人に見られると恥ずかしすぎる。

大体可愛い方が良いってどんな発想だよ!!
俺は乙女かっ!!
自分の思想に自分で突っ込みを入れながらも羞恥に耐えていると、宮島が「これ頂戴」と言ってくる。
「え…いいけど…」
宮島は俺の手から受け取とると、自分のポケットにそれをしまいこむ。
ぽかんとそれを見ていた俺だが、視界にファンシーな絆創膏を付けた宮島の指が入ってハッとする。

「み、宮島、なんなら後で保健室に行けば消毒も出来るし、新しい絆創膏も貰えるから…」
何と言うか宮島と絆創膏のファンシーさのギャップが凄い。
言うなれば狼が可愛いピンクのリボンを付けてるみたいだ。
いや、それはそれで可愛いとか思ったりしなくもないんだけど、宮島はこんなの付けてるの嫌だろうし。
そう思ってそう言ったのだが、宮島は「別にいい」と言ってひょいと地図を持ち上げてしまう。
ええっ!俺としては可愛いから和まなくもないんだけど、い、いいのかな…

「それより結構時間立ったし、教室行くぞ」
2つを軽々ともつ宮島に細いのにがっちり筋肉はついてるんだなぁと感心してしまう。
俺なんてこれ1つでもしんどいのに。
ドアの向こうでわざわざ地図を下ろして待ってくれている宮島の所まで、地図をもって急いで向かう。
わたわたとしていると、ふっと宮島に笑われる。
その笑顔がいつもみたいな上辺だけの感じじゃ無くて、思わずって感じの笑顔だったので俺はぼおっと見惚れてしまった。

何て言うか宮島も年相応の顔が出来たんだなぁと思ってしまう。
くっくっと笑う宮島を見上げていると、俺の視線に気付いた宮島が眼を細めてぐしゃ、と俺の頭を撫でる。その大きな骨ばった手の感触に、思い切り心臓が跳ねた。
「本間って可愛いのな」
笑い続けたまま俺の頭を撫でる宮島に、異常なほど顔が熱くなってくる。
な、なんだこれ!滅茶苦茶ドキドキしてるんだけどっ!
か、かかかか可愛いって言われて嬉しいとか、俺、どうかしたのかっ!?

ちら、と見上げていつになく穏やかな表情で笑っている宮島を見て、かああっと顔が赤くなる。
な、なんだよ、こ、こんな、こんなんじゃまるで、俺…!
その時予令がなって宮島は「時間を忘れてたな」と言って俺の頭から手を引く。
頭から無くなった手の感触に、俺は寂しさを覚えてぎょっとする。
だ、だから俺何を考えて…!?
「行くぞ、本間」
ふっと笑って歩き出す宮島に、俺は駄目だ、と思った。

「……こんな風に好きになるって、俺は乙女か…」
ぽつりと零した小さな声は、少しも力が入っていなくて。
俺は真っ赤に上気した頬を抱えて、人生初の恋を自覚していた。

◇◇◇◇
あの出来事がきっかけで、俺は宮島に恋をしてしまった。
普段と違う優しく笑う宮島のギャップに恋に落ちるなんて、どこの少女漫画だと思わなくもないが事実なので仕方ない。
正直そこまで俺の乙女化は進んでいたのか…と落ち込んだりもしたのだが、こればかりはどうしようもない。

それに好きになったからと言っても俺と宮島の関係に変化があったかと言われれば答えはNOだ。
その日は日直として会話もしたものの、次の日からはいつものようにただのクラスメイト。
地味な俺とクラスの中心の宮島との間に接点なんてあるはずもなく。
俺は宮島を意識して、ついつい視線で追ってしまったりもしたのだが、その都度可愛い女子に囲まれている宮島を見れずに結局は視線を逸らした。
俺だって地味で、しかも男の俺が宮島と釣り合うなんて思っていない。
宮島は格好良くて、モテているから尚更。

見つめているだけでいい、なんてことは思わないけど、それさえも出来なくなるなら見ているだけでいいと思う。
俺なんかの気持ちを言ったって、宮島にとったら迷惑なだけだろうし。
それに気持ち悪く思われたりしたら、それこそショックすぎて耐えられない。
俺は結局1年間宮島をひっそりと見ているだけで過ごした。

2年になるに伴い、クラス替えがあるのでこれで宮島ともお別れかな、と思っていた。
同じクラスになれると思うほど俺は夢見がちじゃないし、それに良い機会だとも思った。
報われない恋をして高校生活を過ごすよりも、もう諦めた方がいいんじゃないかって。
宮島と違うクラスになれば、ますます接点は無くなるし。
そうすれば俺も徐々に宮島のことは忘れるんじゃないかなって。
まあそういう暗い期待を込めて迎えた始業式。
クラス分けの用紙を見て俺は愕然とした。

俺の名前の下に宮島の名前。
またも同じクラスになったのだ。
俺は嬉しさ半分、複雑な気分だった。
折角諦めようって思ったのに、同じクラスだなんて絶対意識してしまう。
また一年間見つめるだけで過ごすことになるのか…
話しかけることも出来ず、他の人に囲まれてるのをただ見てるだけってのは結構辛いんだけどな…

でもならなんでバレンタインって思うだろ?
それがさ、宮島と2年になってからよく眼が合うような気がするんだ…
き、ききき気のせいかもしれなんだけどさっ!
それにちょっとだけ話すようになったんだけど、その、なんていうか…
宮島の俺への接し方が、かなり優しい、ような…
いやいや気のせいかも知んないんだけどっ!!
でもさ、なんか俺に触る時がいやにソフトタッチのような気が…
ほ、他の男子への接し方に比べて、ちょっと違うような…

ああああああやっぱりこれって自意識過剰!?
俺が勝手に乙女的な思考しちゃってるだけ!?
で、でもそんな気がするんだよな…
あああでもやっぱり気のせい!?
ぐるぐるそんなことを考えてるうちに、迷いながらも俺はトリュフを作ってしまった…
どどどどどうする!?

「…お、落ち着け、これは御礼、そう、御礼だって言ってさらっと渡せば…」
丁度今日俺は教師に頼まれた仕事を宮島に手伝ってもらったところだ。
放課後に残ってやっていると、わざわざ宮島まで残ってやってくれた。
その御礼として渡せば…
…でも御礼として普通バレンタインにチョコってあげないよな…しかも手作り。
「……あああどうしよう…」
結局俺はトリュフを前にして、どうするか頭を抱えることになった。




110212
(どうしよう…)
(あらあら宏平もお年頃ねえ)
(宏平のはお母さんのチョコよりも美味そ…ぐはっ!)
(お父さん何か言ったかしら〜?)(い、いえ…(ガクブル))


オトメンな受けに挑戦です