バレンタイン1後編 | ナノ
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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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ミルクチョコ的告白 後編


「今日はほんとイケメンは忙しいな」
「まあバレンタインだしな」
休み時間ごとに呼び出される翔太は今も女子に呼ばれて困ったように扉の所で対応している。
何やら困ったように翔太はなだめようとしていたみたいだが、女子は半ば無理やりに翔太にチョコを押しつけるように渡して走って行ってしまった。
翔太はその後ろ姿と手に押しつけられたチョコを見てがっくりと肩を落としている。
何しろ朝からずっとこんな調子なので、周りの男子も今は羨ましいというよりも同情している。

どうやら今日はいつもに増して女子は強気になるらしい。
翔太は朝、机の上に山積みされたチョコを見て、これ以上増えると処分にも困るからってもう受け取らないみたいなことを言ってたんだけど、どうやらそれは無理みたいだ。
休み時間ごとの短いやり取りしか見てないけど、翔太が断っても女子にチョコを押しつけられている。
まあ女子の気持ちも分かるけどな。
だってさ、応えてもらうのは無理でも、せめて気持ちは受け取ってほしいもんな。
気持ちの籠ったチョコを受け取ってもらえるだけでもちょっとは報われたみたいに感じるもんな…

俺のチョコも受け取れないって言われるのかな。
そうだったらどうしよう。
やっぱり俺も最後なんだから押しつけてでも受け取らせよう、うん。
ぼんやり肩を落としながら戻ってくる翔太を見てそう思っていると、どし、と背中に重み。
「央、何考えてんだ?腹減ったならチョコやるぞ」
にやついた山下に俺は「いらない」と呆れた視線を送る。
こいつも何考えてんのか、朝から何かと言えばチョコチョコ煩いんだよな。
いつもはそんなことも無いくせに。

「山下何してやがるっ!!」
近くに戻って来ていた翔太がハッとしたようにそう言って俺と山下を引きはがす。
正直重かったのでありがたい。
「んなカリカリすんなよ、ちゃんと見守ってやってたんだって」
「見守る!?ならあんなにくっつ…」「翔太く〜んっ!!」
翔太が何やら山下に食いかかっていった時、またも女子が翔太を呼ぶ。
翔太はうっとした顔をしてそちらをちらりと見る。

友人と来たのか、2人組の女子が扉の所で待っている。
手に持った箱はチョコだろう。
昼休憩だからか、さっきから女子が絶えずに会いにきている。
「呼ばれてるぞ」
山下のにやけた顔をキッと翔太は睨みつけると、今度は俺に向き直る。
「央、山下が次に変なことしたら、窓から突き落としてもいいからな」
眉を下げた心配そうな顔で翔太は俺に言い聞かせるようにそう言ってくる。
「分かった、遠慮なく撃退する」
にっと笑ってそう返すと、翔太はほっとした顔をする。
山下が何やらわめいているが無視だ。

「それじゃあ央、ほんとに突き落としていいからね」
何度も念を押すようにそう言うと翔太はやっと女子のところへ向かう。
ひらひらと手を振ってそれを送り出す。
俺だって翔太が告白されてるのはちょっと辛いけど、まあそれだけ翔太が良い奴だってことだもんな。
それに俺だって告白するつもりなんだから、他の人が告白するのは駄目ってのもおかしいし。

何やら翔太に話しかけだした女子を見てなんて言って告白するのかな、とふと思った。
俺なら……ん?
俺、告白するってのは決めたけど、何て言うか決めたっけ?
「あーっ!!」
思わず大声で叫んでしまう。
俺、告白するセリフ考えてないじゃん!!
なんで今まで気がつかなかったんだよ、俺の馬鹿〜!!

いきなり大声を出したせいか、皆がぎょっとしたように俺を見た。
山下も「ど、どうしたいきなり…?」と驚いている。
翔太も驚いたのか、「央っ!どうした何かされたの!?」と急いで俺のところまで走ってやってきた。
「あ、あ〜…いや、その、テレビの録画忘れててさ…」
俺の顔を覗き込んでくる翔太と山下にへらっと笑ってそう繕う。
いくらなんでも本当のことは言えないしな。
でも翔太は何やら納得がいかないのか、でも…とまだ心配そうに俺を見てくる。

「ほんとそれだけだって!それより翔太、あの子たち放っておいていいのかよ?」
俺の声にようやく思い出したのか、ハッとしてバツの悪そうな顔をする。
俺の大声に驚いて二人を放ってこちらに来てくれたらしい。
扉の所で戸惑ったように二人はこちらを窺っている。
俺を優先してくれたのは嬉しいけど、やっぱり今日は大事な日だからな。
「話の途中なんだろ?戻ってあげなよ」
そういうと翔太はこちらを気にしながらも女子の所へ戻っていった。
まあ俺も告白のセリフ考えるのに、本人目の前にしてたら考えもまとまらなくなるもんな。

「結局なんだったんだ?」
「煩いぞ山下、俺は今から大事な考え事をするんだから、ちょっと黙っててくれよ」
俺は山下の声を遮ってセリフを考えることにした。
なにやら山下が「まさか気付いた…?いや鈍感な央に限ってそれはな…」とぶつぶつ言いだしたけど、無視だ無視。
む〜どういえばいいかな…やっぱりストレートに?
いやいやそれよりももっと理由とかも言った方が…?
う〜んと悩み始めた俺は結局昼休みの残り時間全てを使っても思いつかず、残る授業中もそのことについて悩み続けることになった。

◇◇◇◇
結局考えがまとまらなかった…
授業中も考えたもののこれだと決められず、放課後になってしまった。
「それじゃあ央、ちょっと俺行かないとだけど…すぐ戻ってくるから!」
「そんなに焦らなくてもちゃんと待ってるって」
「とにかく、すぐ戻ってくるから待ってて!」
翔太は余程早く済ませたいのか、そう言い残すと走って出て行ってしまった。
俺としては戻ってくるまでにセリフを考えようと思ってるから、あんまり早く戻ってこられると困るんだけど。

どうしようかな…
一人きりの教室で考えるけど、考えれば考えるほど決まらなくなるっていうか…
「…あーもーっ!やめだやめっ!」
大体俺はあんあまり考え事とかには向かないタイプなんだよなっ
ええいここは男らしく直球で「好きだ」って言おう!
理由とかそういうのはまあとにかく、好きだって気持ちを伝えることが大切だもんな!
よし!決まり!!

セリフは決まったんだから、後はどういうタイミングで渡すかだよな…
ていうかそういう雰囲気作りとかしたほうがいいのか?
う〜ん、告白って奥が深いな…
俺はまたも頭を悩ませることになってしまい、翔太に名前を呼ばれるまで全く気がつかなかった。

「央っ!待たせて、ごめん…!」
走って来たのか、息が荒いままの翔太はそう言うと机に手をついてぜえぜえと呼吸する。
「い、いや、思ったより早かったな」
まだ全然どうやって渡すか考えて無いのに!という焦りからか、変にどもってしまった。
「えっ!そ、そうかな…」
なぜか翔太は落ちつか無げにきょろきょろと視線を動かしている。
走ってきたせいにしては頬が赤いような気がするんだけど…どうかしたのか?

お互い何故か無言になってしまった。
き、緊張してきた…!
考えたら俺、告白するの初めてなんだよな。
というか翔太が初恋…?
うわあああなんか今更恥ずかしくなって来た!

視線を下に向けて何やら手を握ったり開いたりしている翔太をちらりと見る。
うっすら赤い頬にすっと伸びた長い睫毛。
それだけ聞くと女の子みたいだけど、しゅっとした輪郭が男らしさを兼ね合わせている。
どちらかというと幼い印象のある顔なんだけど、身体はしっかりと筋肉がついている。
翔太が可愛いって言われるのを気にして鍛えたのを、俺は良く知ってる。
優しくて、何でもこなすんだけど、実はちょっと気が弱いとこもあることも。
でも、ここぞと決める時には男らしく決めるってことも。

全部、俺の好きなところだから。やっぱり、俺、翔太のことが…
引き込まれるように翔太を見つめていると、バッとこちらを見た翔太と眼が合う。
あ、翔太、顔真っ赤だ。
「っ央、好きだっ!俺と付き合ってくれっ!!」
ぐっと両手で突き出されたピンクの箱。
そっか、翔太、俺のことがすk…

「ってええええええええ!?しょ、翔太っ!?」
思わず声をあげると、真っ赤な顔のまま翔太がまくしたてるように口を開く。
「お、男同士だしおかしいって思うかもしんないけどっ!俺、央のことがずっと好きで…っ友達でいれたらいいって思ってたけどやっぱ我慢できなくて…っほ、本気で央が好きなんだっ!!」
真っ赤な顔で、泣きそうになりながらそう言う翔太を茫然と見ることしか出来ない。
まだ言われたことがよく理解できない。
翔太が、俺を、好き?

「…っひ、央が気持ち悪いならもう二度と近寄らない…っだ、だけど、せめてこれだけは受け取ってほしい…っ」
反応を返さない俺をどう思ったのか、翔太は泣きそうに顔を歪めて手に持った箱を差し出してくる。
ピンクの箱を持っている手は、力が入り過ぎていて白くなっている。
微かに震える翔太の肩を見て、俺は思わず口に出していた。

「俺の方が翔太をずっと好きだし…」
意識せず出た言葉に、翔太だけでなく俺もハッとする。
「ぇ…央、今…」
驚いたように俺を見てくる翔太に、かああああっと顔が熱くなる。
お、俺、もしかして声に出してた…!?
赤くなった俺につられたのか、翔太も顔がより一層赤くなる。

あ〜も〜!!こうなったら言ってしまえっ!!
「お、俺も翔太のことが好きだって言ったの!チョ、チョコだって作ったんだからなっ」
鞄からチョコを取り出して、ずいっと差し出す。
翔太の眼が俺とチョコとを行ったり来たりしている。
受け取ろうとしない翔太の胸に俺はチョコを押しつける。
「…い、いらないのかよっ」
「っい、いるっ!」
翔太はそう言うと慌てて俺の手からチョコを受け取る。

「ん」
俺も手を差し出すと、おずおずと翔太が箱を渡してくる。
二人でチョコを交換しあって、また無言になる。
ちらっと見ると真っ赤な顔の翔太もこちらを見ていて、二人とも真っ赤な顔のまま見つめあってしまう。
「…あ、あのさ、央…その、告白の返事、なんだけど…その、OKってことで…いい、の…?」
「っ」
翔太の声にかあっと顔が熱くなる。
そんなの考えたら分かるだろうが、この馬鹿っ!!

じっと不安そうに見つめてくる翔太に心の中でそう言いながら、こくんと頷く。
途端にボッと耳まで真っ赤になる翔太に俺もつられて更に真っ赤になってしまう。
き、聞いておきながら照れるなよ…っ!!
またももじもじと二人とも黙りこんでいたんだけど、翔太が何やら決心したように赤い顔をあげて聞いてきた。
「あ、あのさ…ひ、央、抱き締めて、いい…?」
「!」
またも羞恥心を煽られるような質問に、顔の熱が収まらないのを感じながら、こくと頷く。

するとおそるおそるという感じで翔太が手を伸ばしてくる。
じわじわ狭まる距離に、こんなに恥ずかしい思いをするくらいならいっそ一気に引き寄せてくれ!と思う。
ヤバい顔がまともに見れない。
段々近付くにつれ分かる翔太の香りや体温に、心臓がどくどくと音を立てる。
ふわ、と包み込む感触にがあっと熱が上がる。
な、なんでこんな緊張するんだよっ!
い、今までだってふざけてこれくらいあったのに…っ!

「ひ、央…あ、あのさ…」
「…な、なに」
肩越しに聞える翔太の声に動悸が収まらない。
くっついている翔太にも聞こえてるんじゃないかってぐらいの音。
「その…き、キス、していい…?」
「っ!?」
き、き、き、キス!?
予想外の展開にかちんと身体が固まる。

「あ、いや、嫌だったらいいんだ!でも、その…あの、央が良かったら、したいな〜だなんて…」
もごもごと言う翔太も恥ずかしいのか、微かに見える耳が赤い。
き、キスって…!いや、俺もしたいな〜なんて思ったりしたこと無いわけではないけどもっ!
「…だ、駄目、か?」
ちょっと不安そうな翔太の声に、ハッとする。
こ、告白も翔太からだったし、俺ばっか良い思いしてる…?
お、俺だって翔太のこと好きだってちゃんと分かってもらわないと!
そ、それならキスが、一番、だよな、お、俺も、い、嫌じゃないんだし…

「…いい、よ」
ぼそっと言うとバッと翔太が身体を離して俺の顔を凝視してくる。
「ほ、本当に?」
「本当に」
お互い耳まで真っ赤にして何をしてんだろうと思う。
でも翔太がそっと俺の両肩に手をのせて、ぐっと顔を近付けてくるから。
見慣れた筈の端整な顔に、高鳴る鼓動。
じりじりとしか縮まない距離に、恥ずかしさがたまらなくなる。

「…は、はやくしろよ」
「い、いや、その…ほ、ほんとにするぞ?」
「う、うん…」
息がかかる距離まで来て躊躇う翔太に、思わず口を開くと確認され、かっと顔が赤くなる。
い、いちいち確認しなくていいっての!は、恥ずかしい…
ふっと顔に影がかかりぐっと瞼を閉じる。
数瞬後に唇に柔らかい感触。
俺、翔太と、キス、してる。

多分そんなに長い間じゃ無かったけど、俺に取ったら滅茶苦茶長く感じた。
ゆっくり翔太が離れて行くのを感じて、眼を開ける。
真正面の翔太と眼が合って、お互いボッと音が出そうなぐらい赤くなる。
すっごい恥ずかしいのに、視線を外すことは出来なくて。
「…ひ、央…もっかい、いい…?」
真っ赤な顔のくせに、そんなことを真剣な顔で聞いてくるから。
その顔が、やけに格好良く感じて、柄にもなく時めいたから。
俺は返事の代わりに眼を閉じてぎゅっと抱きついてやった。

◇◇◇◇
「そういえばチョコ…央が作ってくれたんだ?」
「う、うん…言っとくけど、あんまり期待するなよ」
あの後しばらくして、暗くなってきたから帰ろうって翔太が言い、俺達は学校を後にした。
今は下校途中なんだけど、その、ひ、人通りも少ないから、俺と翔太は手を繋いでる。
ほんのそれだけのことなんだけど、頬が赤くなるのを止められない。
翔太もほんのり赤い顔をマフラーに埋めている。

「央が作ってくれただけで、俺に取ったらどんなのより美味しいよ」
「っ」
どんな顔して言ってんだ、と思ってみたら、マフラーから見える耳が真っ赤。
は、恥ずかしいなら言うなよな!言われるこっちの心臓がもたないっての!
どきどきするのを紛らわせるためにも俺は話題を変えることにする。
「そ、そういえば翔太もチョコくれたよな、どんなのくれたんだ?」
ピンクの箱は今俺の鞄の中に大事にしまってある。
翔太から貰えるなんて思って無かったから、これは家で大切に開けようと思う。

「えっ!あ〜…その…実は俺も手作り……だったり…」
「えっ!!」
驚いてまじまじと翔太の顔を見てしまう。
翔太はあ〜っ!と呻いて空いている手で髪をぐしゃぐしゃにしている。
「ほ、本命には手作りだろ?って思ってだな…」
恥ずかしいのかぷいっと顔をそむける翔太にまたも俺はどきどきする。
ほ、本命って…!
恥ずかしくなり二人とも黙りこくってしまう。
でも繋いだ手は、しっかりと握りしめて。

長い様な短い様な、気がつけば分かれ道。
俺と翔太の家は近いけど、ここでそれぞれ左と右に分かれる。
そういえばどうして俺のこと好きになったのかとか聞いて無いな。
それに告白の時もずっと好きだったとかなんとか…聞きたいけど、今は翔太に好きだって言われたことで精一杯。
これ以上は俺の許容量を超えてる。
ちらっと翔太を見上げると翔太もこちらを見下ろしていて眼が合う。

「…じ、じゃあ、また明日、な」
「う、うん…」
そう言ったものの繋いだ手を離せない。
しばらくまたも沈黙が降りたものの、翔太が思い切ったように俺の腕を引く。
「っぇ、あ」
真っ赤な顔の翔太が近付いたと思ったら、ちゅ、と唇に軽い感触。
「っな、何…っ!」
少ないとは言え人が通るかも知れない道の上でのいきなりのキスに思わず手で口を覆ってしまう。
絶対俺顔真っ赤だ。

「〜っこ、恋人だからいいだろっ!そ、それじゃあなっ!」
自分でしたくせに俺以上に真っ赤になってそう言うと翔太はバッと自分の家の方へ駆けだす。
俺はしばらく茫然とその後ろ姿を見送ってから、ようやくハッと我に返って急いで家に帰った。
まだ翔太と恋人同士になったなんて信じられない。
でも、く、唇に感触が残ってるし、ピンクの箱も俺の鞄に入ってるし。
ほ、ほんとなんだよな…?なんだか夢みたいだ…!

俺は実は俺が翔太のことを好きなことも、翔太が俺のことを好きなこともバレバレでクラスメイトは密かに応援していたということを、翌日翔太と二人登校したところを思い切り山下に冷やかされて真っ赤になるまで知らなかった。




110213
(ようやく付き合い始めたんだ?言っとくけどバレバレだったからな、特に翔太は央に近付く男皆威嚇してたし)
(ば、バレバレって…!)
(う、煩い!とにかく央には近付くなよっ!)

皆様前編ばっかりの更新にやきもきされたようですね、遅くなってすいません(汗)
お待たせしました後編です!
しかし……あ、甘甘を目指したのに…あれ?
純情な攻めって難しいなぁ…