バレンタイン1 | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -


ミルクチョコ的告白 前編


「よ、よし…で、出来た…!」
悪戦苦闘しながらも何とか作り上げたチョコレート。
ちょっと不格好だけど、想いは十分こもってるはず!
後はこれを綺麗に包むだけ!
そう、俺、吉田央(よしだひろ)は今年のバレンタインに告白するのだ!
俺、ということからも分かる様に、俺は性別男だ。
しかも告白する相手も男。

相手は小さい頃からの友人の西岡翔太(にしおかしょうた)。
所謂幼馴染っていう奴だ。
俺は顔も普通などこにでもいる平凡だけど、翔太は俺と違って昔から何でも出来る、クラスの人気者だった。
優しく何でも出来る翔太は男女を問わず人気者だった。
更に昔は美少年だった翔太は、今や立派な美青年となってモテモテとなっている。

家が近く、幼稚園時代から一緒にいた俺は、どんどん格好良くなる翔太のことが気付けば好きになってしまっていた。
自覚したのは中学生の頃。
翔太が告白されたって聞いて凄くショックだった。
俺が翔太のこと一番好きなのに、って思ってハッとした。
俺、女の子よりも翔太のことが好きだって。
でもそういうのって変だと思ってずっと隠してきた。
親友でいれたら十分だって。

…まあ実は高校入る時にふっきろうと思って翔太と違う高校受けようとしたんだけどさ。
でもなぜか翔太はすぐそれを知って俺に詰め寄ってきた。
忘れられないぜ、俺、あんとき風呂入ってたんだよな。

◇◇◇◇
「央っ!!」
ごしごしシャンプーをしてた俺の眼の前でバーンッと開いたドア。
息を切らせた翔太がドアを開けた勢いのまま詰め寄ってくる。
「央っどういうことだよ男子高って!!俺と一緒に公立目指すんじゃ無かったのかよ!」
ぽかーんと見つめる俺の肩をがっと掴み翔太が顔を歪めて叫ぶように言ってくる。
驚きすぎて言葉の出ない俺に翔太は焦れたのか「なんとか言えよっ!」と詰め寄ってくる。

「え…だって俺、高校入ってもついてく自信ないし…私立なら補講とかで留年しなくてすむかなって…」
翔太のその勢いに押されついつい俺はそう言ってしまった。
だって本当のことなんて言えるわけないし、他に思いつく理由も無かったから。
今考えるとそれは公立もだろって突っ込まれたらまあそうなんだけど。
あの時は結構パニックになってたからそれしか思いつかなかったんだ。

翔太はそれを聞いてさらにぐっと近寄って来た。
「勉強なら俺が見てやるから!だから央も公立にするだろ!?」
なっ!?と鬼気迫る様子で迫られ俺はその勢いに押されて思わず頷いてしまった。
いや、実際何かあの時の翔太は凄かったんだって!
美形が凄むと恐ろしいってのを実感したぜ。

とにかく俺が頷いたことでほっとしたのか、翔太は肩を掴んだ手から力を抜いてほっとした顔を見せた。
そのままなんか感動(?)のあまり翔太が抱きついてきそうだったから、俺は思わず呟いた。
「…あのさ、翔太、俺、今風呂入ってるとこなんだけど…」
さすがにこれ以上開けっぱなしにされると寒い。
という思いでそう言うと、ハッとしたように翔太は俺を見て、バッと勢いよく後ろを向いた。

「わわわわわわわ悪いっ!!み、みみみみ見るつもりは…っ!!」
あわあわといきなり挙動不審になる翔太を不思議に思いながらも、俺はそんなことよりも気になっていることを口にした。
「いや、それは別にいいんだけどさ…そろそろドア閉めてくんない?」
俺裸だから寒くて…と続けると翔太は慌てて風呂から出て行く。
「っわわわ悪い!!」
わたわたドアを閉める翔太は耳まで真っ赤になっていた。

ていうかいきなりどうしたんだ?
いきなり風呂にまで押し掛けてきて…
ばたばたと何やらドアの向こうで暴れているような音に首をかしげる。
と、物音が止んで少しだけドアが開く。
「ひ、央…高校だけど、絶対俺と一緒に公立だからな、約束だぞ」
耳まで真っ赤な翔太の後ろ姿が見え、そう言ったと思うとドアを閉めてばたばたと風呂場から出て行く音がする。

あ〜あ、結局翔太から離れられないじゃん…
がっかりしたのはしたけど、ちょっとほっとした。
やっぱり今更翔太のいない生活なんて考えられないしな。
親の説得のし直し大変だろうな〜と思いながら風呂から上がった俺は驚いた。なんと翔太が既に説得してくれていたんだ。
しかも「俺が央のことは責任を持ちます!」とか熱弁振るってたし。
俺の親も「翔太君がいれば安心だわ〜」とかなんとか言ってすぐ納得したし。
まあとにかくこういうわけで俺は翔太と同じ高校に行くことになったわけだ。

◇◇◇◇
翔太は宣言した通り俺の勉強を見てくれてる。
勉強だけじゃなく、俺が困ってたらすぐに助けに来てくれる。
俺はそんな翔太の優しさに更に翔太のことを好きになったんだけど、それは俺だけじゃ無いわけで…
そんな翔太の姿を見て女子達も翔太を好きになったんだ。
翔太は俺だけに優しいわけじゃ無くて、誰にも優しいし、仕方ないって分かってるんだけどさ…

でも段々女子に囲まれてる翔太を見てるのが辛くなって来た。
だから、今度のバレンタイン、告白して降られたらきっぱり諦めようって決めた。
これ以上傍でそんな姿見てるなんて耐えられそうもないし、もしも翔太が誰かと付き合うことなんかになったら…
告白なんてしたら、もう友達でもいれなくなるかもしれないけど、恋人といる翔太を見るよりはマシだ。
最後に翔太のことが大好きだって伝えて、諦める。

最初から駄目だろうってのは分かってるけど、俺がどれだけ好きかってのはそれとは別だから。
下手くそだけどチョコも手作りして、精一杯の俺の気持ちを伝える。
翔太は優しいから受け取ってくれるぐらいはするだろうしな。
チョコは難しいのじゃなくて、溶かして固めただけの簡単な物。
綺麗なハート形にしたかったんだけど、ところどころ歪なハートになってるのはまあ初めてだから仕方ない。
箱にチョコを入れて最後にラッピングをする。

といっても不器用な俺に高度なことは出来る筈もなくて袋に入れて閉じるだけの簡単なタイプ。
さすがにピンクってのはあからさますぎるか、と選んだのは薄いブルー。
それでも良く見ると止めてる紐の先にはハートマーク付き。
百均で買った奴だけど、完成した姿はそこそこ良い感じ。
これを渡して、告白する。
モテる翔太は明日は忙しいと思うけど、ちょっとだけでもいいから時間貰って告白するぞ!
チョコを大切に鞄にしまい、明日に備えて俺はドキドキしながらも眠ることにした。

◇◇◇◇
バレンタイン当日、俺は自分の考えが甘かったことを悟った。
「おはよう、央」
「おは…」「翔太く〜んっ!!今日大事なお話あるから、放課後会ってくれな〜い?」
「あっずる〜い!!私もお話あるから放課後に会って欲しいなあ」
朝、一緒に登校する時間にでも約束を取り付けよう、と思っていたのだが、家の前に待ち伏せしていた女子によりあえなく失敗。
しかも女子が翔太にくっついているせいで俺は全く翔太と会話が出来ない。
翔太も何やら俺に言いたそうにしていたのだが、女子の囲いから出て来れないのか、ちらちら視線だけ俺に送ってきた。

俺は仕方ない、と後で、と口パクで伝えてやった。
すると翔太はほっとした顔をした後すまなさそうに苦笑してきた。
俺はいいよ、と苦笑し返して女子の囲いの後ろを歩く。
頭一つ飛び出た翔太の後ろ姿をぼおっと見ながら考える。
朝でこれじゃあ、きっと机とかも凄いことになってるんだろうな…
その中の一人と翔太が付き合うことなんかになったりしたら…っ
やめやめ!!そういう想像はやめとこう!!

それよりも俺には誰かくれたりしないのかな。
いや、俺は翔太が好きだから気持ちには答えられないんだけど。
ほら、俺も一応男の子だから、一つぐらいは欲しいんだよね。
ま、俺みたいな普通な奴にチョコ渡さなくても、各学年に一人ずつイケメンがいるからそっちに流れてくか。
ちなみに1年のイケメンは言わずもがな翔太のことである。
翔太は友人いわく爽やかな年下系…らしい。
その友人もまあまあなイケメンなので多分いくつかは貰うんだろう。

と、どうでもいいことを考えていると学校に到着した。
ちら、と翔太の様子を見ると、どうやら大勢に放課後の約束を取り付けられているらしい。
困った顔で取り囲む女子達に何やら言っているが、多勢に無勢。
多分翔太は押し切られてしまうだろう。
翔太は優しいので強く出られると弱いのだ。
告白とかはいくら強気で来られても頑として断ってるんだけど。
友人は「翔太は彼女は作らないだろうからな」って言ってにやにやしてたけど。

まだまだ時間がかかりそうなので先に教室に行くことにする。
がらっと開けると机を見て落胆する男子やにやつく男子。
この日ほどはっきりと命運が別れる日も無いよな、と思いながら俺も自分の席に座る。
ちなみに翔太の席は教えられなくても分かるほどチョコが山積みになっていた。
思った通り何もない机に教科書を入れる。
「よ、今日はすげーな、あれ」
前の席にどかっと座り、翔太の机を見てそう言う山下にそうだな、と返す。

「翔太は望みないって知ってるだろうのに」
「別にそんなの分かんないだろ」
山下の言葉にちょっとむっとしてそう言うと、まじまじと見られる。
「…あ〜…そうだね〜分かんないね〜」
「馬鹿にしてんのかっ!」
明らかに子供をあやすようににやついて言う山下に怒るが、にやにやと全く反省していない。
山下は時折こうやってからかってくるのが玉に傷だ。
普段は良い奴なのに。

「それよりさ央、チョコ欲しい〜?」
「は?いきなりなんだよ」
がしっと肩に腕を回されたと思うと、唐突に聞かれきょとんとしてしまう。
「だからチョコだよ、チョコ」
「…別に」
俺は女の子が好きなわけじゃ無いし、特別甘い物が好きなわけでも無い。
それほど興味も無いのでそう答えて重い腕を外そうとするが山下は腕を回したままごそごそとポケットを探っている。
それよりも早く腕を外せ、と言おうとした俺の眼の前に山下は手を差し出す。

「ほら、央、チョコやるよ」
確かに山下の手のひらにはチロル君が3つ転がっている。
いきなりなんだ?と思いながらも、ぐいぐい押しつけてくる山下に、仕方なく受け取ろうと手をあげかけた時。
「山下、央はお前のチョコなんて要らないってよ」
ぐい、と大きな手が山下の手を押しのけ、ついでに俺の肩にあった手もはたき落してくれる。
「ひっで〜翔太!」
「ふざけんなよ山下」
へらへらしている山下に翔太はちょと怒り気味。
翔太が怒るのは珍しいけど、山下相手に限ってはよくあることなので気にしない。

「翔太、走って来たんだ?」
はあ、と息を整えている翔太を疑問に思い聞くと、「ああ」と翔太がこちらを向く。
「央があがってくの見えたから、急いで追いかけた…ってそうだ、央、きょ…」
「翔太く〜んっ!!」
何か言いかけた途端に入口の所から女子に声をかけられ、翔太が困った顔をする。
にこにここちらを見ている女子に、翔太はちら、と視線をやってからなおも俺に話しかけようとするんだけど、再度呼ばれて眉を寄せる。

翔太って人を無視すること出来ないんだよな、と思いながら俺は「呼んでるよ」という。
こういう時は行かせてやるのが一番いいってのは長年の付き合いで分かってる。
翔太はしばし逡巡したみたいだったけど、行くことにしたのか「待ってて」と女子に声をかける。
「央、今日の放課後だけど、話があるからちょっとだけ残っててくれる?俺、用事あるからちょっと遅れるかもだけど…必ず戻ってくるから、待ってて、お願い」
必死そうな表情でそう頼みこまれ、良く分からないが「いいよ」と頷く。
途端に嬉しそうにぱあっと笑う翔太に、俺も嬉しくなる。
やっぱり好きな人は笑顔でいてほしいもんな。
それに俺もその時に告白できるし。

翔太は絶対だぞ、と念を押してから女子の方へ向かう。
告白かな、とか考えていると慌てたように翔太が戻ってきてどうしたんだろう、と思う。
ばたばたと俺の前まで戻ってきた翔太は俺の肩をがっと掴んで口を開く。
「央、山下なんかから絶対にチョコ貰ったら駄目だぞっ!!ていうか誰からも貰ったら駄目だからなっ!!」
「え…お、俺なんかに渡す奴いないと思うけど…」
「そんなこと無いっ!!とにかく…駄目だからなっ!!」
「う、うん…」
お風呂事件を彷彿とさせる鬼気迫る勢いに大人しく従う。
するとぱっと翔太は笑って約束だぞ、と言って今度こそ女子の方へ向かう。

な、なんだったんだ…?
茫然としてると山下がくっくっと笑いながら声をかけてくる。
「気合入ってるなあ、そう思わねえ?央」
「はあ…?」
ぽかんとした俺の隣で山下はにやにや笑って翔太の背中を見送っていた。




110211

今回いつにもましてタイトルが悲惨(笑)
あまり気にしないでやってください
今回の企画は珍しく受→攻な感じに挑戦です
温かく見守ってやってください…