20万hit後編 | ナノ
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二重人格!?な彼 後編


「拓、少し待っててくれるかな」
HR終了と同時に光がそう声をかけてくる。
「すぐ済むから」
俺の返事は聞くまでもなく待ってろ、ということなんだろう、光はそれだけ言うと鞄を残したまま扉の方へ向かう。
見るともなくそれを視線で追っていた俺は、扉の所にいる人物に気がついた。
あれは佐田さんだ。
どうして違うクラスの佐田さんがここに、と疑問に思うが、佐田さんに光が話しかけたのを見てああ、光か、と思う。

何やら言葉を交わす二人に帰っていく生徒たちが注目している。
当然か、校内一の美男美女の2ショットだもんな。
う、なんだか胸が痛かったような…?
「よ、芦田はまだ帰らねえの?」
ぼおっと二人を見ていると軽く頭に衝撃が走る。
「戸田」
帰り支度を終えた戸田が俺の頭に片手を乗せたまま俺の見ていた方を見てああ、と声を出す。
「そっか東堂か、にしてもあの二人美男美女でお似合いだよな〜、な、あの二人って付き合ってるって噂、マジなのか?芦田なら幼馴染だし知ってんじゃないの?」
ひそ、と声をひそめて顔を近づけて聞いてくる戸田を俺は押し返しながら口を開く。

「知らないよ、大体幼馴染だっていっても光はそんなこと全然言ってくれないし…」
なんだか自分で言ってて悲しくなってきた。
そうだよな、最近光が何考えてるか分かんない時が増えたんだよな…
昔は何するにしても一緒だったのに、いつからか光は俺を置いて一人で不良になっちゃうし…
それに佐田さんのことだって一言も聞いたことない、というか光から恋愛関係についての話を一切聞いたことがない。
光はかなりもてるし、そういうことに全く興味ないわけじゃないと思うのに…
やっぱり光はもう俺のこと幼馴染じゃなくてただの使い勝手のいいパシリぐらいにしか思ってないのかな…

そう考えるとなんだか気分が落ち込んでしまう。
「芦田?どうした…」
「拓!」
いきなり元気のなくなった俺に不思議そうに戸田が顔を覗き込むように近づいてきたときいきなり光が俺の名前を呼んだ。
ネコを被った光にしては強い響きに驚いて顔を上げるとこちらをまるで睨みつけるように見ながら光が近づいてくる。
その優等生モードの光に似合わない眼光の鋭さに戸田も眼を丸くしている。
え、光がネコ被りの時にこんなまるで素の時みたいにキツイ顔するなんて…

どうしたんだろう、と俺も眼を丸くしている間に光は俺のところまで来てしまう。
「拓、少し調子が悪いみたいだね、今日はもう帰ろうか、ということで戸田君、拓は俺が送るから安心して」
にっこりとさっきまでの不機嫌な顔が嘘のように爽やかな笑顔で光はそう言って俺の手を引く。
「え?あ、う、うん」
戸田は戸惑いながらも俺から離れて、光は戸田が離れるとぐい、と俺の腕を引いて立たせてくる。
掴まれた腕の力がいつもより強くてまだ光が不機嫌なことが分かる。
本当にどうしたんだろう、学校であんな顔するなんて…
俺がまだよく分からなくて戸惑っているにも関わらず光はさっと荷物を持って扉の方へ歩き始める。
俺の腕を掴んだままなので当然俺もつれられて歩くことになる。

「ごめんね佐田さん、話はまた今度聞くよ」
「あ…」
俺たちを驚いたように見ていた佐田さんに光が声をかけたことで俺はようやく佐田さんがまだいたことに気付く。
え、佐田さんとの会話が終わったから帰るんじゃなかったのか?
というか今の光の言い方だとまだ話は終わってないみたいだったけど…
光はそういうと佐田さんの返事も聞かずに教室を後にする。
いつもよりも早足に歩く光に元々の身長の差もあって俺はついて行くのが苦しくなってくる。

「ちょ、光!早いって…!」
足がもつれそうになりながらも前を行く光にそう声をかけると光はほんの少しスピードを落としてくれる。
やっと普通に歩ける状態になりほっとするとさっきの佐田さんのことを思い出す。
まだ話があったんだよな?別に俺は体調が悪いってこともないし、大事な話なら今から戻ってでもしといたほうがいいよな。
「なあ、光、佐田さんと話があるなら今からでもしていいぞ?俺、別に体調が悪いわけじゃないし、一人で帰れるし…」
親切心から俺はそう声をかけてやったのに、光はちろ、と振り向いたかと思うと俺をぎろっと睨みつけて低く小声で呟く。
「話なんざ無えよ、それにてめえ今日はチームに行くっつっただろうが、忘れてんじゃねえだろうな?ああ?」
「わ、忘れてないけど…」
「だったら黙ってサッサと歩け」
それだけ言うと光はまた前を向いて歩きだす。
なんだよ、なんでそんな不機嫌なんだよ?
学校でも素の光になるほどムカつくことがあったのかよ?
…佐田さんが理由でそんなふうになるのかよ…

ずき、とまた胸が痛む。
俺、体調が悪くないって言ったけど、やっぱり病気かもしれない。
だってなんだかずきずきするのが酷くなってきてる気がする。
すぐに収まらなくて今もまだじくじくするし…
結局俺と光はそのまま家に着くまでお互い口をきかず、気まずい気分のままチームに行くことになってしまった。

◇◇◇◇
「芦田さん、東堂さんとなんかあったんすか?」
「別に…」
着替えた光に連れられ、やってきたチームの溜まり場の喫茶店で俺は入れてもらったオレンジジュースを飲んでいた。
「そんなことないはずっすよ〜!じゃなきゃ東堂さんがあんな機嫌悪いはずないっすって」
チームの人たちがぶつぶつ何か言ってるけど、特に光と喧嘩したわけでもないし、別に何もない。
ただいつもと違って帰りから口をきいてないだけで。

ちら、と奥まったテーブル席のソファにどかっと座った光の方を見る。
不機嫌そうに顔を顰めてチームの人から報告を聞いている。
いつもなら幹部の人からの報告の間も俺もあのテーブル席の隅に座ってるけど今日はカウンターに座っている。
いつもならよく知らない不良の中に一人でカウンターに座るなんてしたくないけど、今日は別だ。
光と同じテーブルに座るなんて気まずくて、それなら一人の方がまし。
そう思ってここに座ったんだけど、さっきからチームの人が代わる代わるやって来てはテーブル席へどうぞ、とか早く仲直りしてください、とか言ってくる。
別に喧嘩なんかしてない、って言うんだけど全然信じてない感じで、頼むから仲直りしてください、って何度も言われる。

大体光の機嫌が悪いのは俺のせいじゃなくて佐田さんが理由だってば。
学校でも思わずネコが外れるぐらいなんだしさ…
思い出したらまたずきずきしてきた。
俺、光の幼馴染として一番光のこと知ってるつもりだったんだけどな…
最近はよく分かんないし、なんだかそういう風に思ってるのって俺だけだったのかな。
光は俺なんかと、もう仲良くなんてしたくないのかな…

段々そう思ってきて悲しくなってきた。
今だって光は不機嫌なままだし、ほんとは俺なんてもう一緒にいたくないんじゃ…
ただ幼馴染だからここに連れて来てくれてるってだけなんじゃ…
も、もう俺のことなんて嫌いになっちゃったんじゃ…っ
じわっと視界が滲み始める。

「芦田さん、お願いですから…ってわあああ!!!芦田さんっ!?」
急に黙り込んだ俺の顔を覗き込んで話しかけてきてた人が大声を出す。
いきなり泣き始めたら誰でも驚くよな、って思うけど一度出たら止まらない。
俺って、昔から落ち込み始めたら止まらないんだよな。
「ああああ芦田さんっ!?ど、っどどどどうしたんすか!?」
「ぅ…っ、う…」
おろおろと慌てるのが分かるけど、俺も止められないんだって。
せめて誰にも見られないように、と深く俯いているとガタン!と荒々しい音が聞こえた。

「ど、どうし…うわっ!?」
「てめえ…拓に何しやがった」
ダン!とすごい音がしてカウンターに人が叩きつけられ、光の低い声が聞こえる。
その気迫の籠った声におそるおそる顔をあげるとチームの人の胸倉を掴んでカウンターに押しつけている光がすぐ横にいた。
いつの間に、と思う間も光はぎりぎりと手に力を込める。
「覚悟は出来てんだろうなぁ…」
本気で激怒している光の表情に戸惑う。
滅多なことじゃ光は本気で怒ったりしないのに…

「…ぶっ潰す」
物騒なことを低い声で呟く光に慌ててチームの人が止めに入る。
「と、東堂さんっ!落ち着いてくださいっ!!」
「まずは話を聞きましょうって!!」
「煩えっ!!」
止めようと光の腕を掴んだチームの人を振り払って光は怒鳴る。
「拓が泣いてんだ、それだけでぶっ飛ばす理由は十分だろうが!」
え、と俺が驚いている間にも光は拳を振り上げている。

「東堂さんの本気の拳は駄目ですって!」
慌てて止めに入るけど簡単に振り払われてしまう。
茫然とそれを見ていると幹部の人に声をかけられる。
「芦田さんっ!あいつが何かしたんすか!?違いますよねっ!?」
懇願するように聞かれてこくんと頷く。
だって実際俺が勝手に泣きだしたんであって彼は関係ないし…
「東堂さん聞きましたよねっ!?そいつは何もしてませんって!!」
だから拳を納めてくださいい〜!!と光の腕に抱きつく格好のチームの人が叫ぶと光はまだ胸倉を掴んだままながらも俺に問いかけてくる。

「…拓、何もされてねえのか」
「う、ん…何も、されてない…」
びっくりして涙も止まった俺の顔を見て光は眉を顰め、ようやく胸倉を離す。
げほげほ咳き込むその人をチームの人が支えるのを横目に光は俺の腕を掴む。
「…裏に行く、誰も入れるな」
そのまま裏にある部屋に俺を引っ張ったまま向かい始める。
初めはどうしようか悩んだけど、声の低さとは裏腹に光の手が俺を気遣うように優しかったから、俺はおとなしく光の後に続いた。

◇◇◇◇
「…なんで泣いたんだよ」
ぶっきらぼうに光がそう聞いてくる。
奥にあるここはソファが置いてあって寛げるようになってある。
そのソファに並ぶように座って光は俺の顔を見ないまま言う。
「理由があんだろが、言え」
命令口調だけど俺を心配しているのが分かる。
そういえば昔から光は言い方は乱暴だけど優しかったな。
そう思うとまたじわっと涙が滲む。

「…ひ、かるが…」
「俺が?」
心外そうな光の声が聞こえるけど、俺はぽつぽつと思ったことを言った。
どうせ嫌われてるなら言いたいことぐらい言ってしまおう。
「…お、おれの、こと、き、きらいって…おもっ…」
ひく、としゃくりながらそう言うとはあ!?と光が驚いたように見てくる。
「誰がんなふざけたこと言いやがった!?」
その剣幕にちょっとビビりながらも口を開く。
「だ、だって…っ、光、ずっと不機嫌で…っ俺のこと、嫌だけど、幼馴染だから仕方なくなのかなって…」

ぐすぐすと鼻を鳴らしながらそう言うとはあ、と呆れたように光が溜息をつく。
「あのなあ、俺はどうでもいい奴にはここまでしないっつの」
馬鹿が、と言いながらもごしごしと俺の眼元を拭ってくれる。
その優しい手つきに背中を押されるように俺はずっと疑問に思っていたことを聞いてみる。
「だ、だって光、俺に何も言わないで不良になるし…」
小さい声でそう言ったのに光はまたはああ!?と驚いたように声をあげる。
「お前…自分で言ったことも忘れたのか!?」
「え、ぶにゃっ!?」

「にゃにひゅるんびゃよお〜」
涙を拭ってくれていた手がぶにっと頬を引っ張られて非難する視線を送るが光はそんな俺に呆れたように息をつく。
「はあ…ったく言いだしたこいつが覚えてないとは…」
ぶつぶつ呟く光は俺の頬を引っ張ったままで恨めしそうに俺を見てくる。
えええ〜俺、なんか忘れちゃってんの!?
確かに光に比べたら忘れっぽいけどさあ…

一生懸命に記憶を思い出そうとするけど、全く思い出せない。
それが光にも分かったのか、呆れたように溜息をつかれてしまう。
「…思い出せないのか…」
「う…ごみぇん…」
謝ると光ははあ、とため息をひとつついた後両手を頬から離したかと思うとぐいっと俺の顔を包むようにして引っ張る。
「わっ!?」
あっという間に至近距離に光の顔が来て身体を引こうとするが光は離してくれない。
「な、なん…」
「いいか拓、覚えてなくても自分の言ったことには責任を持て」
「う、うん」
なんだか真剣な表情の光に思わず凝視してしまう。

言ったことに責任は持つけどさ、どうしてこんな光が真剣なんだろ?
「しっかり聞いたぞ、拓、後から無しだっつっても聞かねえからな」
にや、と光は笑ってようやく手を離してくれる。
「う、うん…?」
な、なんだか早まっちゃったような気が…?
「ったく、ほら、拓これやるから馬鹿なこともう考えんじゃねえぞ」
ごそごそとポケットから光が取り出したのはころんとした飴で。
「ん」
光がぽいっと口にいれてくれる。
昔から俺が泣いたら飴くれたんだよな、俺が甘いもの好きなのってこのせいなのかも。
もごもごと口の中で飴を動かしながらそう思っていると光がくしゃ、と頭を撫でてくれる。

「好きなもん奢ってやるよ、どれでも好きなの頼め」
おい、と光が表の方へ声をかけて俺にメニューを渡してくれる。
俺は奢りならパフェにしようかな、とぱらぱらとメニューを見ながら、そういえば俺の忘れてることってなんだろう、と思う。
光はしっかり覚えてるみたいだし、不良に関するようなことらしいんだけど…う〜ん、そんなこと言ったかなぁ。
ちらっと幹部さんと話してる光を見たら機嫌がいつの間にかなおってるし。
ん〜なんだろうな…思い出せないなあ。
ま、いざとなったら光に聞けばいっか。
俺は気にせず苺パフェかチョコパフェかを決めるため真剣に悩み始めた。

◇◇◇◇
「ふえぇ〜ん!」
「なくなよたく!」
「だってぇ、ひかるが〜!ひかるがけがしたぁ〜!」
「なくなよ、おれはだいじょうぶだから」
「ううっ…ひっぅ、ぅ…」
「たくこそだいじょうぶか?けがしてないか?」
「だいじょぶ…ひかるは?いたくない?」
「いたくない、だからたく、いじめられたりしたらおれにすぐいえよ、おれがまもってやるからな」
「でも…ひかるが、ひかるがけがするのやだあ〜!」
「だからなくなってば…なあ、たく」
「ふ…?」
「おれがつよくなってまもってやるから、だからたくはずうっとおれのだぞ」
「ひかるの?ひかるとけっこんするの?」
「いやか?」
「うぅん…たく、ひかるとけっこんする!ひかるがつよくなったらひかるのおよめさんになる!!」
「やくそくだぞ、たく!」
「うんっ!やくそく!」

◇◇◇◇
幼いころの約束を律儀に守った光に、約束の履行を迫られて慌てることになることをその時の俺はまだ全く知らなかった。




110112
(う〜んどっちがいいかなぁ…)
(この街では一番強くなったし…もうそろそろいいかもな)


コメントで気に入っていると言っていただけて嬉しかったです!
この二人はこんな感じになりました(笑)
それではこれからも拙い文章ですがよろしくお願いします!