ぐあいがわるいことをけんめいにかくします | ナノ
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ぐあいがわるいことをけんめいにかくします いち


あの不良さん襲撃事件から数日後、俺は今日崎田君のお見舞いに病院に来ていた。
「トモちゃん荷物もつよ〜」
「あ、ありがとう茜君」
学校が終わってから茜君と真淵さんと一緒に来たんだけど、ちょっと注目されているのでこんなふうに優しくされると恥ずかしい。
うっかり忘れちゃいそうになるけど、二人とも不良っぽいけどすっごく格好良いんだよね。
茜君は明るい雰囲気でとっても華やかな感じだし、真淵さんは硬派で頼りがいのある感じでタイプは違うんだけど二人とも思わず眼がいっちゃうような存在感があるっていうか…
それに比べて俺は特にこれと言って特徴があるわけでもない普通の人。
背だって高い二人に挟まれると小さく見えてしまう。
一応標準よりちょっと下ぐらいはあるんだけど…

「どうしたの?」
ちょっと周りの視線に気後れして足が遅くなり、二人から少し遅れるとすぐに気付いた茜君が声をかけてくれる。
「あ、ううん、何でも無いよ」
「そう?でもはぐれちゃわないように手を繋ごっか」
にこ、と笑うと茜君はそのままするっと俺の右手と手を繋いで歩き出す。
俺は左手にお花を抱えてるから右手を引っ張られるのは分かるんだけど、ええ、でもなんで繋ぐ必要が…?
普通男子高校生同士で手を繋いだりしないよね?
え?あれ、違う?

え、え?と繋がれた右手と茜君の横顔をきょろきょろ見ていると左にいた真淵さんが口を開く。
「飲み物とか買っていかなくてもいいか?」
「いいんじゃない?他の奴らがもって行ってるだろうし」
「そうか、ま、無かったら後で買いに行くか」
ええええ真淵さん手については完璧スルーですか!?
比較的真淵さんは感覚がまともっぽいと思ってたんだけど…
それともやっぱり俺が変なの?
手を繋ぐのは普通なの??
いやいや周りの視線が手に集中してるじゃん!
うううっは、恥ずかし…!!

「か、可愛い…っ!」
恥ずかしくてガサ、と花で顔を隠してあんまり見られないように茜君の影に入ろうとひっつく。
上から茜君の声が聞こえたので何と言ったのか聞き返そうとちょっとだけ顔をあげて見上げるとにこにこ笑った茜君。
「トモちゃん、着いたらケーキ食べようね」
満面の笑みの茜君にかああと顔が赤くなる。
だ、だってすっごく優しい顔で笑うんだもん!
きゅって手も握られるし、こ、こんな格好良い人にこんなことされたら誰だってドキドキしちゃうよ!

「う、ん…」
恥ずかしくなってまた花に顔をうずめるようにして茜君にひっつく。
茜君はとっても嬉しそうににこにこ笑っている。
ううう、最近茜君のせいで俺はドキドキしっぱなしなんだ。
元々茜君は優しくしてくれてたんだけど、最近はちょっと違うって言うか…
優しいのはそのままなんだけど、気付いたらじっと俺を見てることとかあって、その、何ていうかその時の眼が今までとは違うような…
ずっと見てられるとぞわぞわするっていうかもぞもぞするっていうか…
とにかく、なんだか分かんないけどすっごくドキドキするんだ。
こ、こんなのおかしいから普通にしようって思ってるんだけど…

「着いたぞ、ここだ」
やっぱり顔が赤くなっちゃうよ〜!とどうすればいいか悩んでいるうちに病室についたのか、真淵さんがそう言う。
「んじゃ入るよ〜」
ガラッと茜君が扉を開けて中に入る。
ってええ!?手、手を繋いだままなんですけど…っ!
あわあわする俺に構わず茜君はベッドの方まで歩いて行ってしまう。
こ、個室とはいえ崎田君に見られちゃうよ〜!

「総長」
聞いたことのない声にえ、となる。
今の崎田君の声じゃ無かったよね、え、じゃ、誰…
「おや、そちらが…」
「そ、トモちゃん」
茜君の返事の後にかたん、という椅子の動く音とかつかつと誰かの足音。
おそるおそる視線をあげてみると。

「はじめまして、ですね。オークの副総長の兵頭です、よろしくお願いします」
にこ、と笑う優等生みたいな感じの爽やかな格好良い男の人がいてえ、と思う。
え、この人今、副総長って…?
「仲がよろしいようで安心しました」
え?仲がって…
にこにこしている兵頭さんの視線を追っていくと、そこには…!!
「あ、あ、いえ、あのっ…!」
そそそそうだった手を繋いだままなんだったあああ!!!
慌てる俺ににこ、と笑いかけると「お席にどうぞ」と奥にあった椅子を示してくれる。
いや、その、え?手についてはそれだけ?

俺は上機嫌な茜君に手を引かれて椅子に座らされる。
ううう恥ずかしい…!
にこにここっちを見てくる兵頭さんと崎田君の温かい視線がいたたまれない…!
って、あ!そうだ崎田君に御礼言わないと!
「あ、さ、崎田君、ありがとうね、このお花どうぞ、あと…怪我、大丈夫…?」
抱えていたお花を示してベッドに上半身を起こして座る崎田君に声をかける。
お花は兵頭さんがベッドのすぐ脇に置いてくれる。
顔とかには目立った大きな怪我は無いみたいだけど、入院するぐらいだもんね。
もしも見えないところに酷い怪我があったらどうしよう…

そう不安になっているとにこっと崎田君は笑って答えてくれる。
「大丈夫ですよ、ちょっと助骨にヒビが入ったんで一応入院ってことになったんですけど、もうすぐ退院出来ますから」
「ひ、ひび…」
「あ、って言っても日常生活くらいならそれほど痛みませんし、俺が弱かったからですから気にしないでください」
思わずつぶやくと慌てて崎田君がそう声をかけてくる。
崎田君は優しいから何も言ってこないけど、俺のせいだよね…?
ヒビが入っちゃうなんて…

罪悪感で一杯になっているとぎゅっと繋いでいた手を握られる。
「崎田」
思わず横に座っている茜君を見上げると茜君は真っ直ぐ崎田君を見て名前を呼んだ。
「その怪我は、元はと言えば俺のせいだよね〜、ごめん」
その言葉に崎田君だけでなく兵頭さんも真淵さんも驚いたように眼を見張る。
「え、あ!いえっ!柏木さんのせいなんかじゃ…!」
「…っどうしたんだ!?頭でも打ったのか!?」
ぎょっとしたように崎田君と真淵さんがそう言うと茜君はむっとしたように口を開く。
「真淵失礼だし〜、俺だってちょっとは反省したんだよ?」

ありえない、とぶつぶつ言う真淵さんと会話する茜君。
でも、もしかして茜君、俺が気にしてるの分かって自分が悪いって謝ってくれたのかな…?
ぼんやりと茜君の横顔を見ていると真正面から視線を感じてそちらを向く。
兵頭さんがじっと見ていてどき、としてしまう。
何ていうか兵頭さんって荒高じゃ見かけられない品の良い美形って感じで慣れて無いんだよね…
「…あなたは凄いですね」
「え?」

慣れない見るからに知的な美形にうろたえていた俺はぽつりと兵頭さんが零した声を聞きとれず聞き返すが、兵頭さんはそれには答えずにふ、と微笑する。
優等生っぽい冷たい感じが少し溶けたその笑顔にどきどきしてしまう。
な、慣れて無い上にそんなふうに笑うのは駄目だよ〜!
「…これからも総長をよろしくお願いしますね、川島君」
「は、はい…こちらこそ…?」
何故か丁寧にお願いされて思わず返事をしてしまう。

というか茜君をよろしくって…どっちかというと俺の方が茜君にはお世話になってるんだけど…
「あ、そうだトモちゃん、ケーキ食べよっか!」
真淵さんとの言い合いが一段落した茜君が思い出したようにそう言って俺も真淵さんに持ってもらっていたケーキの存在を思い出す。
「あ、崎田君!ケーキもお見舞いだから、好きなの選んでね」
真淵さんがテーブルにケーキの箱を置いて中身がよく見えるように開いてくれる。
一応予備も入れて5つ買ってきておいて良かった。
「ありがとうございます!川島さんから選んでください」
崎田君もベッド備え付けのテーブルを引きだしながらそう言ってくれるけど、これはお見舞いだもんね、やっぱり崎田君に先に選んでもらわなきゃ!

「崎田君のお見舞いだもん、先に崎田君が選んで!」
その言葉に困ったような顔をした崎田君だけど、茜君が先に選びなよ、と言うとようやくケーキに眼を落とす。
「…じゃあ、お先にすいません」
崎田君はショートケーキを選んで真淵さんがそれをテーブルに乗せてあげた。
「次はトモちゃんだよ、好きなのどうぞ」
にこっと笑って茜君がそう言って他の二人もどうぞ、と順番を譲ってくれる。
そう言うと兵頭さんと真淵さんは飲み物を人数分入れに行ってしまったので、俺はそれじゃあ、とケーキを見る。

ううん、イチゴのタルトもおいしそう…でもチョコもなあ…
う〜んう〜んと迷っていると茜君が声をかけてくる。
「どれとどれで迷ってるの?」
「ちょっと待ってね、イチゴとチョコとどっちにするかすぐ決めるから」
待たせちゃいけない、とどちらかに決めようとするんだけどやっぱり迷ってしまう。
どうしよう、とケーキを見ているとすっと大きな手が迷っていたふたつを取り出してしまう。
え、と手の持ち主を見ると茜君はにっこり笑って口を開く。
「俺の分とトモちゃんの分、半分こしようね、そしたら両方食べれるでしょ?」
はい、と俺の前にチョコを、茜君の前にイチゴを置いて笑いかけてくれる茜君に俺はぱあっと顔が明るくなる。
「ありがとう、茜君!」
「いいよ〜」
にこにこ笑う茜君はほんとに優しい!

タイミングよく戻ってきた兵頭さんが抹茶のムースを、真淵さんがモンブランを選ぶ。
けど何故か真淵さんはそのまま箱を閉めて冷蔵庫に入れてしまう。
?と思っていると兵頭さんが俺の疑問に気付いたのか教えてくれる。
「真淵は後でお友達にあげようとでも思っているんですよ、ねえ真淵?」
「あ、そっかここだったけ〜?例の病院〜」
なんだかちょっとにやにやして兵頭さんと茜君が口を開くと真淵さんは心なしか顔を赤くして口を開く。
「俺の分なんだからどうしようが俺の勝手だろ、それより早く食えよ」
なんだかいつもとちょっと様子が違う…?
きょとんとする俺とにやにやした兵頭さんと茜君、納得したような崎田君の視線を受けた真淵さんはいつもより照れてる感じがした。
お友達って誰なんだろ?ケーキあげるくらいだから仲良しなんだろうなあ。

ちょっと興味がわいたけど俺はそれよりも眼の前のケーキの方に今は関心を奪われた。
美味しそう…もうお話も終わったし、食べてもいいよね?
俺はいただきます、と言ってチョコケーキを一切れ口に運ぶ。
ぱく、と食べた途端広がる濃厚なチョコの風味にうっとりとする。
お、美味しい〜!!流石いつも買う激安ケーキとは値段が違うはずだよ!
ふにゃふにゃとした顔でケーキを食べだした俺に続けて、崎田君と兵頭さんも食べ始める。
「トモちゃん、はい、あ〜ん」
もう一口、とケーキにフォークを入れた俺に隣から声がかかる。

横を見るとケーキをのせたフォークを持って茜君がにこにこしていた。
「はい、あ〜ん」
すっと口元に寄せられてその美味しそうなイチゴの誘惑に思わずぱくっと食べてしまう。
途端に今度はみずみずしいイチゴの甘みが口いっぱいに広がってうっとりしてしまう。
甘〜い!!
またもふにゃふにゃした顔になっている俺に「おいしい?」と茜君が聞いてくる。
「美味しい〜!」
素直にそう言うと嬉しそうに茜君も微笑む。

「そっか、良かったぁ」
にこにこする茜君に俺も満面の笑みで返してから今度はチョコを食べる。
うう〜!!やっぱりこっちも美味しい〜!!
ああ…やっぱりどっちかなんて選べないよね、二つともとっても美味しいよ…!
俺もこんどは茜君にチョコを差し出すと嬉しそうにぱくんと茜君はチョコを食べる。
「美味しいねぇ」
とろけそうなほど甘い笑顔でそう言われて顔が赤くなる。
お、美味しい物食べたら笑顔になるけど、美形の人の場合は威力が凄いよ…!
ドキドキしていると茜君がイチゴを食べさせてくれる。
ふにゅんと顔が緩むと茜君がまたとろけそうな笑顔を向けてくれる。
結局俺と茜君はケーキを食べ終えるまで交代にケーキを食べさせあってにこにこと笑いあっていた。
だから俺はそれを目の当たりにして驚く兵頭さんも、真っ赤になって照れてしまった崎田君も、呆れた表情をしていた真淵さんにも全く気付いていなかった。

◇◇◇◇
「…総長の変わりぶりには驚きますね…」
「…だろ、お昼もこんな感じだぞ、なあ崎田」
「ぅ…はい、そうですね…(照)」
「それは…(若干呆れ)」
「見てるこっちが恥ずかしいよな…は〜、これでまだくっついてないとか嘘だろ…?」
「「……(お前が言うか的視線)」」




110130
(あ、ここついてるよ〜(ペロ))
(っ!あ、ありがと…(赤面))
(((………(いたたまれない感じ))))


崎田君のお見舞いなのにイチャつかれてしまう崎田君(笑)
真淵のお友達はキリリクで登場した祥平です
智広と祥平…どっちも癒し系小動物なのでいつかこの二人の出会いも書いてみたいですね〜